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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第18話「顔見世に向けての準備状況」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / アウローラ=エヴェリン


王宮の深奥にある円卓の間は、重厚な沈黙ではなく、熱気を帯びた高揚感に包まれていた。 ヒイロの誕生から半月が経過し、明後日に迫った「顔見世」に向けた最終確認会議。 私の周囲には、この国を支える最強にして最高の臣下たちが集結している。


「では、国内の招待客に関する報告から」


進行役を務める宰相のリリアが、手元のリストを指でなぞりながら淡々と、しかし満足げに告げた。


「予定通り、招待状を送付した国内の有力貴族、および大商人たちからは、悉く『参加』の返答が届いています。欠席の連絡は一通もありません。皆、万難を排して駆けつけるとのことです」


「ヒイロに優先的に会えるとはいえ、ありがたいことね」


私は深く頷き、安堵の息を吐いた。 ヒイロへの注目の高さは予想していたが、ここまで完璧な出席率となると、やはり身が引き締まる思いだ。国内の結束を固めるという第一の目的は、すでに達成されつつある。


「問題は、国外からの侵入者……いえ、お客様の選別ですわね」


扇子をパチンと鳴らし、優雅に口を開いたのは外務大臣のミラナだ。 彼女は妖艶な笑みを浮かべ、円卓を見渡した。


「今回の顔見世は、あくまで『国内向け』のお披露目パーティ。ですから、あえて各国の大使館や外交官には、公式な招待状を送っていません。もし招待状を持たずに会場ゲートまで来ても門前払いよ」


「ほう? 大胆な手を使うな」


工業大臣のナムルーが、感心したように口を挟む。


「ええ。公式に招待すれば来るのは当たり前。招待状がない状態で、『どれだけエヴェリン王国内部に深く食い込めているか』『情報網が機能しているか』をテストする意図がありますの」


ミラナは楽しげに目を細めた。


「目鼻の利く人間だけが、この会場に正しくたどり着けるのですわ。国内の有力者に情報を貰ったうえで自分を同行者としてもらえるように交渉し、堂々と『王子様にお会いしにきました』と言えるだけの度胸と実行力がある人物が、一体何人いるかしらね」


「性格が悪いねえ、ミラナちゃんは」


魔法大臣のエルドリンが苦笑するが、その目は笑っていない。彼もまた、この国の防衛を担う一人だ。


「僕の予想じゃ、この情報を掴んで参加してこれるのは、同盟国であるフィオラ王国のリリオン・エストリア氏くらいかな? 彼は長年エヴェリン王国に外交官として滞在しているエルフで、こっちの貴族とも交流が深いからね」


「ええ、彼のファンはたくさんいるから声がかかりそうね。他にはティルナリア王国のシャエララ・ライトウィング女史かしら。あなたと同じ妖精族で長年エヴェリン王国にいるから繋がりも多そうよ」


ミラナが名前を挙げる。


「彼女は真面目で仕事熱心だから顔見世の情報は掴んでいるはずよ。ただ、真面目すぎて『招待状がないなら行くべきではない』と遠慮してしまう可能性もあるけれど」


すると、エルドリンが身を乗り出した。


「あ、シャエララなら、僕が直接声をかけておくよ! 彼女はティルナリアとの重要なパイプだし、妖精族の女で悪戯してこない淑女は彼女くらいのもんだよ。味方につけておいたほうが良い」


「……大臣、単に個人的な好意ではありませんか?」


副大臣のアルバーヌが冷静に突っ込むが、エルドリンは「いやいや、国益だよ国益!」と必死に取り繕っている。まあ、彼が動いてくれるならティルナリアとの連携は盤石だろう。


「炎盟側にも、一手仕掛けておきましたわ」


ふっくらとした手を挙げたのは、商業大臣のルシラだ。 彼女は商人らしいしたたかな笑みを浮かべている。


「ちょうど王都に滞在していたトルヴァード連邦の外務大臣、アルーシャ・リリヤスカと繋がりのある人物が信頼できる人物でしたので、情報を流しておきました」


「アルーシャはトルヴァード連邦の外務大臣だけどモリガノンの出身よね?」


リリアの指摘に私が眉をひそめると、ルシラは頷いた。


「ええ。彼女もモリガノン族らしく好色なようですが、トルヴァード連邦はドラコニアの属国でありながら、商業立国を目指して急成長している重要な国です。今のうちに非公式にでも恩を売っておく価値があると判断しました。」


「あの『女豹』のようなアルーシャが来るのね。……ヒイロが食べられないように気を付けないと」


私はため息をついた。モリガノン王国出身の彼女は、男性への奉仕を義務付ける文化圏の人間だ。性的な交流を好むお国柄だけに、警戒が必要だ。


「ご安心ください、陛下」


ルシラは悪戯っぽく笑い、私の隣に座る夫、エリオンに視線を送った。


「アルーシャは非常にわかりやすいエロおば……いえ、情熱的な方ですから、扱いは簡単です。エリオン様がニコリと笑顔を振りまくだけで、ころっとこちらの味方になりますわ」


「えっ、僕かい?」


エリオンが目を丸くする。


「人聞きが悪いわね、ルシラ。でもまあ、否定はしないわ」


ミラナもクスクスと笑う。 最強の外交カードであるヒイロを伏せつつ、現役の切り札であるエリオンで敵を懐柔する。なんとも協力的な男性が多いエヴェリンらしい戦術だ。


「……承知した。エリオンには苦労をかけるけれど、頼めるかしら?」


「ああ、もちろんさ。ヒイロのため、国のためなら、笑顔くらい幾らでも見せるよ」


エリオンは頼もしく微笑んでくれた。


「よし。では、警戒対象の確認を」


リリアが場を引き締める。


「ここで名前が出た人物――フィオラのリリオン、ティルナリアのシャエララ、そしてトルヴァードのアルーシャ。この三名以外で、もし当日会場に現れる外国人がいたら……」


「それは相当優秀な諜報能力を持つか、王国内部に太いパイプを隠れて持つ危険人物ということね」


ミラナが冷ややかな声で引き取った。


「要注意リストに加えましょう。顔見世は、祝宴であると同時に、ネズミ捕りの場でもあるのですわ」


「警備はお任せください」


それまで黙っていた騎士団長のライラが、拳を握りしめて発言した。


「不審な動きをする者がいれば、即座にマークします。セラさんとも連携し、会場の安全は鉄壁にして見せます」


頼もしい言葉だ。 これで、外堀の守りは固まった。

ふと、私は隣のエリオンに向き直った。


「貴方は誰か、個人的に呼びたい人はいる?」


今回の顔見世は国内の有力者を多く呼ぶために思いつく限り声をかけているし、王配である彼にも、招待客を呼ぶ権利はある。


エリオンは少し考え込み、真剣な眼差しで答えた。


「……そうだね。ヒイロには、年齢が近めの『男性の仲間』も必要だと思うんだ」


「男性の仲間、ですか?」


リリアが問い返す。


「ああ。この国ではどうしても女性が中心になる。周りは女性ばかりだ。もちろん、姉妹たちや君たちが彼を愛してくれているのは分かっているけれど、同性の友人は精神的な支えになるし、将来の繋がりとしても重要になるはずだ」


エリオンの言葉に、私はハッとした。 そうだった。私たちはつい、ヒイロを「守るべき対象」として見てしまうが、彼はいずれ一人の男性として成長する。その時、孤独を感じさせないためには、同じ立場の仲間が必要なのだ。


「私と繋がりのある、若い貴族男性がいる家には声をかけようと思っている。数は少ないけれど、希少な存在同士、分かり合えることもあるはずだ。護衛も兼ねて、母親と一緒に参加してもらうのがいいだろう」

「ええ、素晴らしい考えだわ」


私は夫の手を取り、深く感謝した。 彼はいつだって、男性ならではの視点で、私たちが気づかない死角を埋めてくれる。


「では、その手配も進めましょう。……さあ、皆の者」


私は円卓を見渡し、宣言した。


「準備は整いつつあるわ。明後日の顔見世、エヴェリン王国の威信にかけて、そして何よりヒイロのために、大成功させましょう」


「「「御意!!」」」


力強い返事が、部屋中に響き渡った。 したたかで、頼もしい私の臣下たち。彼女たちがいてくれれば、どんな嵐も乗り越えられる。


私は窓の外、王都の空を見上げた。 そこには、嵐の前の静けさのような、澄み渡った青空が広がっていた。


いよいよ他国の人物たちもヒイロにアプローチをかけてきます。

要注意リストに加えられる人物はいるのでしょうか。

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