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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第19話「デビュー戦間近」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / ヒイロ=エヴェリン


明後日の顔見世に向けた重厚な会議の余韻を引きずりながら、両親が俺の寝室へと戻ってきた。 俺はベビーベッドの中で、規則正しい寝息を演出する「狸寝入りモード」を継続中だ。


「……ふぅ。頼もしいけれど、胃が痛くなるような会議だったわ」


母上アウローラが、装飾過多な椅子に深く腰掛け、大きく息を吐き出した。 その隣で、父上エリオンが優しく肩をマッサージしている。


「みんな、ヒイロのためを思ってくれているからね。熱が入るのも無理はないよ」


「ええ、分かっているわ。でも、あそこまで個性が強いとまとめるのも一苦労よ」


「リリアもそれが分かってて、残務処理の対応をして僕らを休ませてくれるんだから、みんなで乗り越えていかないといけないね」


部屋には、安らぐような紅茶の香りが漂い始めた。 侍女長のエラーラが、手際よくティーセットを準備してくれたようだ。


「陛下、エリオン様。ハーブティーでございます。少し神経を休めてくださいませ」


「ありがとう、エラーラ」


カップを受け取り、母上が一口啜る。 張り詰めていた空気が緩み、話題はより実務的で、そして少し砕けたものへと移行した。


「さて、当日の進行役だけど……会議の前に話した通り、主席儀礼官であるブリオスに任せるわ」


母上は決定事項として淡々と告げた。


(……ブリオス。男性的な名前だがどんな人物だろうか)


「エラーラ、貴女も当日は彼と共に、ヒイロのすぐ傍についていてあげてちょうだい。来場者の名前の読み上げや挨拶の仕切りは、あの人に任せるのが一番安心だわ」


指名を受けたエラーラは、ティーポットを置きながら、深く、そしてどこか諦めたようなため息をついた。


「……承知いたしました。ですが陛下、本当によろしいのですか? あの人は少々……いえ、かなりのお調子者でございますよ?」


「いいじゃないか。彼がいると一気に場が明るくなるよ」


父上が笑ってフォローするが、エラーラの表情は渋い。


「あの人は隙あらば『美しいお嬢さん』などと誰彼構わず声をかける悪癖がございます。厳粛な場が、彼の独演会にならなければよいのですが……」


口では厳しく言っているが、その声色には嫌悪感がない。 むしろ、「仕方ない人だ」と呆れつつも、夫が重要な役目を任されたことへの誇らしさが滲んでいる。


「まあ、女性のお客様からは人気があるようですし、場の華にはなるでしょう。ヒイロ様の晴れ舞台、私の夫が盛り上げすぎないように手綱を持たせていただきます」


(……なるほど。「氷の侍女長」を射止めた10歳年下のダンディー親父か。現在は40歳前後といったところか。相当な「人たらし」と見た。俺も将来の参考にさせてもらおう)


俺は心の中でメモを取る。


「それで、エリオン。会議で言っていた『呼びたい男性』というのは?」


母上の問いに、父上が真剣な表情に戻った。


「ああ。ヒイロには、同性の仲間が必要だ。……とは言っても、この国で歳が近い男の子を見つけるのは至難の業だけどね」


父上は指を折りながら、一人目の名前を挙げた。


「まず、テオラス・ヴェルダント君を呼ぼうと思っている」


「ヴェルダント……ああ、リンディスのところの養子の子ね?」


母上がすぐに反応した。


「リンディス伯爵といえば、軍人閥の中でも特に上昇志向が強い野心家だものね。あそこの家に男の子がいたかしら?」


「養子だよ。彼はまだ6歳と幼いけれど、魔力量がとても多く賢い子だそうだ」


「まあ、それは有望ね。そういえばリンディスが自慢していたのを思い出したわ。ただ、あの子は少し気が弱いと言っていたのではなくて?」


「うん。リンディスのような強い女性に囲まれて、少し委縮しているのかもしれないね。だからこそ、ヒイロとは歳も近いし、良い友人になれると思うんだ」


(なるほど。軍人系の野心家の義母に、気弱な天才児か。……6歳で魔力量が多いというのは魅力的なのだろうが、家庭環境が複雑そうだな。俺が守ってやる対象か、あるいは俺の参謀候補か。どことなく親近感が湧くな)


「もう一人は、アルトリウス・ウォーデン君だ」


「ダリアのところの息子さんね? 確か、今年で14歳になるはずだわ」


「その通りだ。彼は母親譲りで剣術が達者でね、兵士に交じって訓練も受けていて、領地の兵士たちからは『若君』と呼ばれて慕われている好青年だよ」


「ええ、聞いているわ。ウォーデン家はうちで最大規模の重装歩兵を率いる武門の名家だもの。そこで『若君』と呼ばれているなら、実力も人望も本物でしょうね」


「彼なら、ヒイロの兄貴分として、男としての振る舞いを教えてくれるはずだ」


(14歳の武門の好青年か。ウォーデン家というのは武門の名家らしいな。そこで認められている男なら、希少な存在でありながら、女性社会の中で自分の役割を見つけて立派に生きている先輩ということになる。男女比的に言うと前世の姫騎士的な感じの扱いなのかな?……これは会うのが楽しみだ)


父上の人選は完璧だ。 魔法(知性)のテオラスと、剣(武力)のアルトリウス。 女性上位のこの世界で、彼らがどうやって自分の居場所を作っているのか。その処世術は、俺にとっても貴重なケーススタディになるはずだ。


「ええ、いいわね。その二人には、母親と共に来てもらえるように招待状を送りましょう」


「ありがとう。……それと、警戒すべきは国外からの『招かれざる客』だね」


父上の声が少し低くなる。


「会議でミラナ大臣が言っていた通り、同盟国のフィオラやティルナリアだけでなく、ドラコニアに属する国々やエテルニアの息のかかったところからも接触があるかもしれない」


「ええ。特にトルヴァード連邦。あそこはドラコニアの属国でありながら、独自の動きを見せているわ。ルシラの話では、外務大臣のアルーシャという女性が王都に来ていたから誘ったそうよ」


「アルーシャ……。確かモリガノン出身の好色な外交官だったか。ルシラ大臣が『エリオン様が微笑めばイチコロ』とか言っていたが……モリガノンの人はすぐに夜のお誘いをしてくるから苦手なんだよな……」


父上は困ったように眉を下げた。


(モリガノン……。どこの国か分からないが、ずいぶん積極的なのが有名な国のようだ。アルーシャという人物のパーティ参加も俺目的なのか、六本木のクラブか銀座コリドー街みたいな場所になることを期待しているのだろうか。)


俺の脳内で警報が鳴る。海外からの参加者は純粋な祝福だけではなく、「品定め」に来るスパイのようなものだ。 特にアルーシャのような肉食系の女性にとって、俺や父上は政治的なターゲットであると同時に、性的なターゲットでもある。


「まあ、誰が来ようとも、この子は私たちが守るわ」


母上が俺の頬をそっと撫でた。


「国内の貴族たちも、ヒイロの姿を見れば、きっと心を奪われるはずよ。……これほど可愛らしいのですもの」


親バカ全開の母上の言葉に、俺はくすぐったい気持ちになる。 だが、その言葉の裏にある「期待」の重さも理解していた。


この顔見世は、単なるお披露目ではない。 国内外の有力者たちに向けた、エヴェリン王国の次世代の象徴アイコンとしてのプレゼンテーションだ。 異常なほどの熱気は、裏を返せば「男不足」の深刻さの証明。俺は文字通り「救世主」として期待されている。


(やれやれ。0歳児にしていきなり背負うものが大きすぎる)


だが、悪くない。 気弱な天才魔導士に、剣術自慢の若君。そして、癖の強い外交官たち。 ベビーベッドの外には、刺激的な出会いが待っている。


「……ふぁ」


思考を巡らせていたら、自然とあくびが出た。 それを見た両親が、顔を見合わせて微笑む。


「おや、起きたのかな?」 「いいえ、寝ぼけただけみたい。……ふふ、明後日が楽しみね」


「ああ。最高のデビューにしよう」


部屋の明かりが落とされ、両親がそれぞれのベッドへと戻っていく。 静寂の中で、俺は小さく拳を握った。


ああ、楽しみだ。 俺のデビュー戦、派手に飾らせてもらおうじゃないか。


まずは、あの厳格なエラーラさんを射止めたという、お調子者の旦那の手並み拝見といこうか。


異性に声をかけやすい場所は時代によって変わりますね。

今はマッチングアプリとかが主流かもしれませんが、銀座や六本木の夜の歓楽街の雰囲気も素敵です。

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