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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、国をガチ経営していたら英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第16話「北方の盾、動く」

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 北方国境 スティールウィンド辺境伯領 / カイネ・スティールウィンド(エヴェリン王国辺境伯)


北方の風は、いつだって鉄と乾いた土の匂いがする。 私は執務室の窓から、眼下に広がる練兵場と、そのさらに北、荒涼とした大地を見下ろしていた。 この先には、大陸最強の騎馬軍団を擁する軍事大国、ドラコニア帝国がある。


「……失礼いたします。母上、お呼びでしょうか」


重厚な扉がノックされ、二人の娘が入室してきた。 長女のリアナ(13歳)と、次女のフレイヤ(6歳)だ。 二人とも訓練の直後なのだろう。簡素な騎士服に身を包み、額にはうっすらと汗が滲んでいる。


「うむ。よく来た」


私は振り返り、愛用の眼鏡の位置を直しながら娘たちを見据えた。 二人とも、よい顔つきになってきた。特にリアナは次期当主としての自覚が芽生えつつある。


「単刀直入に言う。支度をしなさい。王都へ行くぞ」


私の言葉に、二人はきょとんと顔を見合わせた。 いち早く反応したのは、冷静な長女リアナだった。


「母上、私たちもですか? 当初のご予定では、来月行われる祝福の儀に、母上だけが参加されると伺っていましたが……何かありましたか?」


もっともな疑問だ。 辺境伯である私が領地を離れることは、それだけでリスクを伴う。本来なら、王子の誕生祝いといえど、最低限の人員で赴く予定だった。


「予定が変わったのだ。……王宮からの早馬で、招待状が届いた」


私は机の上の、豪奢な装飾が施された封筒を指し示した。


「祝福の儀の前に、異例の早さで王子の『顔見世』が行われることになった。今回は招待客一人につき同伴者二名まで許可されている。……お前たち二人を連れて、王子に拝謁する」


その瞬間、次女のフレイヤが弾かれたように顔を輝かせた。


「えっ、王都に行けるのですか!? 私、初めてです! 王宮の舞踏会とか、美味しいお菓子とか……!」

「フレイヤ、控えなさい。母上の御前です」


リアナが窘めるが、フレイヤの尻尾があれば千切れんばかりに振られていただろう興奮は収まりそうにない。 無理もない。ここ北方は、常に緊張が張り詰める最前線の無骨な街だ。華やかな王都への憧れを持つのは、年頃の娘として当然のことだろう。

だが、私にとってこの王都行きは、単なる物見遊山ではない。 これは、スティールウィンド家の、ひいてはエヴェリン王国の未来に関わる軍事行動だ。


エヴェリン王国は、魔法技術と重装歩兵による防御陣形においては大陸随一の堅牢さを誇る。 だが、機動力――特に「騎兵戦力」においては、隣接するドラコニア帝国に圧倒的に劣っているのが現状だ。 平原での会戦となれば、ドラコニアの騎馬弓射による一撃離脱戦法や騎兵突撃に翻弄され、なすすべもなく敗れる恐れがある。


だからこそ、私が考案し、実戦配備したのが「魔動騎馬戦術」だ。 膨大な魔力で展開する防御障壁シールドを騎馬ごとその身に纏い、敵の矢や魔法を弾き返しながら、雷のような速度で敵陣中央へ突撃する。 防御を捨て身の攻撃へと転化させるこの戦法により、我々はドラコニアとも互角以上に渡り合ってきた。 スティールウィンド家は、王国唯一の高機動打撃力であり、北方の守りの要なのだ。


(その軍事の要である我々が、王子の誕生にどう関わるか……)


はしゃぐフレイヤと、思案顔のリアナを見ながら、私は冷静に盤面を分析する。


通常、新しく生まれた王子が「普通」であれば、その扱いは二つに一つだ。 一つは、各貴族家に種を分け与える「王国の共有財産」としての役割。もう一つは、外交カードとして外国の王族や、我々のような有力辺境伯家に「婿」として迎えられる道だ。


だが、ここ数十年、エヴェリン王家には王子が産まれなかった。 時代も変わり、有力貴族家でさえ男児が枯渇している現状だ。このヒイロという王子が、共有財産として管理されるのか、それともどこかの一族のものになるのか……どう転ぶかは全く読めない。


「今回の異例の顔見世の前倒し開催……王宮側、おそらく宰相のリリア様あたりが何か仕掛けてきている証拠だ」


私は独りごちた。 ただ漫然と時を過ごしていれば、他家の後塵を拝することになるだろう。


「リアナ、フレイヤ。心して聞きなさい」


私は声を低くし、娘たちに告げた。


「今回の王都行きは、お前たちにとっても重要な任務となる。王都の状況を探りつつ、王族との「縁」を作ってくるのだ」


「縁、ですか?」

リアナが問い返す。


「そうだ。あわよくば、お前たちのどちらかが女王陛下や王子に見初められれば、スティールウィンド家の発言力は増す。ひいては、予算や人員の確保など、王国の軍事力強化にも繋がるのだ」


私の言葉に、リアナは真剣な表情で頷き、フレイヤは「王子様……かっこいいかなぁ」と頬を染めた。 二人とも、武芸の才能はある。 特にリアナは『Crossbow(弩)』のWordを持ち、遠距離狙撃においてはすでに辺境伯家において誰も及ばぬ領域にいる。フレイヤはまだ分からんが馬術の才はありそうだ。 戦力としても、女性としても、決して他家の令嬢に引けは取らない。


(それに、王都には懐かしい顔もいる)


ふと、かつての後輩の顔が浮かんだ。 新しく騎士団長に就任したというライラ・ウルフスベイン。彼女は私の騎士団時代の可愛い後輩だ。 それに、副団長のセラさん。あの元海賊のエルフ殿は姉御肌でなかなかに我々後輩の面倒を見てくれる人だ。久々に彼女たちとも杯を交わしたいものだ。王都の情勢は、セラさんに聞くのが一番確かだろう。 この機会に軍部閥の諸侯との連携を密にすることも、今回の重要な目的の一つとして考えるべきだな。


「よし。話は以上だ」


私は椅子から立ち上がり、娘たちに号令をかけた。


「出発は明日だ。遅れるなよ」

「「はっ!」」


二人の娘が、騎士の礼をとる。 きびきびと準備に向かうその背中を見送りながら、私は眼鏡の奥の目を細めた。


(戦場での戦い方も、社交場での戦い方も机上の空論や練習だけではどうにもならん。実際の場で揉まれながら身に着けるのがあの子らにとっても一番良い……)


さあ、ヒイロ王子とやら。 その器、このカイネが直々に見定めさせてもらおうか。


「辺境伯」って響きが好きです。その国の最前線を守る責任を持つかっこよさがあります。

アレキサンダーやハンニバルに代表されるような古い騎馬戦術も、ナポレオン時代や明治日本のような銃火器のある時代の近代騎馬戦術もそれぞれロマンがありますが、魔法の存在する世界の騎馬戦術がどうなるかは興味があるところです。

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