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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第22話「顔見世パーティ~前半~」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール 王宮大広間 / ヒイロ=エヴェリン


重厚な両開きの扉の向こうから、さざ波のようなざわめきが漏れ聞こえてくる。 まるで、開演を待つオペラハウスの熱気だ。


俺は工業大臣ナムルーが魂を込めて作り上げた特注のベビーベッドの中で、その時を待っていた。 ベッドはさながら「移動式の玉座」だ。衝撃吸収サスペンション完備、最高級シルクのクッション。乗り心地はハイヤーの後部座席並みに快適である。


「……準備はよろしいですか、陛下、エリオン様」


よく通る、深みのあるバリトンボイスが響いた。 主席儀礼官ブリオス=リスファル。侍女長エラーラの夫であり、この国の「顔」として式典を取り仕切る男だ。 父上エリオン母上アウローラが頷く気配がする。


ブリオスが大きく息を吸い込み、朗々たる美声で宣言した。


「女王陛下、王配殿下、ならびに第一王子ヒイロ殿下のご入場でございます!」


ギィィィ……と重々しい音を立てて扉が開かれる。 その瞬間、物理的な質量を伴うほどの音圧が押し寄せてきた。


『オオオオオオオッ!!』


万雷の拍手。そして歓声。 俺の視界には、高い天井に輝く巨大なシャンデリアと、壁の上部に施された精緻な彫刻しか見えない。 ベビーベッドの柵に遮られ、周囲の状況は音でしか判断できないのだ。


(……すごい熱気だ。大人気のロックアーティストでも入場してきたかのようだ)


俺は内心で舌を巻いた。 この歓声のすべてが、生後1か月もたたない赤ん坊に向けられている。 期待値の高さが、肌を焼くような圧力となって伝わってくる。

ベッドが滑らかに動き出す。俺は天井を見上げたまま、光の海の中を進んでいく。 やがて動きが止まり、壇上に到着したようだ。


「失礼いたします、ヒイロ様」


聞き慣れたエラーラの声と共に、ベッドの下部で何かが操作される音がした。 キコキコ……と微かな駆動音を立てて、背もたれ部分が持ち上がり、俺の上半身がゆっくりと起こされる。 ナムルー大臣、いい仕事をしている。リクライニング機能付きとは恐れ入った。


視界が一気に開けた。


(……ほう)



俺の口から、感嘆の息が漏れそうになる。 そこには、ヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」を、魔法の力でさらに壮大に、幻想的に拡張したような空間が広がっていた。


無数の灯がクリスタルのように煌めき、壁一面の巨大な鏡がその光を無限に反射させている。 そして、その光の中を埋め尽くす、着飾った貴族たち。 色とりどりのドレス、煌びやかな宝飾品。 数百、いや千に近い視線が、壇上の俺一点に注がれている。


(これが、俺のデビュー戦のステージか。……悪くない)


俺は臆することなく、その光景を見渡した。 前世で何度も経験したプレゼンテーションの場。規模は桁違いだが、やるべきことは変わらない。 「ここにいる全員をファンにする」。それだけだ。


「皆様」


母上の凛とした声が響き渡ると、波が引くように会場が静まり返った。


「急な呼び出しにもかかわらず、これほど多くの者が集まってくれたことに感謝する」


女王としての威厳に満ちた口上。


「本来は来月の『祝福の儀』でお披露目すべきだが、各所から『一刻も早くヒイロがどのような子か知りたい』という熱烈な要望があった。ゆえに、国内の皆様に限り、特別にこの場を設けた次第である」


あくまで「貴族たちの要望に応えた」という形にする。政治的に正しい方便だ。 母上の挨拶が終わり、パーティの開始が告げられると、再び会場は華やかな空気に包まれた。


ここからは、選ばれた有力者たちによる挨拶タイムだ。 いわば「剥がし屋付きの握手会」。俺は愛想の良い完璧な赤ん坊を演じつつ、相手を冷静に評価していく。


最初に壇上に上がってきたのは、勲章をつけた軍服に身を包んだ女性の率いる一団だった。


「北方の盾、スティールウィンド家の皆様でございます」


ブリオスの深みのあるバリトンボイスが紹介してくれる。


眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性が、流麗な騎士の礼をとる。 カイネ・スティールウィンド辺境伯。優しげな表情だが、よく見ると肉体は鍛え上げられていて傷跡も多いしその身から発せられる覇気は只者ではない。これが異世界の猛将というやつか。


「娘たちをご紹介いたします。長女のリアナ、次女のフレイヤです」


紹介された二人の少女。 長女のリアナ(13歳)は冷静に礼をする。「お初にお目にかかります」 次女のフレイヤ(6歳)は目を輝かせ、「ちっちゃい! かわいい!」と興奮を隠しきれていない。


(ふむ。戦力としても、将来の婿の引受先としても優良物件だな。北方の防衛を担う一族とは良好な関係を築いておくべきだ)


俺はニッコリと営業スマイルを向ける。フレイヤが「笑った!」とさらに興奮する。ちょろい……いや、素直でいい子だ。


続いて現れたのは、重厚な空気を持つ母子だった。


「ウォーデン家、当主ダリアでございます」


武門の名家らしい、隙のない立ち振る舞いの女侯爵。 そして、その横に控える少年を見て、俺の目が釘付けになった。


「お初にお目にかかります、ヒイロ殿下。ダリアの息子、アルトリウスと申します」


14歳くらいの爽やかな少年だ。 背筋が伸び、剣だこができているであろう手。礼儀正しく、それでいて卑屈さがない。騎士服がよく似合っている。


(彼が『若君』か……!)


俺は内心で快哉を叫んだ。 この圧倒的な女社会の中で、男として堂々と、自分の役割を見つけて立派に振る舞っている。 彼からは学ぶべきことが多そうだ。俺のこの世界でのロールモデルになるかもしれない。


俺は単なる愛想笑いではなく、親愛の情を込めてキャッキャと笑い、彼に向けて手を伸ばした。 アルトリウスは少し驚いたようだが、すぐに嬉しそうに微笑み返してくれた。 よし、掴みはオッケーだ。将来の兄貴分確保。


次に挨拶に来たのは、神官長のテレジアだ。 彼女の腕には、白いおくるみに包まれた赤ん坊が抱かれている。


「この子はユリアと申します。……ヒイロ様と同い年になりますわ」


テレジアが慈愛に満ちた瞳でそう告げる。 公の場なので「姉」や「弟」という表現は避けているが、その目線や、横にいる父上の柔らかな表情が全てを物語っていた。


(よろしくな)


俺は手を伸ばし、ユリアの小さな手に触れた。 ユリアもまた、俺の指をぎゅっと握り返してくる。 彼女は『「Dream(夢)』のWordを持っているという。どんな夢を見る子になるのだろうか。 異母姉弟としての絆を確認し合う、静かな握手だった。


そして、最後に現れた一行を見て、俺の思考は吹き飛んだ。


「ヴェルダント家、リンディスでございます」


野心家と噂のリンディス伯爵が、少しおどおどした少年を紹介する。 養子のテオラス(6歳)。魔力量が多く頭もよいという天才児だが、確かに気弱そうだ。俺が守ってやりたくなるタイプだな。仲良くしておきたい。


だが、俺の視線はその隣にいる人物に吸い寄せられた。


リンディス伯爵の同行者として紹介された女性。 人間離れした整った顔立ちと小柄な体躯。そして背中には、光の加減で虹色に輝く薄い羽が生えている。


「フィオラ王国より参りました、アイリス・フェアリーと申します」


(う、うおっ……!!)


俺は心の中で絶叫した。


(本物の妖精だ! ファンタジーだぁ!!)


これが前世も含めて初めて見る「本物のファンタジー種族」だった。 CGではない。特殊メイクでもない。 生きた妖精が、目の前で微笑んでいる。某モンスター娘を生物学的に研究する作品の主人公の気分が今なら分かる!!


「ヒイロ殿下のご誕生をお祝いして、極上の香木をお持ちしましたわ」


彼女が差し出したのは、目が飛び出るほど高価な香木とのことだ。 その笑顔は可憐だが、目の奥には商魂たくましい光が宿っている。


(妖精で、しかも商人! 属性てんこ盛りかよ!)


俺は感動のあまり、声を上げて笑った。 「あーうー!(すげぇ!)」 これだから異世界転生はロマンがあるのだ。一瞬、重要なパーティの場だということを忘れて、ただのファンタジーオタクに戻ってしまった。


アイリスは俺の反応を見て、「あら、気に入っていただけたかしら?」と嬉しそうに微笑んだ。 いや、気に入ったなんてもんじゃない。感動した。


一通りの挨拶が終わる頃には、俺のテンションは最高潮に達していた。 疲れるどころか、アドレナリンが出て目が冴え渡っている。


「この子はまだ元気なようね」


母上が俺の様子を見て、満足げに頷いた。


「……よし、予定通り、第二会場の方々もお呼びしましょう」


その言葉に、俺は口元を引き締める。 第一会場は、大貴族や大商人という最上層部の人たちだが、次に控える「第二会場」には、中小貴族、ギルド長、工房の親方といった、現場の実務を取り仕切る連中が集まっている。


(さあ、これから来る者こそ曲者ぞろいで、本当の勝負になるだろう)


待ってろよ、俺の営業スマイルで、全員まとめて顧客ファンにしてやる。

俺は小さく拳を握り、第二会場からの来訪者が来るのを待った。


多分本物の妖精を目の前にしたら感動すると思います。それはこれまであまたの物語で見てきた存在が実際に目の前にいるという感動ですね。20年前からカラオケで良く歌っていた歌手のライブに、大人になってから行くと、生歌聞こえてきただけで体が震えるような感覚があります。多分あれに近い感情かなと推測して書きました。

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