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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第23話「顔見世パーティ~後半~」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール 王宮大広間 / ヒイロ=エヴェリン


第一会場の挨拶が一段落し、会場の空気が少し緩んだ頃、大扉が再び開かれた。 いよいよ「第二会場」からの招待客の入場だ。 中小貴族や現場の実務者たちがメインと聞いていたが、先頭を切って入ってきた人物を見て、俺は内心で「おっと」と声を上げた。


「失礼いたしますわ~!」


豊満な肢体を強調したドレスに身を包み、南国の熱風のようなオーラを纏った女性。 トルヴァード連邦の外務大臣、アルーシャ・リリヤスカだ。 彼女は本来なら招待状を持っていないはずの「招かれざる客」だが、商業大臣ルシラの裏工作によって堂々と正面から乗り込んできたわけだ。


「おや、これは……」


進行役のブリオスが、マイク代わりの魔道具を通して甘い声を響かせた。


「東の海から、美しい宝石がいらっしゃったようですね。ようこそ、麗しきお嬢様」


ブリオスのキザな歓迎に、アルーシャの顔がパァッと輝く。


「まあ! エヴェリンの殿方は噂通りお上手ですこと!」


彼女はテンションMAXで、ウキウキとステップを踏むように壇上へと上がってきた。 その視線は、俺……ではなく、俺の側にいる父上エリオンに釘付けだ。


「トルヴァード連邦外務大臣、アルーシャ・リリヤスカでございます。この度は、愛らしい王子殿下のご誕生、心よりお慶び申し上げますわ」


「遠路はるばる、ありがとうございます。アルーシャ殿」


父上が、ルシラ叔母さんとの打ち合わせ通り、極上の「営業スマイル」を向ける。 俺も負けじと、キャッキャと笑って愛想を振りまく。


「はうぅ……ッ!」


アルーシャが胸を押さえてよろめいた。


「尊い……! なんて美しい父子……! 本日は私の人生で最高の日になりましたわ!」


彼女は昇天寸前の恍惚とした表情を浮かべ、震える手で従者に合図を送った。 差し出されたのは、赤ちゃんの握りこぶしほどもある巨大な真珠だ。


「お祝いの品でございます。トルヴァードの海が育んだ、奇跡の一粒ですわ」


「これは素晴らしい。ヒイロも喜んでいます」


父上が受け取ると、アルーシャは名残惜しそうに、何度も振り返りながら壇上を降りていった。 その降着地点には、商業大臣ルシラが待ち構えていた。


(……ルシラが笑顔だがとても悪い顔をしている)


ルシラがそっと耳打ちすると、アルーシャは鼻息荒く頷いているのが見えた。

「トルヴァード連邦はエヴェリンを最重要視しますわ! 約束します!」という声が漏れ聞こえる。 色仕掛け(父上)と実利ルシラのコンボ。外交交渉成立の瞬間だ。


続いて現れたのは、対照的な二人組だった。


「やあやあ、ヒイロ君! 元気かい?」


パタパタと薄い羽を羽ばたかせながらやってきたのは、魔法大臣のエルドリンだ。 そして、その彼にエスコートされているのは、銀髪に薄緑の瞳を持つ知的な女性妖精。 ティルナリア王国の外交官、シャエララ・ライトウィングだ。


「僕もヒイロ君に会うのは初めてになるね~。魔法大臣のエルドリンだよ~」


エルドリンがあっけらかんと言うと、シャエララは少し決まりが悪そうに、しかし極めて丁寧に頭を下げた。


「……魔法大臣閣下のお口添えにより、拝謁の機会を賜りましたこと、感謝いたします。ティルナリア王国、外交官のシャエララでございます」


彼女は真面目な委員長タイプといった風情だ。 エルドリンのような「変人」枠ではなく、しっかりとした実務家に見える。


「友好の証として、こちらをお納めください」


彼女が差し出したのは、複雑な幾何学模様が刻まれたクリスタルのような置物だった。


「魔力増幅の魔道具でございます。王子殿下の健やかな魔力成長の一助となれば幸いです」


(魔道具! ガジェットだ!)


俺は思わず身を乗り出した。 前世で言えば最新スマホや高性能PCをもらったようなものだ。テンションが上がらないわけがない。 「あーうー!(ありがとう!)」と手を伸ばすと、シャエララは安堵したように微笑んだ。


ふと母上アウローラを見ると、エルドリンの方をジト目で見ている。 エルドリンは明後日の方向を向いて口笛を吹いていた。


(……なるほど。あの魔道具、エルドリンが裏で手土産用に渡したんだな)


真面目なシャエララに手柄を譲り、ティルナリアとの関係を強化するための演出か。 変人に見えて、やることはやる大臣らしい。


そして、最後に意外な雰囲気の人物が現れた。


豪奢なドレスや礼服が溢れる会場の中で、その人物は一際「堅い」歩き方で入ってきた。 仕立ての良い女性用の礼服に身を包んではいるが、その歩幅や重心の掛け方は、ドレスを着慣れた貴婦人のそれではない。重い資材を担ぐことに慣れた、職人の歩き方だ。


工業大臣ナムルーによく似た面差しを持つ、鋭い目つきの女性。 その後ろには、小動物のようにガチガチに緊張した小柄な女性が、彼女の背中に隠れるようにして付き従っている。


先頭の女性が、ヒイロたちの前で足を止めた。 彼女は一瞬、「ええと、手はどうするんだったか」と迷うような素振りを見せた後、ぎこちない動作で深く一礼した。


「……王室工房長を務めております、サヴァ・ディ・バロと申します」


低い声で名乗る。


「本日は、工業大臣ナムルーの娘として、お祝いに上がりました」


(ほう、彼女が……)


俺は興味深く観察した。 工業大臣ナムルーの娘とのことだが若い。若くして王室工房の現場を任されているということは相当優秀なのだろう。 俺が今寝ているこの特注ベビーベッドを作ったのが母のナムルーなら、その素材を手配し、現場の進行管理(PM)を行っていたのは彼女だろう。


(慣れない正装に、強張った表情……。なるほど、「顧客へのプレゼンに無理やりスーツで連れ出された技術リーダー」といったところか)


俺は内心で親近感を覚えた。 彼女からは、華やかな社交辞令よりも、確かな技術と現場への責任感が匂い立つようだ。この国のモノづくりを支える実務部隊のトップ。将来、俺が何か新しい技術や製品を開発しようとした際、最も頼りになるキーマンの一人だ。


母上も、そんな彼女の気質を理解しているのだろう。柔らかく微笑んで声をかけた。


「ようこそ、サヴァ。いつもありがとう。このベッドの素材手配も見事だったわ」


「はっ……恐縮です。母……いえ、大臣も気合を入れておりましたので」


サヴァはちらりと横目で、近くに控えているナムルー大臣を見た。 ナムルーは腕組みをして、厳しい、しかしどこか温かい職人の目で娘の晴れ舞台(?)を見守っている。


サヴァは一つ息を吐くと、少しだけいつもの「姉御肌」の顔に戻り、後ろに隠れている女性を促した。


「……それと、本日は私の友人を同伴しております。紹介させてください」


サヴァが一歩下がり、背後の女性が露わになる。 その女性――モントルヴァル公国の外交官は、まるで断頭台の前に引き出された囚人のように蒼白な顔で震えていた。


促された小柄な女性は、意を決したように顔を上げ、裏返りそうな声で名乗った。


「も、モントルヴァル公国……外交官、イヴェット・カンガでございます……!」


イヴェットと名乗ったその女性は、見るからに緊張していた。 声が裏返りそうだ。


「モントルヴァル……? 外交官?」


「招待状は出ていないはずだが……」


談笑していたアルーシャやアイリス・フェアリーも、「私たち以外にも、この場に入り込めた外国人がいたの?」と驚きの視線を向ける。 外交ルートを持たないはずの彼女がここにいること自体が、周囲には「凄腕の証明」として映っているのだ。


(……これがみんなが噂していたイヴェット・カンガか、007に出てくるボンドガールのような凄腕のスパイを想像していたが、俺の目には、社長主催の新入社員歓迎会でスピーチをさせられてテンパっている新人にしか見えない)


イヴェットは震える手で、恭しく桐箱のようなものをブリオスに手渡した。


「お、王子誕生の……贈り物です……!」


その箱を見た瞬間、近くにいたナムルー大臣の目が鋭く光った。

俺も目を凝らす。 箱だけで、只者ではない職人の仕事だと分かる。


(あの箱……ただの木箱じゃない。寄木細工か? 継ぎ目が全く見えない。それにあの象嵌も見事だな)


受け取ったブリオスが箱を慎重に開け、中身を取り出した。会場中の注目がそこに集まっている。 会場の魔法灯の光を受けて、黄金の輝きが溢れ出す。


「おお……」


会場から感嘆の声が漏れた。 現れたのは、「金細工の香炉立」だ。


ただの金塊ではない。 金と銀を絶妙な比率で配合したであろう合金が、繊細なレースのように編み込まれている。 モチーフは野花だろうか。素朴ながらも、花弁の一枚一枚、葉の葉脈に至るまで、狂気的なまでの解像度で彫り込まれている。 それでいて、全体としてのシルエットは洗練されており、モダンアートのような美しさを持っていた。


「……っ!!」


ナムルー大臣が目をカッと見開き、思わず一歩踏み出した。


彼女の表情を見るだけで驚愕の声にならない声が、俺には聞こえるようだった。 遠くで見ていた大商人のアイリス・フェアリーも、商人の本能か、吸い寄せられるように壇上の近くまで駆け寄ってきている。


「素敵な贈り物ね」


母上が感心したように呟き、ナムルーに水を向けた。


「どう、ナムルー。貴女から見て」


ナムルーはゴクリと唾を飲み込み、重々しく答えた。


「……とんでもない品だ。技術も素材も最高級。国宝級と言ってもいい。二つとない傑作だよ。モントルヴァルの門外不出の技術がふんだんに使われてるし、エヴェリン風の流麗な意匠を取り入れて昇華させている……」


その評価に、会場が再びどよめいた。


(すげぇ……)


俺は純粋に感動していた。 前世、俺の趣味の一つが美術館巡りだった。 学生時代、お金がなくて旅行には行けなかったが、美術館や博物館の常設展なら学生は無料で入れた。古代の金細工や装飾品をガラス越しに眺めては、遥か昔の職人の息吹を感じていたものだ。


だが、これは違う。 ガラス越しではない。今、目の前にある「生きた芸術」だ。 計算され尽くした重心、見る角度によって表情を変える光沢。 作った人間の「魂」が、そこにある。


「あーうー!(ブラボー!)」


俺は惜しみない拍手を送るべく、手を叩いて喜んだ。


「まあ、ヒイロも気に入ったようね」


母上が微笑み、イヴェットに向き直る。


「そんな素晴らしい品を頂くなんて、緊張してしまうわね。飾っておくのが一番かしら?」


それは、相手の真意を探るための鎌かけだったのかもしれない。 だが、イヴェットは顔を真っ赤にして、必死に首を横に振った。


「ぜ、全然気にせずお使いください! こ、これはその……軽さや実用性に特にこだわって作られた品ですので! ガシガシ使ってもらってなんぼのモンです!」


彼女の言葉は、本心からの職人の言葉だっただろう。 だが、周囲には「国宝級の芸術品を、実用品として使い潰せるほどの余裕と自信」として受け取られたようだ。


「ありがとう。それなら遠慮なく使わせてもらおう」


父上が鷹揚に頷き、挨拶が終わった。


イヴェットは「ふぅ……」と魂が抜けたような顔で壇上を降りていく。 任務完了、といったところか。 だが、彼女の戦いは終わっていなかった。


「ちょっと貴女! あの金細工の香炉立について、詳しく聞かせてくださらない!?」


「あらあら、抜け駆けはなしよ。私ともお話ししましょう?」


壇上を降りた瞬間、満面の笑みを浮かべたアイリス・フェアリーと、興味津々のアルーシャに、左右からガシッと腕を掴まれるイヴェットの姿が見えた。


「ひぃっ!?」


小動物のような悲鳴が聞こえる。


(あーあ、捕まった)


俺は心の中で合掌した。 まあ、あれだけの品を用意できる人物だ。外交の世界でも、商売の世界でも、大いに揉まれてもらうとしよう。 彼女が持ち込んだ「職人の魂」は、確かにこの会場に一石を投じたのだから。


イヴェットが捕獲されたのを皮切りに、会場の熱気は最高潮に達した。 第二会場の参加者たちも合流し、大臣たちを囲んでの談笑、商人たちの商談、そして貴族たちの縁談話がそこかしこで花開く。 誰もが笑顔で、エヴェリン王国の未来と、俺という王子の誕生を祝っている。


「大成功ね」


母上が満足げに会場を見渡す。 父上も、姉たちも、そして俺を取り巻く全ての人々が輝いて見えた。


こうして、俺のデビュー戦となる「顔見世パーティ」は、誰もが予想しなかったほどの熱狂と大盛況に包まれたまま、華やかに幕を閉じたのだった。

百貨店で開かれる全国各地の職人の工芸品の展示販売会が好きです。

昨今は実用的なシンプルなものが求められる時代だと感じますが、そんな時代でも生き延びている美術品としても実用品としても価値がある品に一番魅力を感じます。繊細な技術の結晶を見るとお値段無視して衝動買いしたくなるほど引き込まれます。


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