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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第39話「祝福の儀の朝」

大陸歴 2791年 6月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / アウローラ=エヴェリン (エヴェリン王国女王)


王都の朝は、いつもより早く、そして重々しく訪れた。 東の空が白み始め、王宮の尖塔が朝日に照らされ輝き出す。 けれど、今日という日に限っては、その光さえもどこか緊張を孕んでいるように感じられた。


王宮の深奥、「円卓の間」。 重厚な黒檀の扉が閉ざされたこの部屋に、エヴェリン王国を支える全ての閣僚が集結していた。 普段の実務的な服装ではない。全員が、国家の最重要儀式に臨むための正装に身を包んでいる。


「……いよいよ、この日が来たわね」


上座についた私が静かに切り出すと、円卓を囲む臣下たちの背筋が、一斉に伸びた。


今日は、第一王子ヒイロの「祝福の儀」。 生後一か月を迎えた王子を神殿に連れ、神々の祝福を受ける日。 そして同時に、彼が魂に刻まれた「Word」を持っているか否か、そしてどれほどの「魔力量」を持って生まれたかが、白日の下に晒される審判の日でもある。


「神官長、準備は?」


私が視線を向けると、純白の祭服を纏ったテレジアが、厳かに頷いた。


「大神殿の準備は万全です。『真理の鏡』の水も清められ、神々への奉納も済ませております。……どのような結果が出ようとも、水鏡はありのままの真実を映し出すでしょう」


その声には、一点の曇りもない信仰と覚悟が宿っていた。 ヒイロがどのような力を持って生まれたのか。 結果は神のみぞ知る。私たちはただ、それを受け入れるしかない。


「警備体制はどうかしら、ライラ」


「はっ! 万全であります!」


騎士団長の正装である白銀の鎧に身を包んだライラ・ウルフスベインが、力強く答えた。


「王宮から大神殿へのルート、および神殿内部の警備配置は完了しております。ネズミ一匹たりとも、許可なき者は通しません」


「国外からの参列者については?」


「はい。儀式の間(本殿)への立ち入りを許可されている国外からの来賓は、血縁関係にあるアークランド王国のクラリッサ女王陛下、アレクサンドラ王女殿下、そして護衛のヴィヴィアナ・ド・ランサ騎士団長の3名のみです」


「あの3人なら身内みたいなもんだし、万が一何かあっても、ヴィヴィアナがいればこの上ない大戦力として頼りにできるってもんだ」


副団長のセラが、いつもの調子で補足する。 アークランド王国とは、先代同士の婚姻によって結ばれた強固な同盟関係にある。今回の儀式に他国を入れず、アークランドだけを招いたのは、彼らが「親族」であるという大義名分があるからだ。


「ですが、外野は騒がしいようですわね」


外務大臣のミラナが、扇子で口元を隠しながら言った。


「儀式には入れませんが、王都には各国のお偉いさんたちが溢れかえっていますわ。フィオラのアイリスに、トルヴァードのアルーシャ。それに……噂では、あの永遠条約圏屈指の大商会、ヘルガ・シュミットハウゼン会長も、多くの最高級品を持ってきているとか」


「ヘルガ・シュミットハウゼンまで……?」


私が眉をひそめると、商業大臣のルシラが計算高い笑みを浮かべた。


「ええ。実際に昨日の昼にヘルガ・シュミットハウゼンと会ってきましたわ。『さぞよい商売ができていることでしょうねぇ』とお話ししたら、意味深な笑い顔でした」


ルシラは感心したように首を振る。


「今回、大量の最高級品をうちの貴族向けに持ってきていることからも、あのイヴェットという外交官の情報が母国に正しく伝わり、活用されていることが分かります。あれだけの正確な情報源があれば、伝説の商人でなくても稼ぎ放題ですわ」


「敵ながら天晴れ、といったところね」


ルシラは頷き、言葉を継いだ。


「それに、市井の宿はすべて満室、高級ホテルから安宿まで予約で埋め尽くされていますわ。彼らは皆、儀式の結果――つまりヒイロ様の能力が発表されるその瞬間を、神殿の外で固唾を飲んで待っているのです。……おかげで、王都は空前の特需で経済が回っておりますけれど」


「商魂たくましいことね」


私は苦笑した。 世界中が注目している。 ヒイロがどのような力を持って生まれたのか。 それ次第で、彼らが敵になるか味方になるか、あるいはエヴェリン王国への態度をどう変えるかが決まるのだ。


「工業省の方はどうだい、ナムルー」


「問題ないよ。あたしの方は、例の外交官……イヴェットとは今度行きつけの飲み屋で話すことにもなってるからね。技術協力の話もその時に詰めておくよ」


工業大臣のナムルーが、自信満々に胸を叩く。 あの気難しい職人気質のナムルーが、他国の外交官と個人的に飲みに行く約束までするとは。イヴェット・カンガ、やはり底知れない人物のようだ。


「『真理の鏡』周辺の魔導具も調整終わってるよ〜。誤作動はないから安心してね」


魔法大臣のエルドリンも、ひらひらと手を振った。副大臣のアルバーヌも、無言で頷いている。

準備は完璧だ。 あとは、私たちが進むだけ。


「……リリア、儀式の後の流れも確認して」


私が促すと、進行役を務める宰相のリリアが、手元の資料を整えて立ち上がった。


「はい。儀式の終了後、直ちにこのメンバーで再びこの部屋に集結し、緊急会議を行います」


リリアの瞳が、鋭く光る。


「その頃には、ヒイロ様の詳細が公になっています。Wordをお持ちなのか、魔力量はどれほどか。……ヒイロ様が『ただの愛らしい王子』なのか、それとも『大きな力を持つ者』なのか」


全員の表情が引き締まる。 もし強力なWordを持っていれば、ドラコニアやエテルニアからの干渉は避けられない。 逆に何も持っていなければ、国内の失望を抑え、彼を守るための別の方策が必要になる。


「その結果をもとに、今日中に国家としての方針を決定します。そして明日以降、国内外への対応を一気に進めます。……休んでいる暇はありませんよ」


「望むところだわ」


私は深く息を吸い込み、全員の顔を見渡した。 頼もしい臣下たち。 そして隣には、私の手を握り、静かに微笑んでくれる夫のエリオンがいる。 母エリシアも、優しく見守ってくれている。


これだけの布陣だ。 どんな結果が出ようとも、私たちは揺るがない。


「さあ、行きましょう。大事な一日になるわ」


私は立ち上がり、宣言した。


「大変だけど、皆でやりきるわよ」


「「「御意!!」」」


力強い返答が、円卓の間に響き渡る。 それぞれが、自分の持ち場へと散っていく。 その背中は、どんな時よりも大きく、頼もしく見えた。


「行きましょう、エリオン。ヒイロを迎えに」


「ああ。……あの子なら、きっと大丈夫だよ」


私たちは手を取り合い、ヒイロの待つ部屋へと向かった。 運命の扉が、今、開かれようとしている。


ヒイロの能力がいよいよ明らかになります。

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