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―転生の果てⅢ―  作者: MOON RAKER 503


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第8話 転生したら恐竜だった

静けさの中に、変化があります。

今日も一つの“時間”を刻みに来てくれて、ありがとう。

熱。

光。

鼓動。


目覚めた瞬間、それらが自分を満たしていた。

空気が焦げている。

喉を通る息が、熱い。

肺が膨らむたび、体が軋む。

大地が蒸気を吐いている。

湿原から立ち上る白い煙。

沼地の泡が弾ける音。

プツ、プツ、と。


自分の体は、重い。

圧倒的に、重い。

首を持ち上げるだけで、筋肉が引っ張られる。

肩が動く。背中が伸びる。

尾が地面を這う。

ズル、という音。


足を踏み出す。

地面が震える。

ドシン、という音。

それが、自分の足音だった。

もう一度。

ドシン。

また。

ドシン。


自分は、恐竜だった。


巨大な肉体。

太い四肢。

長い尾。

首を動かすだけで、視界が天と地を行き来する。

上を向けば空。

下を向けば大地。

その間を、自分の巨体が満たしている。

体の中で、心臓が叩いている。

ドクン。ドクン。

遅く、重く、確かに。

血が流れる音が聞こえる気がする。

ゴウ、ゴウ、と。


世界が、生きている。

自分も、生きている。


歩く。

本能のままに。

理由など、ない。

歩くから、歩く。

動くから、動く。

それだけだった。


足が大地を踏む。

ドシン。

ドシン。

ドシン。

それが、時間を刻む音だった。

一歩ごとに、世界が揺れる。

湿原の水面が波打つ。

木の葉が震える。

小さな生き物たちが、逃げていく。


空を見上げる。

赤い。

夕焼けではない。

空そのものが、赤く燃えている。

雲が低く垂れ込め、稲妻が走る。

ピカリ。

ゴロゴロゴロ……

雷鳴が空を転がる。

遠くで、火山が煙を上げている。

黒い煙。灰色の煙。

それが空を這い、風に流される。

地平線が揺れている。

陽炎のように。


世界は、まだ若い。

荒々しく、激しく、生まれたばかり。

安定していない。

いつ、どこで、何が起こるか分からない。

だが、それでも。

生命は、生きている。


風が吹く。

熱い風。

湿った風。

火山灰を含んだ風。

それが自分の肌を撫でる。

硬い鱗。厚い皮膚。

触れるものを拒む表面。

だが、風は感じる。

温度が伝わる。

世界の息吹が、触れてくる。


他の足音が聞こえる。

ドシン、ドシン。

群れだ。

同じ種族。同じ鼓動。

自分は群れの中にいる。


前を行く者。横を歩む者。後ろを追う者。

皆、同じ方向へ進んでいる。


誰も言葉を発しない。

だが、理解している。

共に進む。共に食べる。共に生きる。


それが、この時代の全てだった。


草を食む。

シダの葉。巨大な木の実。

首を伸ばし、高い枝に届く。

葉を引きちぎる。

バリバリという音。

噛む。飲み込む。

喉を通り、胃へ落ちる。

胃が動く。ゴロゴロと音を立てる。

生命が燃える。

草が、力になる。

エネルギーが満ちる。


また、歩く。

ドシン。ドシン。ドシン。


群れは止まらない。

食べながら進み、進みながら食べる。

それが、生きるということだった。


太陽が沈む。

いや、沈んでいない。

空が暗くなっただけ。

火山灰が光を遮っている。

世界が、灰色に染まる。


遠くで、轟音。

ゴゴゴゴゴ……

地面が揺れる。

火山が、また噴いた。

噴煙が立ち上る。

巨大な柱のように。


空気が、変わる。

硫黄の匂い。焦げた岩の匂い。


群れが動く。

一斉に。方向を変える。

誰かが命令したわけではない。

だが、全員が同じ方向へ走る。


本能。生存。逃げる。


自分も走る。

巨体が躍動する。

足が大地を蹴る。

ドシン、ドシン、ドシン。

尾が風を切る。

呼吸が荒くなる。

ハァ、ハァ、ハァ。


ドクン、ドクン、ドクン。

心臓が速く打つ。


空が裂ける。

光が降る。

いや、違う。


――隕石だ。


空から、火が降ってくる。

巨大な、燃える岩。

尾を引いて、落ちてくる。

それが、地平線に落ちる。


ドォン。


衝撃波。

空気が爆発する。

風が吹き飛ばされる。

熱風。

灼熱の壁が押し寄せる。

大地が跳ね上がる。

地面が割れる。

亀裂が走る。


群れが悲鳴を上げる。

いや、悲鳴ではない。

咆哮だ。

グオオオオオ……

恐怖でも怒りでもない。

ただ、叫んでいる。

生きていることを、証明するように。

存在を、世界に刻むように。


自分も叫ぶ。

喉が震える。

声帯が裂けそうになる。

声が世界に響く。

自分の声が、風に乗る。

空に届く。


また、隕石が落ちる。

今度は近い。

目の前の空が、裂ける。

光が目を焼く。

白い。

眩しい。

何も見えない。

熱が肌を焦がす。

鱗が熱を帯びる。

体が、焼ける。


走る。

走る。

走る。


だが、追いつかない。

火の雨が、世界を覆う。

一つ、また一つ。

隕石が降り注ぐ。

地面が炎に包まれる。

木が燃える。

草が燃える。

大地そのものが、燃える。


空が、赤く染まる。

地面が、赤く染まる。

すべてが、炎になる。


呼吸が、苦しい。

空気が、熱い。

吸い込むたび、肺が焼ける。

ゼイゼイという音。

体が酸素を求めている。

だが、空気には煙しかない。

灰しかない。


足が、止まる。

もう、動けない。

力が、抜ける。

膝が崩れる。


倒れる。

ドシン、という最後の音。

大地に、体を横たえる。

頬が地面に触れる。

熱い。

だが、もう気にならない。


熱。

痛み。

だが、不思議と恐怖はない。

怒りもない。

悲しみもない。


自分は、生きた。

歩いた。

食べた。

叫んだ。

走った。


それで、十分だった。

この巨体で。

この時代で。

この世界で。


視界が、揺らぐ。

炎の向こうに、空が見える。

赤く、赤く、燃えている。

煙が渦を巻いている。

灰が舞っている。


だが、その奥に。

星が、見える。

小さな、光。

炎と煙の隙間から、微かに。


それは、遠い。

遠い、遠い、未来。

自分には、届かない場所。


自分の体は、ここで終わる。

だが、何かが続く。

時間が、続く。

世界が、続く。


命は、滅ぶ。

だが、時間は、止まらない。


自分の鼓動が、遠のいていく。

ドクン。


ドクン。


……。


静寂。


炎の音だけが、響いている。

パチパチという音。

ゴオオという音。

世界が燃える音。


世界は、燃えている。

だが、それでも。

時間は、進んでいる。

止まらずに。

絶えることなく。


自分の体は、灰になる。

やがて、土になる。

地層に埋もれる。

そして、いつか。

誰かが、見つける。


この骨を。

この痕跡を。

この、時間の証を。


燃える空の中。

自分は確かに、生きていた。

そして、進んでいた。

一歩ずつ。

鼓動ごとに。


――命は滅んでも、時間は止まらない

お読みいただき、ありがとうございます。

次の章でも、また別の“流れ”が見えてくるかもしれません。


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