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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第7話「この世界では異母姉妹がよくある話らしい」

大陸歴 2791年 5月 エヴェリン王国 王都リュミエール / ヒイロ=エヴェリン


「あう、あー……(訳:誰か助けてくれ)」


俺の小さな身体は、4人の姉たちによる愛情という名の物理的包囲網によって圧殺されかけていた。 匂いを嗅ぐ者、頬を突く者、指を握る者、データを取る者。 これぞまさにカオス。 俺が窒息というバッドエンドを覚悟したその時、天の助けとも言うべき凛とした声が響いた。


「皆様、そこまでになさい。ヒイロが潰れてしまいますよ」


波が引くように、姉たちの手が止まった。 扉の方を見ると、そこには知的で落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。 リリア=エヴェリン。この国の宰相であり、母上アウローラの妹。そして、父上エリオンの第二夫人でもある叔母上だ。


「あ、リリア叔母様!」

「むー、いいところだったのに」


姉たちが口々に不満を漏らすが、リリア叔母上は涼しい顔で諭す。 さすがは宰相。暴走気味の姉たちを鎮める手腕は手慣れたものだ。


「エラーラ、騒がしくて大変ね」

「いいえ、リリア様。賑やかなのは良いことでございます」


リリア叔母上は部屋の隅に控えていた侍女長のエラーラに労いの言葉をかけると、背後に隠れていた二人の少女を前に促した。


「さあ、イゾルデ、ミラベル。貴女たちも弟にご挨拶なさい」


現れたのは、これまた見目麗しい二人の少女だった。 一人は眼鏡をかけた知的な顔立ちの子で、もう一人は少し内気そうな垂れ目の子だ。


(……なるほど。この二人がリリアの娘、つまり俺の異母姉に当たる人物か)


俺は新たな家族の登場に、狸寝入りモードを発動しつつ観察を開始した。


「これが、王配様のご子息……いえ、私たちの弟……」


眼鏡の少女――長女のイゾルデ(12歳)が一歩進み出る。 彼女は俺の顔を覗き込んだ瞬間、眼鏡の奥の瞳を見開いた。 その視線は、単に「可愛い」というものではない。まるで雷に打たれたかのような、あるいは長い旅の果てに約束の地を見つけたかのような、強烈な衝撃と熱量を帯びていた。


「……なんて、綺麗な」


彼女の手が震えている。 あ、この眼鏡の子は重いやつだ。俺のビジネスマンとしての直感が告げている。彼女からは、俺のためならなんだってやってしまいそうな、危うさの萌芽を感じる。


「姉様、私にも見せてください……」


イゾルデの後ろから顔を出したのは、次女のミラベル(9歳)だ。 彼女は姉たちのようにグイグイ来ることはなく、一歩引いた位置で両手を胸の前で組んでいる。 だが、その瞳は潤み、うっとりと俺を見つめていた。


「ヒイロ様……。ああ、なんてかわいいんだろう」


(……いや、だから重いって。まだオムツも取れてない赤ん坊にうっとりしないでくれ)


「あらイゾルデ、お堅い貴女もヒイロに夢中かしら?」


長女のクラリスが、ニヤニヤしながらイゾルデに話しかけた。 二人は同年代らしく、言葉遣いもフランクだ。


「ふん、貴女と一緒にしないでちょうだい。私はただ、王国の未来たる弟君に敬意を表しているだけよ」

「あらそう? 顔が赤いですわよ?」

「う、うるさいわね!」


イゾルデが顔を背ける。ツンデレの教科書のような反応だ。 そんな微笑ましい姉妹のやり取りを見ていると、リリア叔母上がパンと手を叩いて注目を集めた。


「はいはい、喧嘩しないの。ヒイロは貴女たち全員の大切な弟なのですからね」


そして、彼女は優しく、しかしどこか含みのある笑みを浮かべてイゾルデに向けて衝撃的な爆弾発言を投下した。


「それに、ご安心なさい。この国では、母親が同じ姉弟の結婚は禁じられていますが、母親が違う異母姉弟であれば法的に婚姻が可能ですもの」


(……はい?)


俺の思考回路が一瞬停止した。


「つまり、イゾルデやミラベルは、ヒイロの姉でありながら、将来の『お嫁さん候補』でもあるのですよ」


リリア叔母上の言葉に、イゾルデとミラベルがさっと顔を赤らめ、クラリスたちが「ずるい!」と声を上げる。


俺は心の中で頭を抱えた。


(父親が同じ近親婚がOKなのかよ……! )


いや、待て。落ち着け、平三。 すぐに灰色の脳細胞を再起動させる。


男女比1対30。男性は極めて希少な繁殖資源。 そして「Word」や魔力といった形質は遺伝する可能性がある。 だとするなら、優秀な血統を外部に流出させず、かつ確実に次世代へ継承するためには、血縁内での婚姻は極めて合理的なソリューションだ。

古代エジプトのファラオや、ハプスブルク家など、地球の歴史でも王族の血を守るための近親婚は珍しくなかった。 遺伝的なリスクよりも、魔法的な資質の維持が優先される世界なのだろう。


頭では理解した。ロジックは通っている。 だが、感情が追いつかない。


俺はベビーベッドの中から、部屋を見渡した。 リリア叔母上。 クラリス、ルミナ、セラフィナ、ヴァレリアの4姉妹。 そしてイゾルデ、ミラベルの異母姉2人。 さらに控えている侍女長のエラーラ。


視界に入るのは、女、女、女、女。


それも美しい服を身にまとった美女と美少女たち。 ここはハーレムか?

いや、俺の経験則が告げている。ここは、地獄の入り口かもしれない。


前世での営業部長時代を思い出す。 かつて、女性比率の高いチームをマネジメントしたことがあった。 あれは……「マネージャーとして仕事に集中させてくれ!!」とどこぞに訴えることもできずに耐え続けた日々だった。


派閥争い、嫉妬、感情のもつれ、体調への細やかな配慮。 一言一句、表情一つにまで気を配らなければ、地雷を踏んでチームが崩壊する緊張感……。体育会系の男だらけの営業部の方が、言葉を選ばずに話ができたし、飲みに行けば解決するから遥かに楽だったな。


(……この世界で生きていくの、ハードモードすぎないか?)


俺は王子だ。つまり、将来はこの女性たちの中心に立ち、彼女たちを愛し、管理し、調和を保たなければならない。 しかも、その中には「姉」という、本来なら頭の上がらない存在も含まれているのだ。

少しでも舵取りを間違えれば、俺の人生は「Nice boat.」な結末を迎えかねない。


俺が将来のリスクの高さに戦慄していると、一通りの顔合わせを終えたリリア叔母上が、撤収の合図を出した。


「さあ、皆様。ヒイロもお疲れのようですから、そろそろ失礼しましょう」


名残惜しそうな姉たちを促し、リリア叔母上は部屋を出ようとする。 だが、ふと何かを思い出したように足を止め、エラーラに耳打ちをした。


「エラーラ、今夜、姉様と話したいことがあります。時間を空けておくように伝えておいてちょうだい」


その瞳には、宰相としての鋭い光が宿っていた。 何かを企んでいる目だ。人事異動か、あるいは新規プロジェクトの立ち上げか。


(……また何か、俺の知らないところで影響が大きそうな会議が始まるな)


俺は小さくため息をついた。 まあいい。今はまだ、俺はただの赤ん坊だ。 大人の事情(ドロドロした政治や恋愛)に巻き込まれるのは、もう少し先の話だと思いたい。


俺は再びベビーベッドの柔らかさに身を沈め、女だらけの職場(王宮)での処世について考えながら夢の世界に入っていった。


初めて管理職になるときにどこの会社でもハラスメント研修があったと思います。

あれを受けると人間不信になりそうで怖いですよね。老若男女を問わず適切な距離感を見極めるスキルが試されるのが社会だと感じます。

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