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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第51話「騎士たちの晩餐会」

大陸歴 2791年 6月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / リンディス・ヴェルダント(エヴェリン王国 伯爵)


「……見事な焼き加減だ。ナイフを入れるだけで肉が解けていくようだ」


王都の一等地に店を構える高級レストランの個室。 私は分厚いステーキにナイフを入れ、断面から滲み出る肉汁を見つめながら、円卓を囲む面々を見回した。


「これから血生臭い話をするには、精をつけるのにちょうどいい」


アークランドからは、クラリッサ女王、アレクサンドラ王女、そして伝説の騎士団長ヴィヴィアナ殿。 エヴェリン側は、辺境伯カイネ、その娘リアナ、騎士団長ライラ、副団長セラ、ウォーデン侯爵ダリア、その息子アルトリウス。 そして私、リンディス・ヴェルダント。


クラリッサ女王が「明日アークランドに帰国する前に騎士同士で話がしたい」との要望で開催された騎士たちの晩餐会は、煌びやかなシャンデリアの下、極上の赤ワインと肉料理が並んでいるが、漂う空気は戦場のそれだ。 ナイフとフォークが触れ合う音が、まるで剣戟のように響く。


「単刀直入に聞こう。……敵の動きはどうだ?」


口火を切ったのは、カイネだ。彼女の眼鏡の奥の瞳は、すでに戦場を見据えている。 答えたのは、副団長のセラだった。


「ドラコニア本国は静かだ。皇帝の代替わりがない限り、国を挙げての戦争は起きないだろう。だが……あの国の戦士たちは血の気が多い。皇帝の命令がなくとも、功名心に駆られた部族が暴走して国境を荒らす可能性は大いにある」


セラがワインを煽り、続ける。


「それに、今一番警戒すべきは西のエテルニアだ。特に国境を接するヴァルクール公国との緊張は確実に高まっている。ヒイロ様の『Holy(聖)』が公表されてから、奴らの動きが慌ただしい。いつ『聖戦』の大義名分を掲げて雪崩れ込んでくるか分からんぞ」


「……面倒な話だが、十二分にあり得る話だと言わざるを得んな」


アークランドのクラリッサ女王が重々しく頷く。アークランドはエヴェリンとヴァルクールの間に位置する緩衝地帯でもある。開戦となれば、真っ先に戦火に晒されるのは彼女たちの国だ。


「留守を預かる副騎士団長ロレーナには、ヒイロ殿下の『Holy(聖)』が判明した時点で最高度の防御態勢を指示してある」


「ロレーナ・フォン・トキシン……。Wordは『Poison(毒)』でしたか」


私が口を挟むと、ヴィヴィアナ殿が不敵に笑った。


「うむ。あやつは単騎で軍を壊滅させる『ワンマンアーミー』じゃ。毒の霧を撒き散らすあやつがおれば、国境を突破するのは容易ではないわい」


(毒の騎士か。味方にすれば頼もしいが、敵には回したくないな)


私は肉を口に運びながら思考を巡らせる。


「有事の際は、スティールウィンド領から即座に援軍を出す」


カイネが断言する。


「王都の騎士団からも増援を送れるよう準備します! 私自ら最大戦力を率いて……」


「待ちな、団長」


息巻くライラを、セラさんが止める。私もすぐに同調した。


「セラさんの言う通りだ。エテルニアが正面から来るとは限らない。奴らは宗教国家だ。少数精鋭での潜入工作や、王族の暗殺、誘拐こそ警戒すべきだ。団長と副団長はヒイロ様を守る最後の砦として王都に残るべきだろう」


ライラが悔しそうに口をつぐむ。


「ならば、カイネに続く第二陣は私の重装歩兵が行こう」


鉄壁の守りを誇るダリア・ウォーデン侯爵が手を挙げ、ライラに向き直った。


「団長、エテルニアが動いた際には私に即応できる騎士団の精鋭をつけてくれ。それと……リンディス、お前の指揮下にある魔法部隊も同行させてほしい」


ダリアの要請に、ライラとセラが顔を見合わせ、頷く。


「わかった。ダリア侯爵になら精鋭を預けられる」


私もワイングラスを置き、承諾した。


「承知した。私の友人である魔法省のアルバーヌとも連携し、実戦で使える魔法使いを編成しよう。……エテルニア相手には魔法戦の用意が必要だ」


軍事的な詰めが進む中、若者たちが動いた。


「母上! ご出馬の際には自分も同行させてください!」


ダリアの息子、アルトリウスが身を乗り出す。 14歳にして大人顔負けの剣技を持つ彼だ。「若君」として兵からの人望も厚い彼が前線に出れば、兵の士気は大いに高まるだろう。戦力としても申し分ない。 だが、ダリアは首を横に振った。


「いいや。お前には別の任務がある」


「別の任務、ですか?」


「……お前は『若君』として兵たちからの人望も厚い。その能力があればヒイロ様の側近として共に成長し守ってあげられる。ヒイロ様の兄役となり近衛騎士となるのだ」


ダリアの言葉に、場の空気が変わる。


「ヒイロ様の重要性は、国家存亡に関わるレベルになる。周囲には腕が立ち、絶対に裏切らない、信頼できる『男』が必須になるのだ。女ばかりの王宮で、同性の側近というのは何よりも代えがたい」


ダリアは息子の目を真っ直ぐに見据えた。


「その誠実さで、ヒイロ様の剣となれ」


アルトリウスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに背筋を伸ばし、力強く頷いた。


「……はい! 謹んでお受けいたします!」


彼は即座に了承すると、隣に座るリアナをちらりと見た。 カイネが娘に問う。


「リアナ、お前はどうする?」


「私は母上と共に戦場へ参ります」


リアナは眼鏡の位置を直し、冷静に答えた。


「私のWord『Crossbow(弩)』は、王宮の警護よりも、広大な戦場でこそ真価を発揮します。……アルトリウス様が王宮を守ってくださるなら、私は外敵を排除することに専念できます」


リアナもまた、アルトリウスを見て小さく頷く。 二人の間に、「離れていても志は同じ」という信頼の空気が流れる。


(……青春だな)


私はワインを揺らしながら、彼らの若々しい感情の眩しさに目を細めた。 だが、感傷に浸っている場合ではない。


間違いなく、これからはヒイロ王子が世界の中心になる。 アルトリウスが側に侍るなら、私も手を打っておかねばならない。ヴェルダント家の影響力を高めるための、強力な一手を。


私の脳裏に、一人の少年の顔が浮かんだ。 今年の年明けに養子にした、亡き部下の息子。テオラス。


彼の母親は、私の領地を管理する優秀な文官だった。 女手一つでテオラスを育てながら、領地の財政を支えてくれた彼女を、私は高く評価していた。だからこそ、彼女が不治の病に倒れた時も、私は最期まで治療費と生活費の支援を続けたのだ。


そして彼女の葬儀の日。当時まだ5歳だったテオラスは、泣き腫らした目で私の前に立ち、信じられないことを言ったのだ。


『母の薬代、そして葬儀まで……ありがとうございました』


彼は深々と頭を下げた後、震える声で、しかしはっきりとこう告げた。


『僕はまだ小さい子供でしかないですが、魔力量はAランクです。……魔力量の高い男の使い道は、いくらでもあるはずです』


5歳の子供が、だ。 彼は自分という存在の価値を客観的に理解し、それを私に売り込んできたのだ。


『リンディス様。僕の価値を、あなたの野望のためにご利用ください。……あなたのためなら、僕はなんでもします』


(……末恐ろしい少年だ)


あの時の衝撃は忘れられない。 気弱で、騎士団などの筋肉質な女性(私も含めて)を怖がる癖に、芯の部分は強かで、計算高い。 最近も「ヒイロ様の従者になるのと、魔法省とのコネクションを作るのと、どっちが役に立てますか?」などと聞いてきた。


「……アルトリウス殿がヒイロ様の『剣』となるなら、うちの息子もヒイロ様の側に置いてやってもらえないだろうか」


私は、この場の全員に聞こえるように提案した。


「名はテオラス。まだ6歳だが、魔力量はAランクだ。ヒイロ様と歳も近いし、なかなか頭のできよい男の子だと思っている」


「ほう、Aランクか。有望じゃないか」


セラが面白そうにニヤリと笑う。


「だが、近衛騎士にするにはまだ幼すぎるぞ?」


「ああ。だからこそ、今のうちに王宮に入れ、ヒイロ様の近くで学ばせたいのだ」


私はグラスを回しながら、言葉を選んだ。


「側近としてだけでなく、将来的に魔法省で研究者となってもいいし、あるいは文官としてヒイロ様の秘書になってもいい。王宮内のあらゆる場所で使える男になるよう育てたい」


「なるほどねぇ。王宮にとっては青田買いってわけか」


セラは納得したように頷いた。


「身元の確かな男の子は、喉から手が出るほど欲しいのが実情だ。ヒイロ様の遊び相手兼、魔法の修行仲間か。……悪くない。武術はアタシが、魔法は魔法省から誰か呼んで、まとめて鍛えてやるよ」


「ええ、賛成です。アルトリウス君とテオラス君。将来のヒイロの側近を担う人材が育てば、ヒイロにとっても心強いでしょう」


ライラも承認し、方針が決まった。


私はグラスのワインを飲み干し、口元を拭った。


(さて、テオラス。お前の望み通り、最高の環境を用意してやったぞ)


ヒイロ王子という巨大な光の側で、お前自身の価値を高めろ。 そして、その価値を使って、ヴェルダント家のために存分に働いてもらう。


「ふふふ……」


私は自然と笑みがこぼれるのを止められなかった。 悪い母親だが、その分、大事にしてやるさ。


肉の焼ける匂いと、戦いの予感。 エヴェリンの夜は、熱く、激しく更けていった。


野望に燃える人って好きです。『野望の王国』とか、あの野望に身を焦がす感じがたまりません。

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