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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第31話「嵐の前の戦略会議」

大陸歴 2791年 6月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / アウローラ=エヴェリン


王宮の深奥にある「円卓の間」には、重苦しい沈黙ではなく、ピリリとした緊張感と、それを上回る熱気が渦巻いていた。 今日の議題は、先日の「顔見世」の総括と、来たる「祝福の儀」、そして7月の「国外向けのヒイロのお披露目パーティ」に向けた外交・内政の方針策定である。


円卓を囲むのは、この国を支える最高幹部たちだ。 宰相リリア、外務大臣ミラナ、商業大臣ルシラ、神官長テレジア、侍女長エラーラ。 それに加えて、工業大臣ナムルー、魔法大臣エルドリン、騎士団長ライラ、副騎士団長セラ。 そして、先代女王である母エリシア、夫のエリオンも顔を揃えている。 今日はさらにもう一人。ドラコニア帝国への駐在から一時帰国している外交官、アナスタシア=エヴェリンも加わっている。


「まずは、先日の顔見世……大成功でしたわね」


口火を切ったのは、外務大臣のミラナだった。扇子を開き、満足げに微笑む。


「国内の結束は盤石。それに、本来は敵対陣営であるはずの国々とも太いパイプができましたわ。トルヴァード連邦のアルーシャ外務大臣、モントルヴァル公国の外交官……。特にイヴェット・カンガが持ってきた香炉立、あれは素晴らしかった」


「ああ、あれかい」


工業大臣のナムルーが、両腕を組んで豪快に笑った。


「あの技術力は本物だ。モントルヴァルとの技術提携が進めば、我が国の工業力は一段階跳ね上がるだろうね」


「ええ。エヴェリン産の素材の価値も上がる。経済効果は計り知れませんわ」


商業大臣のルシラが目を輝かせる。 ここまでは順調な報告だ。だが、ここからが本題だった。ルシラとミラナが顔を見合わせ、声を揃えた。


「ですが陛下。私とミラナ様は、今回の顔見世を通じて、エヴェリン王国の価値が大きく変わる可能性を感じましたの」


「価値が変わる?」


私が問い返すと、ミラナが我々の住むヴァリス大陸の地図を広げ、扇子で地図上のエヴェリン王国を指した。


「ええ。敵対関係にある国同士が交渉できる『第三国の役割』です」


「……ふむ。光の同盟が、緩衝地帯になるということかな?」


魔法大臣のエルドリンが、興味深そうに身を乗り出した。


「今の世界情勢は、僕たち妖精族から見ても危ういからねえ。北の『炎盟(ドラコニア陣営)』と、西の『永遠条約圏(エテルニア陣営)』。いつ弾けてもおかしくない」


「その通りですわ」


ルシラが説明を引き取る。


「現在、二大陣営の対立は限界に達しつつあります。ですが、その実情については……現場の声を聞くのが一番でしょう」


ルシラが手で合図を送ると、部屋の隅に控えていた一人の女性が一歩進み出た。 侍女長エラーラの娘であり、私の従妹にあたる外交官、アナスタシア=エヴェリンだ。


「あたしから説明させてもらうわね。……あ、失礼。説明させていただきます」


エラーラに鋭く睨まれ、アナスタシアは慌てて先生役のノリから敬語へと修正した。彼女はテーブルに大陸地図を広げた。


「現場の空気は最悪……いえ、一触即発です。双方ともに戦争準備を進めていて、いつ火がついてもおかしくない状態です」


アナスタシアは地図上の国境線をなぞった。


「対立の根っこにあるのは、宗教観と倫理観の絶望的な違いです。特に、エテルニア大帝国やその傘下のアムリティン王国が、人間以外の種族や異教徒を『奴隷』として非人道的に扱っていること。これがドラコニア側の逆鱗に触れています」


「……獣人や亜人を多く抱えるドラコニアやアスラ連邦にとっては、許しがたいことでしょうね」


リリアが眉をひそめる。副騎士団長のセラも、不快そうに舌打ちをした。


「ああ。向こうじゃ『同胞が家畜扱い』されてるんだ。だからドラコニアやアスラは、やられたらやり返す『血の報復』を辞さない。物理的に相手を殲滅して、血で贖わせようとするぜ」


「野蛮だねえ。でも、気持ちはわかるよ」


エルドリンが羽を震わせて嫌悪感を示した。妖精族もまた、エテルニア圏では迫害の対象になり得るからだ。


「厄介なのは、双方ともに自分たちこそが正しいという『大義名分』をいくつも抱えていることです。正義と正義のぶつかり合いは、止めるのが難しい」


アナスタシアの言葉に、円卓の空気が重くなる。お互いに譲れない正義があるからこそ、妥協ができないのだ。


「それに……ドラコニア内部もきな臭いです」


アナスタシアが声を潜める。


「絶対的な女帝、サラリナ陛下の体調が思わしくないのです。もし女帝が崩御すれば、カリナ、カラリス、リリスという有力な三人の娘たちが、次期皇帝の座を巡って内戦を始めるリスクが高い。あそこは『強い者が継ぐ』のが掟ですから」


「内憂外患、というわけね」


母エリシアが静かに呟いた。


「ええ。この状況に、炎盟や永遠条約圏に属する国々は、我々以上に危機感を持っています。宗主国が暴走して戦争になれば最前線で使い潰されるでしょうし、内戦になれば巻き込まれる。……彼らは今、喉から手が出るほど『命綱』を欲しているのです」


「命綱、ですか」


「そう。軍事や経済的に支援を得られる、あるいは逃げ道となる第三国とのパイプ。そして何より、敵対陣営の国と内密に縁を繋いでおきたいというニーズです。ドラコニア傘下の国だって、エテルニア傘下の国と話がしたい。でも、そんな会話ができる場が、今のこの大陸には存在しません」


そこで、ミラナがパンと扇子を鳴らした。


「そこで、我が国の出番ですわ」


彼女は不敵な笑みを浮かべ、地図上のエヴェリン王国を指差した。


「我が国は『光の同盟』の盟主であり、中立に近い立場を保っています。そして今、世界中が注目する『王子ヒイロ』という求心力がある」


「……なるほど」


私は彼女の意図を察した。


「それぞれの国が、『我が国はエヴェリン王国の王子を祝いに来たのです』という建前で入国する……ということね?」


「ご明察ですわ、陛下。表向きは祝典への参加。ですがその実態は、エヴェリン国内で他国の外交官同士がある程度自由に接触し、裏交渉を行える『サロン』としての機能を提供するのです」


ミラナの瞳が野心に輝く。


「そうすれば、エヴェリンには大陸中の人が集まり『生きた情報』、『金』、『技術』と数えればきりがないほどのものが集まります。私たちは場所を提供するだけで、圧倒的に有利な立場になれますわ」


ナムルーが顎を撫でた。


「モントルヴァルの件もそうだが、各国の職人や魔導士が『祝いの品』という名目で技術や産品を持ち込んでくる。それを解析すれば、我が国の国力増加にもつながるのは間違いない。例の香炉立に使われている合金も、早速うちのサヴァがイヴェットと技術連携して、基本的な要素が分かればエヴェリンで作れると判断できた」(※そもそも香炉立はメイドイン”エヴェリン”)


「見返りは大きいでしょうけど……リスクはあるわね」


リリアが慎重に指摘する。


「ドラコニアとエテルニアの両国から、『コウモリ野郎』と睨まれる可能性があります」


「ふふ、今更ですわ」


ルシラが笑い飛ばした。


「どうせ睨まれているのです。ならば、その傘下の国々と個別に太いパイプを作り、宗主国の足元を切り崩せるカードを持っておく方が、よほど安全保障に繋がりますわ」


「あたしも賛成よ。……っと、賛成です。ドラコニアの連中も、本音じゃ『落としどころ』を探してる奴らは多いもの」


アナスタシアも同意する。 騎士団長のライラが、緊張した面持ちで、しかし力強く発言した。


「万が一、宗主国が強硬手段に出た場合は、我々騎士団が盾となります。今後の情報収集で得られる各国の情報は、防衛計画の見直しにも役立つはずです」


エリオンが、私の方を見て小さく頷いた。


「ヒイロの存在が、平和のための『かすがい』になるなら、我々の動きで戦争が回避される可能性があるのなら、それはヒイロにとっても良いことになる」


私は目を閉じ、思考を巡らせた。 ヒイロの「祝福の儀」、そして「国際紹介パーティ」。 これらは単なる息子の成長を祝う場ではない。国を守り、乱世を生き抜くための、巨大な外交戦場となるのだ。


「……やりましょう」


私は目を開き、力強く宣言した。


「エヴェリン王国は、光の同盟として、対話の場を提供する。……それが結果として、双方の大義名分による衝突を少しでも回避させ、ヒイロの生きる未来を守ることに繋がるのなら」


「御意」


全員が頭を下げる。 頼もしい臣下たちだ。軍事、魔法、工業、経済、外交、宗教。全ての分野のスペシャリストが、ヒイロのために動いてくれている。


「では、6月末の『祝福の儀』、そして7月の『国外向けのヒイロのお披露目パーティ』。これらを最大の好機と捉え、準備を進めますわ」


ミラナが楽しげに予定表を書き込んでいく。 嵐は近づいている。だが、私たちはただ怯えて待つだけの弱小国ではない。 この荒波を、乗りこなしてみせる。


大きな勢力が2つ向かい合っている時の第三陣営の存在は非常に重要ですし、その第三陣営にとって大きなメリットをもたらすことになります。


過去の例でいうとローマ帝国とパルティアやササン朝ペルシャに挟まれたパルミラや、ビザンツ帝国とイスラム勢力の間でうまく立ち回ったベネチア、織田と今川に挟まれた徳川など、枚挙にいとまがないですが、共通しているのはどちらかの強国が崩れる時には自分の足元も崩れるので、自分の足で立たないといけないところですね。


近世以降では、地政学的に考える必要が高まり、物理的に挟まれた「緩衝国家バッファ・ステート」ではなく、物理的には強国に挟まれていない(その国を介さずに侵攻が可能な状態の)第三国であることも注目される要素でしょう。


個人的には緩衝国家と非隣接の第三国では、役割が違うから生存率も違うと考えています。戦略的機能が緩衝国家は「クッション(緩衝材)」で、非隣接の第三国では「ブリッジ(架け橋)」になるために、強国からの圧力のかかり方が違うのではないでしょうか。


本作のエヴェリンにはドラコニアとエテルニアの間にあって両国を遮る「クッション(緩衝材)」としてではなく、隣接する部分はあるものの「ブリッジ(架け橋)」として立ち回ってほしいですね。

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