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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第21話「顔見世の朝と深読みする人たち」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール ヒイロの寝室 / ヒイロ=エヴェリン


決戦の朝は、重厚な搬送音と共に始まった。


「どうだい! 本気で仕上げたあたしの最高傑作だ!」


工業大臣ナムルーの声が響き渡る。彼女が数人の屈強な職人たちに運ばせてきたのは、今日行われる「顔見世」で俺が鎮座するための特注ベビーベッドだ。 モントルヴァル様式の透かし彫りが施されたフレームには、魔力伝導率の高い希少金属が惜しげもなく使われ、クッションには最高級の絹が使われている。


(……ゆりかごというより、これは「玉座」だな)


俺は狸寝入りを装いながら、薄目を開けてその威容を確認した。 機能美と過剰な装飾が同居したその代物は、俺という「商品」を陳列するためのショーケースとして完璧だ。座り心地、いや寝心地も悪くない。


「ありがとう、ナムルー。これならヒイロも安心して皆様の前に出られるわ」


母上が満足げに頷く。 部屋には、母上と父上、そして宰相リリア叔母上をはじめとする主要閣僚たちが集まっていた。午後の開演に向けた、最後の作戦会議だ。


「さて、招待客の最終確認ですわ」


商業大臣のルシラが、分厚いリストを広げた。


「予定外の外国の参加者が二人、判明しました」


その言葉に、部屋の空気がピリッと張り詰める。 俺は耳をそばだてた。昨日の会議で「招待状なしで来る者は優秀な諜報能力を持つ」と結論付けていたはずだ。果たしてどんな手練れが現れたのか。


「まず一人目は、フィオラ王国の香水商、アイリス・フェアリー女史です」


ルシラが報告する。


「彼女は、リンディス・ヴェルダント伯爵の『同行者』として登録されています」


「ああ、アイリスさんか。王宮にもよく来る世界的な大商人じゃないか」


父上が懐かしそうに微笑んだ。


「彼女なら面識もあるし、身元も確かだね。ヒイロに合う良い香りを教えてくれるかもしれない」


「ええ。ですが、注目すべきはリンディス伯爵の動きですわ」


リリア叔母上が冷静に分析を加える。


「リンディスは軍人閥きっての野心家です。この機会を利用して、フィオラの大商人に『顔見世への参加権』という恩を売りつつ、自分の価値も高めようとしている。見返りを受けつつ、参加させても大丈夫そうな人を選ぶあたり、さすがに優秀だわ」


(なるほど。Win-Winの関係構築か。リンディス伯爵……確かテオラス少年の義母だったな。軍人のようだが抜け目のない政治家タイプのようだ)


「そしてもう一人は……」


外務大臣のミラナが、悔しそうに唇を噛んだ。


「お恥ずかしながら、完全にノーマークでしたわ。モントルヴァル公国の外交官、イヴェット・カンガ」


「イヴェット……? 聞かない名だな」


ナムルーが首を傾げる。


「ええ。元々はモントルヴァル公国の工匠で、人手不足の穴埋めで一年前に急遽外交官として派遣された新人のはずです。データが薄く、重要人物リストにもブラックリストにも入っていませんでした」


ミラナは扇子をきつく握りしめ、焦りを隠せない様子で続けた。


「ここ最近、エヴェリン王国内の服飾店や高級品店、外商ルートには徹底的に網を張っていたのです。多くの外交官たちが、一か月後の『祝福の儀』に向けて衣装や手土産を買い漁っていましたから」


「当然だね。顔見世に参加するなら、それ相応の準備が必要だ」


「ええ。ですが……彼女の名前は、どの店の購入リストにもなかったのです。特に『顔見世の情報を得ることができた外交官や商人』は手土産などの前倒しや緊急依頼をするはずで、実際に参加はできなかったがそういう動きをしたものは複数名いました。それは皆、重要人物リストに入っている優秀な外交筋の人間でした」


部屋に沈黙が落ちた。


「顔見世に来るなら、王族への謁見にふさわしい手土産を調達するはずよね。なのに、金を使った形跡が一切ない。……一体どうやって準備を? まさか、既存の流通網を介さない、独自の補給ルートを持っているとでもいうの?」


(……なにっ?)


俺は内心で唸った。 外交官が現地で金を落とさずに物資を調達する? それはつまり、完全に足がつかない「隠密行動ステルス」を完遂したということだ。 急な開催決定からわずか数日で、現地の監視網をすり抜けて準備を整える兵站能力。……このイヴェットという女、ただの新人ではないな。


「おそらく事前に参加することを気取られて妨害されることを防いだのでしょう。実際私たちが彼女の存在を知ったのは昨日のことでした。さらに気になるのは、彼女が自ら『第二会場』を希望したことです」


ルシラが引き継ぐ。


「彼女は、サヴァ・ディ・バロ工房長の『同伴者』として登録されています」


「サヴァの? ……なるほど、王室工房長とすでにパイプを持っているということか。侮れないわね」


リリア叔母上が感心したように呟く。


「昨日、部下を接触させて『よろしければ第一会場(VIP席)への変更も可能です』と打診させました。外交官という肩書なら、その資格はありますから。……ですが、彼女は『第二会場で結構です』と即答したそうです」


「ほう……?」


リリア叔母上の目が鋭く光った。


「王子の顔を間近で見るという名誉よりも、実利を取ったというわけね」


「その通りですわ。第二会場には、私たち大臣や、各ギルド長、工房長といった『実務のトップ』が集まります。彼女は華やかな舞台に踊らされず、現場の決裁権を持つ層

との濃密なコネクションを求めているのです」


「完全に『仕事』をしに来ているわね。……恐ろしいほど合理的だわ」


(すごいな……。華やかさよりも実務的な成果を優先する姿勢。前世の会食でいえば、社長や役員クラスの会食をお互いの部長レベルが調整した場に若手が混じることがある。その時に、できる若手は相手側の実務ができる人間に良い印象を持ってもらうことを最優先にする。実際に場を整えている部長と繋がりができれば、そういう会食の場は何度でも設定できるし、実際に客側が購入判断をするときも社長や役員は実務を握る人間の意見を重視するからだ。新人外交官とは思えない場数を踏んだ交渉人としてのプロフェッショナルな判断。モントルヴァル……侮れない国だ)


俺の中で、イヴェット・カンガへの警戒レベルが数段階引き上げられた。 姿を見せない調達能力と、冷徹なまでの実利主義。食えない相手だ。


「モントルヴァルの外交官がサヴァの連れだって? なら、あたしも第二会場にいる予定だし、それとなく声をかけて探りを入れておくよ」


ナムルーが請け負った。


「あたしにとっちゃ同郷の後輩だし娘の同行人になるわけだ。ベビーベッドにかかりっきりで娘の同行者の確認が抜かってたってのもあるし、腹の底を見定めてやるさ」


「頼むわ、ナムルー」


母上が頷き、話題を変える。


「それにしても、エリオン。貴方が個別に呼んだ男の子たち以外にも、男爵家や騎士爵家で男の子を連れてきてくれる家がいくつもあったそうね」


「ああ、嬉しい誤算だよ。ヒイロにとっても、同世代の男友達ができるチャンスだ」


父上が嬉しそうに微笑むと、ルシラがため息交じりに言った。


「華やかな会になりそうで羨ましいですわ。うちの娘たちのお相手も見つけたいですけど……誰も今、王都にいないのですもの」


「あら、貴女の娘さんたちは全員、他国へ商売に行っているのでしょう? ミラナにとっては貴重な情報源になっていると聞くけれど」


母上が苦笑する。ルシラには7人の娘がいるが、全員が母親譲りの商魂たくましい商人として、世界各国へ散らばっているらしい。


「ええ、おかげで各国の物価情報は筒抜けですわ。……でも、母親としてはそろそろ身を固めてほしいものです。どなたか、らちが明かない娘をもらってくださらないかしら」


(7人姉妹全員が海外赴任のバリキャリなのか……。この国の女性、強すぎるだろ)


俺は戦慄した。この国で男として生きるのは、猛獣の檻の中で暮らすようなものかもしれない。


「そういえば、身内といえば……アナスタシアが帰ってきてくれたのは助かったわ」


ミラナが視線を侍女長のエラーラに向けた。


「エラーラさんの娘さん、優秀ね。ドラコニアの情勢に誰よりも詳しいわ」


「……お褒めにあずかり光栄です。親の言うことを聞かずに飛び出した跳ねっ返りですが、役に立つならこき使ってやってください」


エラーラが恭しく頭を下げるが、その声には娘への誇らしさが滲んでいた。 アナスタシア=エヴェリン。外交官としてドラコニア帝国に駐在している彼女が、今回の顔見世に合わせて急遽帰国したらしい。


「彼女には外務大臣の私の近くで、ドラコニアに詳しい外交官として会話に入ってもらいます。……もしエラーラさんたちがヒイロちゃんの世話で手一杯になりそうなら、そちらのサポートに回ってもらいますわ」


「助かるわね。ドラコニア絡みの客は、一筋縄ではいかないでしょうから」


母上が安堵の息を吐く。


(大商人アイリス・フェアリーに、謎の敏腕外交官イヴェット・カンガ。そしてドラコニア通のアナスタシア。……役者は揃ったな)


俺は心の中で、午後の「戦場」の盤面を描く。 イレギュラーな存在は気になるが、こちらの布陣も盤石だ。 大商人や外交官たちの思惑が交錯する中、俺という「商品」をどうプレゼンするか。腕の見せ所だ。


(……さて、午後の開演に向けて、俺は最後のエネルギーチャージといこうか)


思考を巡らせていると、心地よい眠気が襲ってきた。 大人たちの深読み合戦を聞きながら、俺は「果報は寝て待て」とばかりに意識を落とした。


まさか、大人たちが警戒する「敏腕外交官」の実態が、金欠で手土産も買えず、自作した作品を手土産に仕立て上げたまでは良かったが、パーティ会場での振る舞いが分からず震えているだけの「素人外交官」だとは知る由もなく。


小説書き始めて気づきましたが、キャラを作るとそのキャラが動く話が自然と浮かんできます。

イヴェットは登場したばかりですが登場させやすいキャラになるかもしれません。

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