幼なじみのひかげちゃんは鬼の子、泣き虫の子。
「暸〜、またひかげちゃん泣いてるよ〜」
「はあ!?」
クラスのやつにそう言われて、おれはしかめっ面で返した。
「なんでおれに言うんだよ」
「暸がひかげちゃんの保護者だからでしょ」
「ただの幼馴染だって」
はあ、とため息を吐いてから、おれはひかげのところに向かった。
「ほら、なんだかんだほっとけないんだよね、暸くんってさ」
そんなんじゃないっての。
ただ、ひかげを泣き止ますのが、おれが一番得意なだけで。
「ったく、何してんの」
「…暸ちゃ〜ん」
ひかげはおれが来るなり、大きな目に涙をいっぱい溜めて振り向いた。
小学5年生になっても、ひかげは泣き虫のままだ。
「ど、どうしよう暸ちゃん。由衣ちゃんに、私の角が当たっちゃったの…!」
ひかげは、額から生えている2本の角を手で覆い隠すようにしていた。
あー、角か。
「由衣、どこをケガしたんだ?」
「あ、ケガはしてないの。ただ、ぶつかっただけで」
由衣は全然大丈夫そうで、苦笑いしていた。
おれから見ても、どこもケガしていなさそうだった。
「ほら、由衣はこう言ってるぞ」
「で、でも、角だったし…」
ひかげはオロオロしながら、由衣の肩あたりを見つめている。
そこに当たったのか。
んあー、どうすっかなぁ。
ひかげは、自分が鬼だということをとにかく気にしている。
おれからしたら何を今更なんだけど、ひかげがそれじゃ納得しないのも知っている。
「由衣、悪いんだけど一緒に保健室行ってくれないか?」
「うん、いいよ」
「ほら、行くぞ」
「…うん」
保健室に行くまで、ひかげはおれの服の裾を握っていた。
「かすり傷すらないわね。これなら何も心配ないわ」
「ほ、本当ですか…!」
保健室の先生の言葉に、ようやくひかげの強張りがとれたのがわかった。
「よかったな。由衣にお礼言いな」
「ありがとう。由衣ちゃん…」
「ううん、ひかげちゃんは大丈夫だった?」
「私は平気…、鬼だから頑丈だもん」
にへらと頑張って笑顔を作ったひかげに、おれは頭をくしゃくしゃと撫で回しておいた。
角もついでに触る。
「う、わ、暸ちゃん…」
「こんなちっちゃい丸っこい角じゃ、ケガもさせらんないっての」
実際、ひかげの角は大人の鬼に比べて、カドがない。
いくら触っても大丈夫なくらいつるつるしている。
「ひかげちゃんの角は、可愛いもんね」
由衣もくすくす笑いながら、ひかげの角を撫でた。
ひかげはくすぐったそうに、もじもじした。
「そんなに気になるなら、今度角カバーでも編んでやるよ」
「いいね。リボンとか巻いたら可愛いよね、きっと」
ひかげは今度こそ恥ずかしそうにして、おれの後ろに隠れた。
「ふふふ、やっといつものひかげちゃんだ」
その言葉には同意だけど、もう少しおれがいなくてもどうにかなってほしいぞ。
まあ、泣いてないみたいだし、いっか。
「暸ってさ、ひかげをダシにして女子と仲良くしてるの、キモいよな」
はあ〜!?
放課後、下駄箱まで来た時、クラスの男子のそんな声が聞こえた。
「今日も由衣ちゃんに近づいてさ」
「ははは、健太郎が由衣のこと好きなだけじゃん!」
ああ、そういう感じ?
てか、ひかげに何かあるとおれのことを呼ぶのは、お前らじゃん。
「ひかげも、鬼のくせに泣き虫でウザいしさ」
「それはわかる」
「暸のナイト気取りもウザい」
さすがに出ていってやろうと思った時、震える声が聞こえた。
「りょ、暸ちゃんの悪口、言わんといて…!」
見ると、ひかげが真っ赤な顔して、そいつらの前に立ちはだかっていた。
「何してんだ、あいつ」
違う理由で出ていきそうになった時、ひかげの精一杯の声が飛んできた。
「暸ちゃんは、私のこと馬鹿にしたりしないの…!鬼でも、なにでも、絶対馬鹿にしたりしないっ。そんな風に、悪口も言わないっ…!」
ひかげは、そいつらのことを無理に睨みつけていた。
「う、うるさいなっ」
「暸にひっついてないと何にもできないくせに、偉そうに言うなよ!」
「暸ちゃんを悪く言わないでっ」
ひかげの叫びに、おれはすっかり肩の力が抜けた。
ああいうの苦手なくせにな。
「い、行こうぜっ」
「ああ」
ひかげにぶつかるように、あいつらは走っていった。
…明日、ぶん殴っとくか。
一人で突っ立っているひかげのところに、おれは足を運んだ。
「なーにしてんだ、ひかげ」
「…暸ちゃん」
ひかげの片目からポロッと涙が零れた。
あーあ、まったく。
「おれが言われっぱなしでいると思ったのか?」
「暸ちゃん、殴っちゃダメだよ…?」
「でもさ」
「私がイヤだったの。暸ちゃんは悪くないもん…」
ポロポロ泣いているひかげに、おれはそっと肩を叩いた。
「…帰ろうぜ。つか、そのリボンどうしたんだ?」
「由衣ちゃんが巻いてくれた」
「いいじゃん」
「暸ちゃん。昔みたいに手ぇ繋いで帰ろう…?」
「小5にもなって…?」
おれはイヤそうな声を出しながらも、手を差し伸べた。
ひかげが嬉しそうに、ぎゅっと握ってくる。
「ふへへ、暸ちゃんありがとう」
こうすると昔から泣き止むから、今日ぐらいはいいか。
了
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