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第11話「王子誕生の公表」

出産が重視される社会ほど、個人単位で見た時の女性の心理的負担は大きいと考えます。

男性主観の視点では江戸時代の御褥御免のように、制度や慣習面を強くして、より出産に適した女性に対してリソースを回すべきかもしれませんが、男女間に愛がある時は芳春院や久保姫のように産めるだけ産み続けるというのが自然な気がします。

大陸歴 2791年 5月 / エヴェリン王国 王都リュミエール / ヒイロ=エヴェリン


朝一番で高らかに鳴り響いたラッパの音は、エヴェリン王国の未来が変わる合図だった。 「王子誕生」の公式発表。 その反響は、生後5日の俺が寝ているこの部屋にまで、物理的な質量となって押し寄せてきていた。


(……どれだけ男子が産まれることが嬉しいんだ、これ)


俺はベビーベッドの中から、部屋の隅に積み上げられていくプレゼントと祝電の山を冷めた目で見つめた。 国内の有力貴族、各国大使館、商人ギルド。あらゆる方面からの「お祝い」という名の貢ぎ物だ。 リリア叔母さんや各大臣が日中走り回って対応していたようだが、現場の官僚機構は嬉しい悲鳴を通り越して、業務がパンクしていると話していた。


俺という新商品の市場価値は、想定をはるかに上回る潜在的需要に遭遇したらしい。 一国の経済や政治をかき回してしまうほどの特需だ。本来なら喜ぶべきことだが、その当事者としては、のしかかる期待の重さに胃が痛くなる思いだ。


夜も更け、ようやく喧騒が遠のいたヒイロの寝室。 そこには、今日の激務を終えた首脳陣たちが集まっていた。


「ふぅ……。ようやく落ち着いたね」


ベッドサイドの椅子に腰かけ、父エリオンが息をつく。 その隣には母アウローラと、叔母のリリア。 三人とも疲労の色は見え隠れするが、その表情は充実感に満ちていた。


「ええ。これだけ多くの祝福を受けられるなんて、ヒイロは幸せ者だわ」

「外交筋からの問い合わせも殺到していますわ。特に同盟を結んでいる国だけでなく、ドラコニアとエテルニアの反応が早いこと。……まあ、今は少し忘れましょうか」


リリアが苦笑しながら、冷めたハーブティーを口にする。 大人の時間だ。俺は「空気を読む赤ん坊」として、スヤスヤと寝たふりを決め込むことにした。


「そういえば、テレジアさんもずいぶんヒイロの誕生を喜んでくれていたね。一か月後の式典を大掛かりにやると張り切っていたよ。」


ふと、エリオンが思い出したように言った。

テレジア? ああ、あの出産に立ち会っていた神官長か。 だが、俺の耳は父の言葉に含まれた「ニュアンス」を聞き逃さなかった。 神官長という要職にある女性に対して、敬称の「様」ではなく、親しい間柄を示す「さん」付け。 それは、公的な関係を超えた親密さを無意識に滲ませる呼び方だった。


「ええ。彼女も公務の合間を縫って、何度も様子を見に来てくれていたもの」

「テレジアさんも子供を産んだばかりなのにこんなにも動いてくれて本当に助かるね。ユリアちゃんも元気そうだったよ。ヒイロとは同い年になるね。お友達になってくれるといいな」


パパの顔で無邪気に話すエリオン。 ユリアちゃん? 誰だそれは。

俺の疑問に答えるように、リリアが冷静に補足を入れた。


「3か月前に産まれたユリアちゃんもエリオン様の子供ですから、ヒイロにとっては異母姉妹になりますわね」


(……は?)


俺の思考が一瞬停止する。 神官長の子供? それが父さんの子? つまり、神官長テレジアと父さんは……そういう関係なのか?


「そういえば、ユリアちゃんは『Dream(夢)』のWordを持って生まれてきたそうですわ。やはりエリオン様の影響でしょうか。エリオン様の子供は本当にWordを持ちやすいのかもしれませんわね」


リリアの分析に、母アウローラも深く頷いた。


「ええ。彼女も私以上に高齢出産だったけれど、40歳で無事に法務子爵家の跡継ぎが産まれて本当によかったわ。これもエリオンが頑張ってくれたおかげよ」


母は夫の手を取り、心からの感謝と称賛を込めて微笑んだ。 そこには嫉妬の色など微塵もない。あるのは、有能な夫に対する誇らしげな感情だけだ。


「本当に。重要な法務子爵家が途絶えずに済んだのはエリオン様の功績ですわ。やはりエリオン様の種は優秀ですわね」


リリアもまた、同意するように頷く。


(……待て待て待て!)


俺は狸寝入りを維持するのに必死で、内心で頭を抱えた。

どうなっているんだ、この家の倫理観は。 親父、一体何人孕ませてるんだよ!? 神官長にまで手を出しているのか?


しかも、妻たちが親父に婚外子ができていることを咎めるどころか、「よくやった」「良かった」と手放しで称賛している。


俺の脳裏に、前世の日本で見たネットニュースやワイドショーで不倫しただけで子供を作ってなくても非難されていた芸能人男性の映像がよみがえる。前世では既婚者が外で子供を作ろうものなら、各所で袋叩きに遭い、社会的に抹殺されるのが常識だった。嫁に知られたら修羅場確定、慰謝料請求待ったなしだ。


既婚者でなくとも、女性と関係を持つときは「男の責任として避妊をしましょう」というのが一般的な倫理観だし、『射精責任』なんて本が話題になったこともあったな。だが、この世界では「男の責任として懐妊させましょう」というのが男に求められている要素なのかもしれないな。


男女比1対30。圧倒的な男性不足。 子供が欲しくても、そもそも相手がいない。家を存続させたくても、全員が結婚するにはそもそも男が足りない。そうなると男という資源を共有して利用することは常識になるのだ。


(……なんてこった)


俺は戦慄した。 地球の歴史でも、中世では王侯貴族が多くの側室を持ち、多くの子供をなすことは役割の一端だった。生まれた子供が養子に出され、他家の跡取りになることも珍しくなかった。 頭では理解できる。理屈としては正しい。 だが、長年染みついた「一夫一婦制」と「貞操観念」が、このカルチャーショックに悲鳴を上げている。


ちらりと薄目を開けて父を見る。 優しそうで、穏やかな中年男性。 だが、その実態は、王宮内外の女性たちからの「期待」を一手に引き受け、応え続けている「夜のハードワーカー」だったのかもしれない。


(親父……あんた、すげぇよ。)


現代知識は武器になる。論理的思考も役に立つだろう。 だが、この長年染みついた感覚とこの世界の感覚のギャップだけは早く慣れないとマイナスの影響がありそうだ。


(なんかこの感覚は懐かしいな。国内企業から外資系企業に転職したら、前の会社の常識と転職先の常識が違いすぎて何が分からないかすら分からずに戸惑っているような、そんな気分だ……)


「さて、明日も早い。そろそろ休みましょうか」

「ええ。おやすみなさい、ヒイロ」


アウローラとリリアが、代わる代わる俺の額にキスをして部屋を出ていき、親父が隣のベッドで眠り始めた。 静寂が戻った部屋で、俺は小さく武者震いをした。


(……待てよ。3か月前に産まれたユリアのWordは『Dream(夢)』だと?)


俺は狸寝入りを続けながら、一度スルーしてしまっていた重要情報を脳内で反芻する。


(親父のWordは『Soil(土)』だったはず。何に使えるかはよく分からんが、ゲーム的には土属性の何かが影響するものだろう。対して、異母姉 ユリアのWordは『Dream(夢)」。もしWordが単純な遺伝なら、『Soil(土)』が妥当だし、あるいは母親のWordが引き継がれるのなら、子供がWordを持つことがエリオンのおかげとはならないはずだ。)


(つまり、Wordの遺伝というのは「親の能力と同じものが遺伝される」わけじゃない。しかも親父が『Soil(土)』と聞いたときは、ほかにも火とか水のような属性的なものがあるのかと思ったが、『Dream(夢)』だと。抽象的な概念を持つこともあるのがWordなのか。もしかするとなぜ「属性」や「才能」などと呼ばれずに『Word』と呼ばれているのか、その理由から考えたほうが早いかもしれない)


リリア叔母さんは言っていた。「エリオン様の子供はWordを持ちやすいのかも」と。 「エリオン様のWordを受け継ぐ」とは言っていない。


(……なんてこった。それじゃあ、この世界では子供を作るという行為自体が当選率3%もある宝くじを買うような行為になるのか。親父はその中でも、有楽町にある西銀座の一番窓口 や 布施ポッポアベニューのような存在なのかもしれない。)


特定の属性しか産まないなら、対策も立てやすいし、需要も限られる。 だが、「何のWordが産まれるか分からないが、とにかく異能持ち(SSR)が出やすい」となれば話は別だ。 優秀な人材を欲する国家や貴族家にとって、親父は歩く戦略兵器であり、無限の可能性を秘めた宝箱だ。


(そう考えると、貴族家がどれくらいあるか知らないが、そもそも男が3%しか生まれないなら男ってだけで引っ張りだこだろうし、その中でWordを自分が持ってるとか子供に遺伝しやすいってなると事実はどうであれとんでもない価値になるだろう…。親父……あんた、俺が思っていた以上に「替えの利かないリソース」だったんだな)


俺は心の中で、隣で眠る優しげな中年男性に改めて敬礼した。 そして同時に自分の部屋にこれだけの贈り物が届けられた理由を改めて理解した。


(……親父は子爵家から婿入りした状態なので、周りの女性は女王や宰相が父という存在を手に入れたと認識し、ある程度はアプローチをあきらめたはずだ。だが、最初から王族に産まれた王子の場合はどうなる?特定の嫁を持つ可能性はありそうだが、政略結婚という線が本命ならばまだ何も決まっていない俺は可能性の塊に見えているのだろうな…。


「王子」というブランド。おそらく判明するであろう「Word」や魔力量。 それらが揃った時、俺に求められるのは、剣を振るって敵を倒すことやビジネスを立ち上げることではなく、 生物学的なオスとしての役割が最も求められる世界なのではないか。)


俺は心の中で肩をすくめ、改めて偉大なる父エリオンの、無害そうな寝顔を横目で見ながら眠りについた。


お読みいただき、本当にありがとうございます!


「続きが気になる!」「この世界観、嫌いじゃないな」と少しでも思っていただけましたら、引き続きお読みいただければ幸いです。


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新人ですが、皆様に楽しんでいただけるよう全力で書いていきますので、

応援よろしくお願いいたします!

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