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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第17話「飢えた外交官と海を渡る風」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール 高級ホテル / アルーシャ・リリヤスカ(トルヴァード連邦外務大臣)


エヴェリン王国の王都、リュミエール。 「光の都」の名にふさわしく、夜になっても窓の外には魔法の灯りが煌めいている。 私は高級ホテルの最上階スイートルームで、極上のワインを片手にため息をついた。


「はぁ……。つまらないわ」


グラスの中で揺れる赤い液体を見つめながら、私は不満を漏らす。


「外交大臣になれば、他国のいい男から夜の接待を受けたり、部下の男の子を侍らせてセクハラし放題だと思ったのに、全然そんな美味しい話がないじゃない」


私の故郷、砂漠の国モリガノン王国では、男は信仰の対象であり、同時に愛欲の奉仕者でもあった。 神殿に行けば、美しく着飾った男娼たちが、私たち女性を天国へといざなってくれる。 だが、私が今仕えているトルヴァード連邦はどうだ。


あの国には、男がいない。 文字通り、枯渇しているのだ。 十数年前の戦争で、宗主国であるドラコニア帝国が勝利した際、戦利品として、あるいはその後の「貢納品」として、めぼしい男たちは根こそぎ連れ去られてしまった。 今、国に残っている男なんて、老いぼれか、あるいは母親や妻たちが「絶対にドラコニアには渡さない」と地下室に隠して厳重に保護していた箱入り息子ばかり。 私のような独り身の女が手を出せる男なんて、市場には一粒も落ちていないのが現実だ。


(これじゃあ、肌の艶も失われてしまうわ……。私の美貌が泣いているわよ)


私は窓ガラスに映る自分の顔を見た。 33歳。美女と呼ばれるにふさわしい妖艶さは健在だと思っているけれど、やはり潤い(男)が足りない。


トルヴァード連邦という国は、少し特殊な成り立ちをしている。 元々は「トルヴァード王国」という海洋国家だったが、ドラコニア帝国の皇帝が即位した際に行われた遠征によって滅ぼされた。 その後、帝国の属国連邦として再編された際、人材不足を補うために、ドラコニア勢力圏(炎盟)の各国から優秀な人材がかき集められたのだ。


私のようにモリガノンから来た者もいれば、武闘派のアスラ族、鉱山国家モンタリアのドワーフなど、実に多種多様な種族が入り混じっている。 いわば、寄せ集めの多民族国家だ。


今のトルヴァード連邦のトップであるルーシア・ドラコニア様は、ドラコニア皇族にしては頭が柔らかくて、情のある方だ。 滅ぼした旧王国の慰霊祭を丁寧に行ったり、経済を立て直したり。 だからこそ、私たちも安心して仕事ができているのだけど……平和なのはいいことだが、刺激が足りないのも事実だ。


コンコン。


控えめだが、意思の強さを感じさせるノックの音が響いた。


「お入りなさい」

「失礼いたします、アルーシャ様」


入室してきたのは、凛とした空気を纏った女性だった。 マレラ・デルマール。 トルヴァード連邦が誇る優秀な人材であり、私が個人的に一目置いている友人だ。 彼女はかつて、滅亡前のトルヴァード王国で外交官を務めていた才女だ。国が滅んだ後に戻ってきて、今は交易船の船長としてこの国の再興に尽くしている。知的で優雅な立ち振る舞いは、私の下品な欲望とは対極にあるけれど、だからこそ馬が合う。


「あら、マレラ。こんな時間に珍しいわね。また肌が焼けたんじゃない? 美白の秘訣、教えてあげましょうか?」

「ふふ、お気遣いありがとうございます。ですが、海の女に日焼けは勲章のようなものですから」


マレラは優雅に笑い、ソファの対面に座った。


「今日は、貴女が飛びつきそうな『良いお話』を持ってきましたのよ」

「良い話? 新しい美容液でも見つけたの?」

「いいえ。もっと刺激的な……ここ、エヴェリン王国のお話です」

「あら」


私は身を乗り出した。 私たちは今、交易と外交のためにエヴェリン王国を訪れている。 光の同盟の盟主であるエヴェリンと、炎盟に属するトルヴァードは、本来なら対立関係にある。 だが、商売に国境はないし、エテルニア大帝国とドラコニア帝国が険悪になっている現状では好戦的でない第三勢力との調整は必須である。マレラは長年エヴェリン王国に滞在していたし、現在でも定期的にエヴェリンとの間を往復している商売人であり、数少ないパイプ役だ。


「私の友人で、エヴェリン王国の貴族がいるのですが……彼女から、極秘情報を仕入れました」


マレラは声を潜め、勿体ぶるように言った。


「エヴェリン王国で、先週生まれた王子の『顔見世』が国内有力者向けに行われるらしいわ」

「……王子!?」


私は椅子から弾かれたように立ち上がった。 ガタッ! と大きな音がして、ワインが少し揺れる。


「王子って、あのアウローラ女王の? 妊娠しているのは知ってたけど男児だったのね!?」

「ええ、そうです。男の子ですって。それも、とびきり可愛らしいという噂よ」


私の脳内に、電流が走った。 王族のそれも女王の子として生まれた男の子。政治的価値は計り知れない。 未来の女王の弟であれば、祖国モリガノンの王弟様のように、女の夢が詰まったような男性に成長するかもしれない。だが、私の興味はそこではない。


「王子の顔見世なら……当然、あの方も出席されるわよね?」

「あの方?」

「決まっているじゃない! 王配のエリオン様よ! 絶世の美男子と名高い、あのエリオン様!」


私は興奮のあまり、テーブルを乗り越えんばかりに身を乗り出した。 エリオン=エヴェリン。 低い身分から女王の夫へと上り詰めたシンデレラボーイ。 『Soil(土)』のWordを持ち、その貴公子と呼ばれるルックスと、優しいコミュ力は私の同世代では知らない者はいない。女王と宰相の二人が早々に婚約者となっていたため、他の女の手が届かないようにしてしまっていた深窓の貴公子。私も一目お会いしたいと思い続けていたが、他国の女性は警戒されているらしくその機会に恵まれることはなかった。


「それに、その他のエヴェリン貴族の男たちも参加するはずね。それを見に行くだけでも価値があるわ。……私たちみたいな警戒されてる外交官が、他国の、それも光の同盟の高貴な男に会える機会なんて、ほとんどないもの」


想像するだけで、体の奥が熱くなる。 エヴェリン王国の男たちは、北方の粗野な男たちや厳重に守られて来た臆病な男とは違う。ドラコニアに連れ去られる恐怖を知らず、温室でのびのびと育った、洗練され、明るく、そして「守られる存在」としての儚げな美しさを持っているはずだ。


「じゅるり……」


思わず舌なめずりをしてしまった。 いけない、外交官としての品位が。……まあ、マレラの前だからいいか。私は身もだえするようにクッションを抱きしめた。


「でも、どうやって潜り込むつもり? 国内向けのものであれば、正式な招待状は私たちのような他国の人間には回ってこない可能性が高いわ」


マレラが冷静に指摘する。 その通りだ。国内向けの顔見世であれば他国の外交官たちには正式な招待状は回ってこない可能性が高いし、意図的に排除されている可能性もある。


私は猫なで声を出して、マレラにすり寄った。


「ねえマレラ、貴女のコネを使って、何とかしてそのパーティに潜り込めないかしら? 『非公式の通商協議』とか、『お祝いの品を直接届けたい』とか、名目は何でもいいわ。ある程度の利益は相手に約束してもいいから」


これは公私混同ではない。 外交の最前線に立つ私が、外交先の重要人物達(男)と直接接触し、情報を収集する(唾をつける)ための、崇高な任務なのだ。

マレラは呆れたように、しかしどこか楽しげにため息をついた。


「ふふ、貴女ならそう言うと思いましたわ」


彼女は懐から、一通の封書を取り出した。


「実は、エヴェリン王国の商業大臣、ルシラ・ド・アルデン様とは懇意にさせていただいてますの。彼女は非常に商魂たくましい方で……『トルヴァードの海運力を活かした新規取引の相談』という名目であれば、席を用意できるかもしれないと」


「キャーッ! さすがマレラ! 愛してるわ!」


私はマレラに抱きついた。 ルシラ・ド・アルデン。確か『Forbidden(禁)』のWordを持つ、エヴェリン屈指の大商人兼大臣だ。 金と利益に聡い彼女なら、政治的な対立よりも実利を取るはず。 トルヴァード連邦の外務大臣としても重要な取引先であるエヴェリン王国の重要人物たちと繋がれる機会は逃す手はない。


「まだ確定ではありませんが、手配にチャレンジしてみます。ただし……」


マレラが人差し指を立てて釘を刺す。


「あくまで『淑女的な外務大臣としての交流』です。会場で男性にセクハラして騒ぎを起こしたりしたら、大問題ですからね?」

「失礼ね! 私はいつだって淑女よ。……同意があればセクハラじゃないでしょ?」

「同意を取るのが一番難しいのですけどね」


マレラは苦笑しつつ、手配のために部屋を出ていった。


私は窓ガラスに映るリュミエールの夜景を見て、ニヤリと笑った。 久しぶりに、獲物を狙うハンターの目になっている。


(マレラがルシラの意向も確認した上で私に話を持ってきたということは、恐らくルシアの差し金でしょうね。ルシラはしたたかな商売人だから、マレラが祖国の復興ためにエヴェリンとの結びつきを強めたいと思っている点を理解した上で、ちょうど滞在している私をエリオン様を餌にして釣ろうとしたのでしょうね)


「ふふふ、喜んで餌に食いついてやろうじゃない。待っていなさい、エヴェリンの坊やたち。このアルーシャお姉様が、たっぷりと可愛がってあげるから」


エリオン様、王子ヒイロ様。 そして、パーティに参加するであろう美しき男たち。 外交という名の「男漁り」。 これほど胸が躍る任務は、他にないわね。


妖艶な大人の女性はいつの時代でも魅力的な存在ですね。


「艶やか」とか、「なまめかしい」とか、「ろうたけた」とか大人の女性特有の成熟した美しさを表現する言葉が昔から多数存在することや、現代でもセクシー系サイトの人気検索ワードランキングで「熟女(milf)」がTOP争いしてくることから考えると、大人の女性だからこそ出せる魅力というのはいつの時代も多くの世代の男性も引き付けるのでしょうね。

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