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一章 歴史好きのアンナ その三 むかしのはなし

「今回はうまくいきますように…。」


 ガルムは深い渓谷の深みに足を踏み出し落下し始めた。渓谷の岩肌は深い傷が記号のようにいくつかついているのが見える。これは赤竜の習性の一つだ。こうやって自身の縄張りを示す。

 それが見えると言うことは、完全に竜のテリトリーに入ったことを表していた。

「ここから、私はあの野郎のエサか。」

 いつ襲ってくることがあってもおかしくはない。しかし、その状況であっても彼は極めて冷静だった。壁に刻まれた記号を、一つ、二つ通り過ぎる。

「そろそろだな。」

浮遊魔法(ヒャイ)。」

 スッと、静かに彼の身体が落下をやめた。そのまま、後ろに五歩下がると…。

 その直後のことだった。つい30秒前まで居たその場所に極太のブレスが天高く通り抜けた。そのままでいたなら火に飲み込まれていただろう。

「あんまり、美味しくないぞ。俺は。」

 浮遊魔法をきかせたまま、谷の底へめがけて鋭く飛んでいく。進む方向など彼には分かっていた。ブレスがやってきたら方向とは反対側。背後からの攻撃を交わしつつ接近していった。視界にとらえない限り攻撃も当たらないからだ。

 赤竜は、縄張りに入った獲物を狩るときにあえてブレスの火力をあまり高くしない。温度を自ら下げるのだ。なぜそんなことをするのか、竜にとっては当たり前のことである。ミディアムレアが一番おいしいと思っているからだ。

 力強い咆哮が狭い谷の間に響く。それはもちろん彼の耳のなかにも。

「ぅるせぇなぁ。」

 底がすぐ近くに見えてきた。ブレスが飛んでくる方よりずっと反対側へ向かって飛んでいた。周りからみれば訳がわからない行動。それが、いま功を奏していた。

「よし、居た居た。」

 地面をドコドコと走る赤い大きな身体。上からやってくるこちらには、気づいていないようだった。

「なら、今回でおしまいにしようか。」

高威力の攻撃魔法(ソーゾーネ.ゴーア)

 魔力に関知した赤竜が視線を向けたときには既に首もとの一撃が地面ごと貫いていた。

 

 そのころ、石窟から遺跡の通路に出たコトキたちは、床にガーゴイルの翼を転がしていた。

「よくやってくれた。コトキ。」

 大きなリュックサックを背中に背負った彼が、彼女に労いの言葉を掛ける。

「ふふん、このくらい軽いものよ。」

 男のトビのような視線が少しするどくなった。

「ところで。」

「お前は、誰から剣術を教わった?」

 しん、と静まり返っている遺跡のなかで、ボソリと口に出たその言葉はコトキの耳に残った。

「私は無数の剣士とその流派を、これまで見てきたというのに。その太刀筋だけは出会って初めて感じたものだ。」

「さて、貴様は誰に、剣を習った?」

 そのトビのような目は彼女の美しい黒の瞳をまっすぐ見通していた。

「そうだよな…。」


 私は、東方の大都市ウァータンのはずれ、小さな農家に生まれた。我が家では何本もの大きな桑の木を育てていたようで、カイコの生糸が大きな財産を生む。決して、裕福ともいえないけれど、お金の苦労なんてしたことがなかった。あの日までは。


「おきろ!」

 柔和な父の珍しい荒ぶった声が私を眠りから引き剥がした。夜にしてはやたら明るい窓のそとに気になって、目をやった。

 その光景はまだ12歳の心のなかに強烈なトラウマを残していた。

「桑が…も、燃えてる!」

 真っ赤に燃える炎は、何本もの桑を包み込み。全てを焼き付くしていた。

「逃げるぞ!」

「クロスズの連中がここを襲ってるんだ!」

 父に手を引かれ、燃える森を横目に村を離れた。横には母に抱えられた小さな弟がひとつ。当時の私にはわからないクロスズが村を襲った。

 走ってはしって、隣の大きな街に飛び込んだ。

「村のみんなは大丈夫なのかな。」

 まだ、幼い私に父はあの柔和な笑顔をつくって優しく答えた。

「大丈夫。」

「みんなすぐに戻れるよ。」

 それを信じた私はまだ、あまりに幼くてバカだった。


 いずれ、父からはこう言われるようになった。

「これからはみんなと違うところで暮らすことになるかもね。」

 これにもわからない、と首を傾ける。ただ、父はいつもの柔和な笑顔のままだった。


 夜が来ない街。夜こそが始まりの街。そこが東方の大都市(ウァータン)の下町。歓楽街だった。

 そこそこ大きな妓楼に私は運ばれていった。

「今日からあんたは禿(かむろ)だよ。」

 無知な私でも、分かったことがあった。

 売られた。

 困窮した家族が娘を店に売る。決して珍しい話ではない。

 しばらくはそこで、(ねえ)さんから将棋や碁や楽器をならいながら家事を手伝っていた。きつい仕事だった。洗濯物を運んで、香を買い付けては高くなったと愚痴を聞く。

 姐さんは優しい人だった。よく、客からもらったとお菓子を食べさせてくれた。とっても美しい人でどんどん値段はつり上がって、噂では20金メールでもまだ、買い手はいくらでもいる。

 そんな彼女に、身請けの話が持ち上がった。相手の殿方は東方の大都市(ウァータン)の財務大臣。とんでもない人物だった。やがて、隣の通りの妓楼まで噂が広がる。やれ、総資産は優に100億メールを越えているとか。やれ、指1つ動かすだけで村1つ潰せるだけの権力があるとか。どれも、根も葉もない噂ばかり。確信と根拠があって言っているヤツはまるでいなかった。みんな、手の届かない雲の上のお貴族さまに大興奮していたんだ。

「お前ももう一人前ね。」

「いつか、また会いましょう。」

 そういい残して姐さんは派手な馬車に運ばれていった。妓楼という篭の中の九官鳥が外に出る方法は限られる。借金を返しきるか、誰かに買われるか。姐さんは大空へ羽ばたいていった。

 私は妓女として客をとるようになった。それなりに、高級な妓楼であったからか質の悪い客は少なかった。初めての客、3回目の来店。喪失感がひとつ。これが続くのか。そう思った。

 禿が一人ついた。売られてきたらしい。

「貴方、名前は?」

 今、結われてきただろう髪がこくりとゆれて。小さな口が開く。

「アカルと申します。」

「これからよろしくお願いしやんせ。」

 覚えたての敬語が、私の中の少し消えかえていた人の心を解きほぐしたように思えた。

~異世界魔物解説本~

 それの14ページを開いた。

「ママー。お姉ちゃんがピーナッツ全部食べちゃったー。」

 孫は元気が一番。

 あー。老眼でシャバシャバするわいな。

 

 赤竜 

 体長は大人の男性を基準として、小型のもので3人分。大型のものでは5から6人分。

肉食性で硬い爪と鋭い角、赤い鱗が何よりの特徴。

実は、縄張りに入らなければなにもしてこない温厚な存在でもある。

ブレスの温度を変えることが得意で、最大で900℃まで上げられるが疲れるのであまりやらない。

その圧倒的な強さから、「竜の王様」とよばれ信仰対象になっていることも。


 明日も、本が読みたいね。

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