第6話「人生初の姉という生き物」
王家には4姉妹がいて、その末っ子としてヒイロが産まれました。
現実だと女性意見が強い家庭になりそうですね。ビール飲みながら野球中継という選択肢は無さそうです。
大陸歴 2791年 5月 エヴェリン王国 王都リュミエール / ヒイロ=エヴェリン
優雅な午睡の時間は、唐突な物理的衝撃によって破られた。
「ちっさい! やわらかい!」
ベビーベッドが揺れる。地震か? いや、この揺れ方は外部からの人為的な介入だ。 俺は重たい瞼を持ち上げ、状況確認を開始した。
視界に入ってきたのは、柵の上から覗き込む四つの顔。 年齢も髪の長さもバラバラだが、一様に好奇心と興奮に満ちた瞳が、新しく生まれた男児という一点に集中している。
(……なるほど。これが噂の「姉」というやつか)
俺は35歳の精神を持ちながら、赤子の身体で身じろぎした。 まるで新任のプロジェクトマネージャーが、配属初日に既存メンバーから品定めされているような緊張感だ。いや、彼女たちの眼差しはもっと貪欲だ。珍しい動物を見る目、あるいは新しい玩具を手に入れた子供の目だ。
これは、今後俺がこの国で家族とともに生存していくための、最初の信頼関係構築の場ということになる。 俺は狸寝入りを決め込むのをやめ、彼女たちを観察することにした。 集団面接のつもりで、一人ひとりの能力と性格を評価させてもらおう。
まず、最初にベッドを揺らした一番小さな少女。四女のヴァレリア(7歳)だ。
「ねえねえ、起きた! 目が開いたよ! 黒い! きれい!」
彼女は興奮して柵をバンバンと叩いている。 褐色の肌に、活発そうなショートヘア。年齢の割に体幹がしっかりしており、声も大きい。
俺の分析によれば、彼女は典型的な「現場指揮官」だ。 猪突猛進で、細かい戦略よりもフィジカルで解決するタイプ。制御が効けば強力な推進力になるが、現状では力加減を知らない暴れ馬だ。 彼女が俺の柔肌を突く指の力が強すぎて、普通に痛い。これはリスク要因だ。
「こら、ヴァレリア。静かになさい。ヒイロが驚いてしまうでしょう?」
その声が響いた瞬間、場の空気がピタリと止まった。 ヴァレリアの手を叩き、場を制したのは長女のクラリス(12歳)だ。
金色の髪を優雅になびかせ、背筋を伸ばした立ち姿。まだあどけない少女のはずだが、その言葉には年齢不相応な「強制力」のようなものが宿っている。 単なるしっかり者の長女、というだけではない。
(……なんだ、今の圧力は)
彼女が口を開くと、周囲が自然と従いたくなるような、不可視の王権を感じる。 これが天性のカリスマというやつか、あるいは彼女の中に眠る「何か」の力なのか。 いずれにせよ、高い統率力だ。 12歳にしてこの貫禄、間違いなく「組織のリーダー」だ。 彼女は俺を「守るべき王家の宝」として認識しており、その安全管理に責任を感じているようだ。 将来の組織のトップ候補として申し分ない。俺の人生の要となる人材だ。
「でも姉様、見てよこの魔力。すごく温かいし、密度が高いよ」
クラリスの制止を聞き流し、俺の頬をツンツンとつついているのが、次女のルミナ(10歳)だ。
少し眠たげな瞳をしているが、俺を見るその目は、赤ん坊を愛でる目ではない。 対象の価値や構造を冷徹に見定める、鑑定士のような眼差しだ。
「ねえ、この子、ボクの研究室に連れて行ってもいい? 器と中身のバランスがどうなってるのか、服を脱がせて隅々まで『計って』みたいんだけど」
(……却下だ。コンプライアンス違反も甚だしい)
俺の心の拒絶を知らず、彼女はうっとりと俺の二の腕を触っている。 彼女は間違いなく「R&D(研究開発)部門のトップになりえる人材」だ。
優秀だが、倫理観のネジが数本飛んでいるマッドサイエンティストの気配がする。 彼女の才能は利用価値が高いが、自分自身が実験台にされないように注意する必要がある。
「ルミナ姉様、文献によると、新生児は急な環境の変化に弱いそうです。むやみに動かすべきではありません」
分厚い本を抱え、一歩引いた位置から冷静にコメントしたのは、三女のセラフィナ(9歳)だ。
眼鏡の奥の瞳は理知的で、感情よりも事実を優先している。 彼女は「参謀」タイプだな。 データ分析と情報収集に長けている。感情論で動くタイプではないので、理屈さえ通せば、この姉妹の中で最も話が早い相手になりそうだ。俺が何かするときにロジックで説明すれば協力してくれることだろう。
(……ふむ。悪くない)
俺は心の中でニヤリと笑った。 リーダー、研究者、参謀、現場指揮官。 スキルセットが見事に分散している。 これなら、様々なプロジェクトに取り組めるだろう。
俺が管理者視点で満足していると、姉たちの顔がぐっと近づいてきた。 様子見は終了。ここからは、彼女たちのターンらしい。
「ああ、なんて可愛らしいのかしら……」
クラリスが我慢できないといった様子で、俺の手をそっと握りしめた。 それを皮切りに、防衛ラインが決壊した。
「ヒイロ、いい匂いがするー!」
ヴァレリアが俺の腹に顔を埋めて匂いを嗅ぎまくる。くすぐったいし、重い。
「ふふ、ボクの手を握り返したよ。反射機能の確認……可愛いね」
ルミナが俺の指をいじり回す。計測するような目は消え、純粋な興味に変わっている。
「……記録に残しておきましょう。ヒイロの可愛さは、歴史的な発見です」
セラフィナまで本を置いて、俺の足をつつき始めた。
「あ、あ、あぅぅ(ちょ、タンマ。そこは脇腹……くすぐったい!)」
俺は抵抗しようとしたが、悲しいかな、生後数日の筋力では寝返りすら打てない。 されるがままだ。 頬を擦り付けられ、匂いを嗅がれ、ぷにぷにとした四肢を揉みしだかれる。 これは「可愛がり」という名の、圧倒的な暴力(愛)だ。
「あう、あー……」
俺は抵抗を諦め、脱力した。 前世では中間管理職として上と下の板挟みにあっていたが、今世では姉たちの愛の重圧に挟まれるわけか。
まあいい。 将来有望そうな姉たちにかわいがってもらえているの。 この圧倒的な愛も、王族としての福利厚生の一部と考えて甘受しよう。 俺は4人の未来の英雄たちに囲まれながら、まんざらでもない気分で身を委ねることにした。
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