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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第48話「宗教国家エテルニア」

大陸歴 2791年 6月 / エテルニア大帝国 帝都コンスタンティナ 謁見の間 / マルアラ・エテルニア(エテルニア大帝国 教皇兼皇帝)


大陸西部に広がる「永遠条約圏」。

唯一神エテルナを崇める信仰のもとに結束したこの巨大な勢力圏の頂点に立つのが、エテルニア大帝国である。 エテルニア大帝国は、宗教的指導者である「教皇」が、世俗的支配者である「皇帝」を兼ねる絶対的な神政国家だ。神の代理人たる教皇の言葉は法であり、秩序そのものである。


その本拠地、帝都コンスタンティナの謁見の間は、白大理石の冷気と張り詰めた緊張感に支配されていた。


「……報告します。エヴェリン王国の第一王子ヒイロ。魔力量はSランク、そしてWordは……『Holy(聖)』でした」


大司教であり、帝国の諜報組織を統括するデリアンナ・フォン・リヒト(38歳)の報告が、広大な空間に重く響いた。 その場に同席していた宰相のクラリンダ(48歳)と、枢機卿のアデリナ(38歳)が息を飲む気配が伝わってくる。


「……『Holy(聖)』だと?」


玉座に座る私、マルアラ・エテルニア(52歳)は、無意識に手すりを強く握りしめていた。 『聖』。それは唯一神エテルナを奉じる我が国にとって、教義の根幹に関わる言葉だ。本来であれば、神の代理人たる私が管理し、帝国が独占すべき概念。それが、異国の、それも男児に宿ったというのか。


「無視できませんな、陛下」


枢機卿のアデリナが、鋭い眼光で進言する。


「神の愛し子が異教の地に落ちたのならば、我らが救い出さねばなりません。これは聖戦の大義名分になります」


「待て、アデリナ」


私は片手で彼女を制した。


「感情で動くでない。我々の最優先事項はなんだ?」


「……北のドラコニア帝国との決戦準備、であります」


「そうだ。あの蛮族どもとの戦争は避けられん。その状況下で、背後にあるエヴェリン王国を敵に回し、二正面作戦を行う愚は避けねばならん」


私の言葉に、宰相のクラリンダが頷く。


「同感です。エヴェリンは『光の同盟』の盟主。彼らを刺激し、ドラコニアと軍事同盟を結ばれては最悪の事態です。今は攻撃的な交渉ではなく、友好、あるいは静観を装うべきでしょう」


全員の認識は一致している。だが、だからといって『聖なる王子』を放置するわけにもいかない。


「デリアンナ。追加情報はないのか? 王宮内部の反応や、女王の意向は? 直接接触は試みていないのか」


クラリンダが問うと、デリアンナは悔しそうに首を振った。


「申し訳ありません。エヴェリン王宮および神殿の警備は、騎士団長ライラと副団長セラ、そして侍女長のエラーラによって鉄壁に守られています。我々の諜報網をもってしても、王宮の奥深くはおろか、王宮の城壁すら越えられません」


「城壁すら、か」


「はい。完璧な布陣です。また、女王や宰相への面会も打診しておりますが、『多忙』を理由に全て断られております。……ただ」


デリアンナが一枚の報告書を取り出した。


「モントルヴァル公国から上がってきた報告によれば、かの国の外交官が、先日極秘に行われた国内向けの『顔見世』への潜入に成功しました」


「モントルヴァルだと? あの芸術バカの国がか?」


「はい。報告書には、王子は赤子ながら理知的で、常に騎士団長クラスの護衛がついていると記されています。……我々の諜報員ですらできなかった潜入を成功させるとは、優秀な駒がいるようです」


(……ほう)


私は内心で感心した。モントルヴァル公国は我が陣営の下位国家だが、そこまで優秀な諜報員を抱えていたとは。


「いいだろう。その外交官の情報は引き続き吸い上げよ。……さて、どうするか」


私が意見を求めると、クラリンダが進み出た。


「エヴェリンとのパイプを太くし、彼らをこちら側に引き寄せる必要があります。それなりの『格』を持つ外交官を派遣し、交流を深めるべきかと」


「当てはあるのか?」


「私の娘、ソフィア(18歳)を送ります」


クラリンダは迷いなく言った。


「ソフィアは若輩ですが、私が鍛え、次期宰相として育てております。私の娘が赴くとなれば、相手も無下にはできません。いささか世俗に疎いところはありますが、彼女ならば、若年でも舐められることはないでしょう」


「……よかろう。若き才能に任せよう」


私は承認した。ソフィアの才覚は私も認めている。


「軍事面はどうしますか?」


アデリナが食い下がる。


「万が一、ヒイロの『Holy』が帝国を刺激し、ドラコニアと軍事同盟を結ばれては厄介です。エヴェリン側の国境……ヴァルクール公国方面の守りを固めるべきです」


「ふむ……。ならば、兼ねてから案のあった『聖騎士団・第二師団』を結成し、そちらへ回すか」


アデリナが頷き、問う。


「司令官はどうなされます?」


私が視線を向けると、クラリンダが控えめに、しかし確信を持って口を開いた。


「それならば、タリアンネ・ツー・オルデン侯爵(38歳)が良いでしょう」


「タリアンネか」


「はい。彼女はドラコニア侵攻反対派です。好戦的な前線から遠ざける意味でも、防御主体のエヴェリン国境は適任でしょう。守勢において彼女の右に出る者はいません」


クラリンダの推薦に、私は内心で快哉を叫んだ。


(タリアンネ。私の建築談義の数少ない理解者であり、無類の要塞建築好きだ。クラリンダは従妹として推薦したのかもしれんが大賛成だ。彼女を師団長にして、エヴェリン国境に堅牢な要塞線を建設させるのは……実に楽しそうだな)


美しい稜堡式要塞や、機能的な城壁の配置図を思い浮かべ、私の心は密かに躍っていた。政治的判断の皮を被った、私の個人的な趣味だ。タリアンネとなら、美しい要塞都市の設計図について一晩中でも語り合える。


「……うむ。守勢であれば、彼女以上の適任者はいない。承認する」


私は厳かに告げた。


「……後で、騎士団長のテオムントにも個別に会って、第二師団の設立を説得しておこう」


私は努めて事務的に付け加えた。 テオムント・フォン・ルクスハルト(53歳)。我が帝国の騎士団長であり、国民的英雄。 そして……。


(ああ、早く会いたいものだ)


誰にも知られていない、私の愛する人。 昔、若気の至りの愚かしい行いの中で彼と結ばれてから30年。 皇帝としての重圧、教皇としての責務。この鳥籠のような絶対権力の中で、彼と過ごす密やかな時間だけが、私にとって唯一の安らぎであり、楽しみなのだ。


表向きは騎士団長への根回しだが、私の心はすでに、愛する男との逢瀬へと飛んでいた。


「方針は決まったな」


私は玉座から立ち上がり、会議を締めくくった。


「ドラコニアとの決戦に備えつつ、エヴェリンとは友好を装い、内側から切り崩す。……いずれにせよ」


私は天井の聖画を見上げた。


「最終的に、『聖なる王子』はエテルニアにあるべきだ。神の御心に従い、必ずや我らが手中に収める」


「「「御意!!」」」


臣下たちの唱和を聞きながら、私は冷徹な女教皇の仮面を被り直した。 聖なる少年よ。せいぜい大事に育てられるがいい。 熟した果実を摘み取るのは、この私だ。


教皇と皇帝を兼ねている存在ですが、呼び名は「教皇」です。それだけ宗教的権威が世俗権威より重視されている世界感です。


周りからは畏敬の念を持たれる教皇ですが、中身は趣味もあり50歳を超えても愛する男性との時間を大事にしたい可愛い教皇さんです。


「恋愛は若者のもの」とか「いい歳して~」と言われることもあるかもしれませんが、年齢を重ねても仲睦まじく手を繋いで歩いてるご夫婦とか素敵だと思います。本作は「老いらくの恋」を応援しています。

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