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第10話「女王の閣僚たちは癖が強い」

優秀な人材の集まる閣僚会議って見ていて気持ちいいです。某銀河帝国の元帥府とか最高ですね。儀礼的なアーサー王の円卓っぽい雰囲気も捨てがたいですが、作戦会議とか議論を交わすのが戦記ものの醍醐味かなと。

大陸歴 2791年 5月 エヴェリン王国 王都リュミエール / アウローラ=エヴェリン


王宮の深奥、分厚い黒檀の扉と防音結界によって閉ざされた「円卓の間」。 そこには今、エヴェリン王国を動かす最高幹部たちが顔を揃えていた。


「皆、急な招集にもかかわらずよく集まってくれたわね」


私が先代女王である母エリシアと共に入室すると、円卓を囲んでいた個性豊かな女性たちが一斉に起立し、恭しく頭を下げた。


「陛下、ご安寧そうで何よりです」


宰相のリリアが代表して口を開き、全員が着席する。


私は上座から、並み居る臣下たちを見渡した。 騎士団、魔法省、外務省、商務省、工業省、そして神殿。それぞれの頂点に立つ彼女たちは、いずれも一芸に秀でた優秀な国家の重鎮たちだ。


議題は伏せられているが、女王の出産が終わった様子と急な招集ゆえに、子供に関することかと勘づいているが、先代女王まで同席していることから、皆「何か重大なことが起きたのだろう」と注目している。


私は緊張を解くように、ふっと息を吐いた。 そして、できるだけ穏やかな声で、けれど部屋中に響き渡らせるつもりで告げた。


「3日前、無事に出産しました」


全員の視線が私に集中する。私は一拍置き、爆弾を投下した。


「……男児です」


一瞬、部屋の時間が止まった。 全員が言葉の意味を咀嚼し、理解し、そして――。


「男の子……?」

「王子のご誕生か……!」


どよめきが爆発し、歓喜の波が部屋中を駆け巡った。 冷静なリリアとテレジア以外の全員が、目を見開き、あるいは口元を押さえている。


「静粛に」


母エリシアが静かに、しかしよく通る声で制した。


「名はヒイロ=エヴェリン。3日が経過し、母子ともに健康状態は安定しています。明日にも、王子誕生を国中に公布することになるでしょう」


その言葉が、彼女たちの導火線に火をつけたようだ。 ガタリ、と勢いよく椅子を蹴って立ち上がった者がいる。 今年30歳になり、騎士団長に就任したばかりのライラ・ウルフスベインだ。


「男児……! 王子が産まれたことは国家の大いなる喜びであり一大事です!!」


ライラは顔を紅潮させ、拳を握りしめて叫んだ。


「直ちに騎士団の警備レベルを最大に引き上げます! 王都の門を封鎖し、関係各所には精鋭を配置! 王城は蟻一匹通さぬ厳戒態勢を敷き、すべての出入りを検閲します! 私の団長としての初の大仕事、この命に代えてもヒイロ様をお守りしてみせます!」


やる気に満ち溢れた、素晴らしい忠誠心だ。けれど、いささか力が入りすぎている。 そんな彼女の軍服の裾を、隣に座っていた耳の長い少女――いや、見た目は少女だが中身は110歳を超えるエルフ族の古強者、副団長のセラがぐいっと引っ張った。


「おいおい、落ち着きなライラ。鼻息が荒すぎて酸欠になるぞ」


「セラさん! これは緊急事態なのです! 王子の身に何かあったら……!」


「だからって王都封鎖なんてしたら、大問題だろ。いらん憶測は飛ぶし、王子に危害加えるような奴のあぶり出しなんてできねぇよ。気合いが入るのは分かるが、空回りして面倒ごと増やすんじゃねぇよ」


セラはニヤリと不敵に笑い、ライラを強引に椅子に座らせた。


「警備はアタシらが裏からしっかり増員してやるから、団長サマはドーンと構えて王城内の巡回増やすくらいにしとけ。表は厳格に、裏は狡猾に。それがウチらのやり方だろ?」


「う……。し、しかし……」


ライラがシュンと小さくなる。新米団長の空回りを、海千山千の副官が支える。良いコンビだ。


「ははは! 固い固い! めでたいことじゃないか!」


豪快に笑ったのは、工業大臣のナムルー・ディ・バロだ。 彼女はまだ42歳。その両腕は筋肉が隆起し、無数の火傷後が刻まれている。王国屈指の鍛冶師としての自信に満ちた姿だ。


「男の子だって! そりゃあいい。男の子なら何が喜ぶのかな?最高のゆりかごから素敵なおもちゃまで、全部作り出してやるよ!」


ナムルーは自身の両腕をバシンと叩いた。


「王子のための特注品だ、魂込めてあたし自ら作らせてもらうよ!」


彼女は元々、芸術と建築の国モントルヴァル公国の出身だ。かつて母親が権力闘争に敗れてこの国へ亡命してきたのだが、その類稀なる鍛冶の才能によって、異邦人でありながら我が国の工業大臣にまで上り詰めた実力者である。 彼女の職人魂に火がついたようだ。彼女が何かの作成に熱中するたびに娘さんや弟子たちが苦労しているようだが、その情熱は頼もしい。


一方で、少し複雑そうな顔をしているのは、魔法大臣のエルドリン・シルヴァだ。 妖精族の彼は、頬杖をついてしみじみと呟いた。


「へえ、男の子かあ……。大変だねえ」

「あら、エルドリン。嬉しくないの?」

「嬉しいけどさあ。僕も男だから分かるけど、この世界の女性は肉食獣みたいに怖いからねえ。王子なんて言ったら、世界中から狙われちゃうよ。自由なんてないし、貞操の危機だし……可哀想に……」


彼の実感のこもった言葉に、数名が苦笑する。 エルドリンは魔法大国ティルナリア王国の出身だが、妖精族の女性たちのいたずらや強引さに辟易して国を飛び出し、100年以上もこのエヴェリン王国に滞在している。自然を愛し、男性にも好きなことをさせようとする我が国の気風がよほど肌に合ったのだろう。 だが、彼はすぐに瞳を妖しく輝かせた。


「でもさ、もしWordを持ってたら研究させてね? 王族の男性特有の魔力波長とかあるかもしれないし! 生まれた直後のデータとか取った? まだなら今すぐ行っていいかな?」


「大臣、不敬ですわよ」


すかさず冷静なツッコミを入れたのは、副大臣のアルバーヌだ。彼女は手元の資料をエルドリンの頭に軽く叩きつけた。


「陛下、申し訳ありません。魔法省としても、王子の教育係や魔力測定の準備を万全に整えます。……大臣が暴走しないように、私が手綱を握っておきますので」


「ええ、頼むわアルバーヌ」


私は苦笑しながら頷いた。 そして、視線は外交と経済の要たちへ。


「あらぁ〜! やったわねアウローラちゃん! ……コホン。陛下、これは素晴らしいニュースですわ!」


外務大臣のミラナが、扇子を開いて口元を隠しながらも、隠しきれない興奮で身を乗り出した。


「男児誕生となれば、外交カードとしては最強の切り札になりますわ! 早速、友好国への親書と、牽制のための情報を整理しませんと。あちこちから縁談の申し込みや、留学生の受け入れ打診が殺到しますわよ〜♡」


彼女の頭の中では、すでに十数年先までの外交スケジュールが組み立てられているようだ。


その隣で、商業大臣のルシラが素早い手つきで魔道具の計算機を弾いている。


「ええ、ええ! それに王子誕生の祝賀ムードは、絶好のビジネスチャンスですわ! 記念パレード、関連グッズ、来訪者の増加……。陛下、予算の修正案をすぐに作成します。この機を逃さず、国庫を潤しませんとね」


がめつい。けれど、ルシラのふっくらした体形と大勢の子供たちを持つ肝っ玉母さんの雰囲気は安心感があるし、その商魂と資金力が国を支えているのも事実だ。 最後に、神官長のテレジアが厳かに口を開いた。


「神の恩寵ですわ。出産時に私も拝見いたしましたが、月のような美しい男の子でした。顔に輝きがあり、目に光ある子……。一か月後の『祝福の儀』は、国を挙げて盛大に行いましょう。王子の清らかな魂を、私が責任を持って神々へ報告いたします」


それぞれの立場からの、熱烈な歓迎。 私は改めて、エヴェリン王国が多種多様な出自を持ち、強力で、そして個性的すぎる臣下たちに支えられていることを実感した。


「皆の気持ち、嬉しく思うわ。……リリア、今後の体制について説明を」


私が促すと、リリアが頷いて話し始めた。


「はい。王子に対して良からぬことが起きないように、ヒイロの私室には侍女長のエラーラと、私の娘ミラベルを専属侍女候補としてつけることにしました」


リリアはさらりと、昨夜の家族会議で決めた人事を決定事項として告げた。


「身内の守りは彼女たちに任せます。ライラ、セラの騎士団は王城内の警備を強化してください。そしてミラナ、外交筋からの接触には目を光らせてちょうだい。公式な縁談以外の、裏からの接触も増えるはずです」


「「承知!」」 「任せときなさい!」


リリアの的確な指示に、皆が力強く頷く。


私は席を立ち、円卓の騎士たちを見渡した。


「明日の公布をもって、世界が動くわ。ヒイロはまだ赤ん坊だけれど、その存在はすでに王国の核よ。エリシア母様、そして皆の者、ヒイロのために力を貸してちょうだい」


私の言葉に、全員が居住まいを正し、一斉に声を揃えた。


「御意!!」


その声は、王宮の石壁を震わせるほど力強く、頼もしかった。


会議が終わり、私はリリアと共に部屋を出た。 廊下を歩きながら、ふと窓の外を見る。中庭では、いつものように穏やかな風が吹いている。


「あの子は、こんなにも賑やかで、強力な者たちに支えられるのね」

「ええ。少々、個性が強すぎて胃もたれしそうですが」


リリアが肩をすくめる。 私はくすりと笑った。


「いいじゃない。のびのびと育ってもらうには、これくらいの土壌が必要よ」


明日の朝、高らかにラッパが鳴り響き、ヒイロの名が世界に知れ渡る。 それによって引き起こされるであろう荒波を予感しながらも、私は不思議と不安を感じていなかった。

この最強の布陣があれば、どんな波も乗り越えられる。 そう確信して、私はヒイロの待つ部屋へと足を向けた。


お読みいただき、本当にありがとうございます!


「続きが気になる!」「この世界観、嫌いじゃないな」と少しでも思っていただけましたら、引き続きお読みいただければ幸いです。


ページ下部にある【ブックマーク】と【★★★★★】の評価をポチッとしていただけると、作者のモチベーションが上がります。


新人ですが、皆様に楽しんでいただけるよう全力で書いていきますので、

応援よろしくお願いいたします!

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