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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第26話「顔見世パーティ~男に飢えた淑女~」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール 王宮 / アルーシャ・リリヤスカ(トルヴァード連邦外務大臣)


「……ッ!!」


第二会場の扉をくぐった瞬間、私は扇子で口元を隠し、危うく漏れ出しそうになった歓喜の悲鳴を飲み込んだ。


(な、な、な……なんですの、ここは!? 天国!? 極楽浄土!?)


視界に飛び込んできたのは、煌びやかなシャンデリアでも、豪奢な装飾でもない。 男、男、男ぉぉぉ!!


右を見れば、初老の渋い紳士がグラスを傾けている。 左を見れば、あどけない少年の給仕がトレイを持って歩いている。 そして正面には、母親に連れられた貴族の若き令息たちが、緊張した面持ちで談笑しているではないか!


(信じられないわ……! 私のトルヴァードなら、男なんて地下に隠されているか、ドラコニアへの貢ぎ物として連れ去られて空っぽなのに! ここでは宝石のような男たちが無防備に歩き回っているなんて!)


目眩がした。あまりの供給過多に、脳が処理落ちを起こしかけている。 エヴェリン王国……なんて恐ろしい国。ここはまさに、私たち淑女にとっての約束の地だわ!


「あら、素敵なドレスですこと。異国の方かしら?」


近くにいた男爵夫人らしき女性が声をかけてきた。その横には、二十歳前後と思われる、線の細い好青年が控えている。


「ええ。トルヴァード連邦から参りましたの。……そちらは、ご令息?」


私が流し目を送ると、青年はさっと頬を赤らめ、視線を泳がせた。


「は、はい! 母の同伴で……その、めったに見ないお美しい方だなと思いまして……」


(キャーッ! 若いツバメの純粋なお褒め! その初々しい視線、ご馳走様ですわ!)


内心でガッツポーズを決めつつ、私は淑女の仮面を被り、優雅に微笑んだ。


「まあ、お上手ですこと。エヴェリンの殿方は、若くても紳士なのですわね」


青年がさらに赤くなる。ああ、食べちゃいたい。 だがいけない、今日は「仕事」で来ているのだ。ここで唾をつけておく程度に留めなくては。

そこへ、ふっくらとした人好きのする笑顔を浮かべた女性が近づいてきた。 今日のパーティへの「裏口」を用意してくれた、商業大臣のルシラ・ド・アルデンだ。


「ようこそおいでくださいました、アルーシャ様。楽しんでいただけておりますか?」


「ええ、もちろんよルシラ様。……エヴェリン王国の料理は大変美味しいですし、王宮の美しさにも目がくらみそうですわ。それに、会場を彩る花々のなんと素晴らしいことでしょう」


私は心からの賛辞を送った。ルシラはその意図を察したのか、ニヤリと笑みを深める。


「それは重畳。トルヴァード連邦とは、今後とも『深い』お付き合いができればと願っておりますわ」


「ええ。我が国は商業立国を目指しておりますの。特定の国……例えば北の宗主国ドラコニアだけでなく、複数の国と友好を持ちたいと考えておりますわ」


真面目な外交の話を挟むことも忘れない。男も大事だが、国益も大事だ。国が富めば、男も集まる。これ常識。

すると、もう一人、扇子を持った派手な美女が会話に割って入ってきた。


「あら、貴女が噂のアルーシャさんね。外務大臣のミラナよ。よろしく頼むわ」


「まあ、ミラナ様。お噂はかねがね」


陽気な美魔女、ミラナ・ソラリス。彼女もまた、私と同じ匂いを感じさせる外務大臣だ。

ミラナは私の耳元に顔を寄せ、悪戯っぽく囁いた。


「もしエリオン様に確実に会いたいなら、今のうちに第一会場側へ行ったほうがいいわよ。ヒイロちゃんの体調が悪くなり次第、謁見は中止だから」


「まあ!」


「ヒイロちゃんはね、もう本当に可愛いのよ! 貴女も一目見たら、絶対にファンになるわ」


(なんですって……! メインディッシュが逃げてしまう!?)


私はルシラとミラナに目配せをし、感謝を伝えると、ドレスの裾を翻して第一会場へと急いだ。

そして、間を置かず第二会場の来場客にも謁見の案内が出て、第一会場の大扉が開かれた。


「おや、これは……」


マイクを通した甘く低い声が、会場に響いた。 壇上に立つ進行役の男性――ブリオス・リスファルだ。 ロマンスグレーの髪を撫でつけ、仕立ての良い燕尾服を着こなしたダンディーな紳士。


「東の海から、美しい宝石がいらっしゃったようですね。ようこそ、麗しきお嬢様」


(ッ……!!)


私の心臓が跳ね上がった。 何この国! おじ様まで最高じゃない! 年上好きのツボまで押さえてくるなんて、エヴェリン王国の男性陣の層の厚さはどうなっているの!? 私の美貌はこの日のために、美容液で磨き上げてきたのよ! その言葉、しかと受け止めたわ!


「まあ! エヴェリンの殿方は噂通りお上手ですこと!」


私は高ぶる気持ちを抑えながら、ウキウキとステップを踏むように壇上へと上がった。 そして、ついに、あの方と対面した。


「トルヴァード連邦外務大臣、アルーシャ・リリヤスカでございます。この度は、愛らしい王子殿下のご誕生、心よりお慶び申し上げますわ」


目の前に立つのは、王配エリオン=エヴェリン。 噂に違わぬ、いや噂以上の貴公子。 その優しげな瞳、知的な額、そして包容力を感じさせる口元。


「遠路はるばる、ありがとうございます。アルーシャ殿」


エリオン様が、私に向けて極上の笑顔を向けた。


(――――きゅんッ!!)


私の胸の奥で、何かが弾けた。 尊い。無理。好き。 神様! 今日ここに来て本当によかったぁ! この笑顔だけでご飯3杯……いえ、ワイン瓶丸ごと一本空けられるわ! モリガノンの神殿にいるナヨっとした男娼とは違う、尊きものの「父性」と「気品」を纏った極上の雄。


そして、そのそばで豪奢なベビーベッドに寝ている赤ん坊――ヒイロ王子を見る。


(この王配の子なら、絶対に美男子に育つわね……)


そう確信した瞬間、ヒイロ王子が私を見て、キャッキャと笑いかけた。


(はうぅ……ッ!)


私は胸を押さえてよろめいた。 可愛い! 食べちゃいたいくらい可愛い! 母性本能という名のガソリンに、欲望という名の火が点いた。 この子を、私が守ってあげたい。そしてあわよくば、15年後くらいに美味しくいただきたい!


「お祝いの品でございます。トルヴァードの海が育んだ、奇跡の一粒ですわ」


私は震える手で、自国の名産の真珠を差し出した。 エリオン様がそれを受け取り、「ヒイロも喜んでいます」と微笑む。


ああ、名残惜しい。 一生ここに立っていたいけれど、後ろがつかえている。 私は何度も振り返りながら、渋々壇上を降りた。


その降着地点には、してやったりという顔のルシラが待ち構えていた。


「いかがでしたか、アルーシャ様?」


「……最高でしたわ」


私は興奮冷めやらぬ様子で、ルシラの手をガシッと握りしめた。


「エヴェリンの男性はいかに素晴らしいか! 宝石よりも輝いていますわ! 特にエリオン様のあの慈愛に満ちた眼差し……ああ、思い出してご飯が食べられます!」


「ふふ、それはようございました。では、今後のお話ですが……」


「ええ、ええ! 今後、トルヴァード連邦が最優先で縁を結ぶべきはエヴェリン王国と確信しましたわ!」


私は鼻息荒く宣言した。


「帰国したら首長ルーシア様にそう報告します!トルヴァード連邦はエヴェリンを最重要視しますわ! 約束します!(だってこんなに素敵な男達がいるから!)」


外交交渉、成立。 欲望が世界を平和にする瞬間である。


私が頬を上気させて余韻に浸っていると、背後から声をかけられた。


「あら、アルーシャ様ではありませんこと? ごきげんよう」


振り返ると、そこには豪奢なドレスを身に纏い、背中に薄い羽を生やした可憐な女性が立っていた。 フィオラ王国の大商人、アイリス・フェアリーだ。彼女とは商売柄、顔見知りである。


「まあ、アイリス様。貴女も紛れ込んでいらしたのね」


私はニヤリと笑った。この「国内向け」のパーティに外国人がいるということは、お互い何らかの裏ルートを使ったということだ。


「ふふふ、商機は逃しませんわ。貴女こそ、ちゃっかり一番乗りで王子様に謁見されて」


「ええ。外交にはスピードが命ですもの(いい男は早い者勝ちよ)」


私たちは目を見交わし、ふふふと笑い合った。 お互い、この「招かれざる客」の立場を楽しんでいる。抜け目のない女同士、通じ合うものがあるというわけだ。


その時、会場の空気が少し変わった。 壇上に、見慣れない二人組が現れたのだ。


先頭は、王室工房長のサヴァとかいう職人。 そして、その後ろからおずおずと出てきた小柄な女性が、震える声で名乗った。


「も、モントルヴァル公国……外交官、イヴェット・カンガでございます……!」


「……え?」


私は思わず声を上げた。 横にいたアイリスも、驚いたように目を丸くしている。


「モントルヴァル……? 外交官?」


会場がざわめく。 招待状は出ていないはずだ。私やアイリスのような強力なコネや立場を持つ者ならともかく、エヴェリンにとって同盟国でさえないモントルヴァルの若い外交官が、どうやってこの場に入り込めたというの?


「私たち以外にも、この場に入り込めた外国人がいたの?」


私は思わず疑問を声に出しながら視線を壇上の小娘に向けた。 ガチガチに緊張して、今にも倒れそうだ。とても凄腕の諜報員には見えないけれど……。 いや、待てよ。あの怯えた様子すら演技だとしたら? 正規のルートを通さず、職人を使って潜り込む手腕。侮れないわ。


その後、会場がさらにどよめいた。 イヴェットが震える手で美しい細工のされた木の箱から取り出したのは、息を呑むほど精緻な金細工の香炉立だったのだ。 黄金に輝くその逸品は、技術と美しさの結晶であり、ヒイロ王子も手を叩いて喜んでいる。


(あれほど素晴らしい品を用意できる程自国からの支援を受けている外交官が潜り込んでいるとは。 しかも、あんなにも王子の関心を引いている。 これは……逃がせないわ。)


壇上を降りてきたイヴェットが、ほっと息をついて帰ろうとしたその時。 私は反対側から近づいてきたアイリスと目が合った。 彼女もまた、獲物を狙う目をしている。


「ちょっと貴女! あの金細工の香炉立について、詳しく聞かせてくださらない!?」


「あらあら、抜け駆けはなしよ。私ともお話ししましょう?」


私たちは左右から、イヴェットの腕をガシッと捕獲した。


「ひぃっ!?」


小動物のような悲鳴を上げるイヴェット。


アイリスが自己紹介と商売の話を振った後に、私も本題を切り出す。


「私はトルヴァード連邦の外務大臣をしているアルーシャ・リリヤスカと申しますわ。私もモントルヴァルの製品に興味があるから、後でじっくり紹介してもらえるかしら? ついでに、貴国のお国のイイ男の情報もセットでね」


「え、あ、はい……!?」


イヴェットを引きずりながら、私たちは会場の隅のソファへと向かった。イヴェットは話してみると純粋そうな技術者で、アイリスも物わかりの良い女性でヒイロ様がいかに将来有望かという話で盛り上がりつつ、とても楽しい時間を過ごせた。


パーティが終わり、私はホテルへの帰路についた。 夜風が心地よい。 最近得られていなかった「イケてる男たち成分」をたっぷり吸収し、肌艶がよくなった気がする。化粧のノリも明日は最高だろう。


「ふふふ……」


私は上機嫌で、夜空を見上げた。 今日の場を用意してくれたマレラには、特別褒章……いいえ、私の秘蔵の美容液コレクションを渡してあげましょう。 彼女のおかげで、私は久しぶりに「女」としての喜びを思い出したのだから。


エヴェリン王国。 本当に、素晴らしい国だわ。 これからも足繫く通わせていただくことにしましょう。


パーティ会場で美しく着飾った異性を見るといつもより魅力的に見えますよね。

結婚式場で昔の友人に会うと驚くほど変わって別人のように感じる経験があります。


馬子にも衣装と日本語で言うと怒られそうですが、”Fine feathers make fine birds”と英語で言うと誉め言葉っぽく聞こえるのは、語感の大事さの表れだと感じますね。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読破しました! 作中世界が逆転世界であると言うだけに留まらず、そうであるなら世界はどう動くかという作中全般の社会情報・人間の心理考察など深みのある良い作品だと感じました。堂々と己の考えを貫く…
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