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―転生の果てⅢ―  作者: MOON RAKER 503


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第2話 転生したら砂だった

静かに始まります。

どうぞ、ゆっくりお読みください。

 意識が生まれる。

 光の中で。


 まず感じたのは、落下だった。

 浮遊感ではなく、引かれる感覚。

 重力が、自分を掴んでいる。

 逃れられない力で、下へ、下へと引き寄せる。


 暗闇はない。

 ただ光があるだけだ。

 白く、柔らかく、透明な光。


 上から差し込む白い光。透明な壁。そしてその向こうに、ぼんやりと揺れる影。

 自分は、砂だった。


 一粒の砂。

 無数にある中の、ひとつ。


 周囲には同じ砂がある。触れ合い、擦れ合い、押し合いながら、ただ落ちている。

 一粒一粒が微かに輝き、光を反射して、流れを作る。

 金色に近い、淡い色。

 それが無数に集まり、川のように流れている。


 落ちる。

 それだけが、ここでの存在理由だった。


 重力が、自分を引く。

 抗えない。

 抗う術がない。

 体という概念すらない。

 ただ質量があり、引力があり、落下がある。


 ただ、落ちる。


 サラサラと、音がする。

 砂同士が触れ合う音。

 無数の粒が動く音。

 それは静かで、途切れなく、終わりを感じさせない。

 水の流れる音に似ているが、もっと乾いている。

 もっと冷たい。


 だが自分は知っている。

 落ちる先には、底がある。


 ガラスの向こうで、影が動く。

 人の手。

 この砂時計を持ち上げる指先。

 その動きに合わせて、光が揺れる。

 外の世界の存在を、微かに感じる。


 光が揺れる。

 誰かがこの砂時計を動かしたのだろう。

 振動が伝わり、砂が揺れる。

 自分も揺れる。


 そして、また落ちる。


 他の砂と一緒に。

 個であることを忘れるほど密接に。

 押され、引かれ、流されながら。


 境界が見える。

 上と下を隔てる、細い通路。

 砂が集まり、流れが生まれる場所。

 狭く、暗く、圧迫される空間。


 光がそこだけ途切れる。

 影の中を通り抜けるような感覚。


 そこを通るたび、砂は流れ、時間が進む。


 自分もその流れの中にいる。

 逆らえない。

 止められない。


 一度だけ、抗おうとした。

 他の砂に押されながら、身を固くし、動きを拒んだ。


 だが、無意味だった。


 周囲の砂が流れを作り、自分を押し流す。

 抵抗するほど、摩擦が生まれ、砂が削れていく。

 角が取れ、丸くなり、より流れやすくなる。

 体が小さくなり、軽くなり、速度が増す。


 抗いは、崩壊を早める。


 それを悟り、自分は力を抜いた。

 流れに身を任せる。

 他の砂と同じ速度で、ただ落ちる。


 それが、砂の在り方だった。


 ただ、落ちる。


 かつて自分は、時計の針だった。

 刻むことで存在した。

 音を立て、動き続けることが使命だった。

 止まることは、死を意味した。


 だが今は違う。


 自分は流れる。

 刻むのではなく、崩れる。

 音を立てるのではなく、消えていく。


 針は永続を目指した。

 砂は有限を受け入れる。


 それが砂の在り方だった。


 下には、すでに落ちた砂が積もっている。

 動かない。

 静かに、ただそこにある。

 光を受け、微かに輝いている。

 小さな山のように盛り上がり、頂が平らになっている。


 やがて自分もそこへ辿り着く。

 最後の一粒として、頂に降り立つ。


 衝撃。

 微かな、だが確かな着地。


 積もり、埋もれ、個を失う。


 流れが止まる。

 音が消える。

 静寂だけが残る。


 それは終わりだ。


 ――だが、本当にそうだろうか?


 光が動く。

 影が揺れる。

 そして、衝撃。


 世界がひっくり返る。


 重力が反転する。

 上だったものが下になり、下だったものが上になる。

 体が浮き、宙に放られる感覚。

 だが一瞬だけ。


 すぐに重力が戻る。

 新しい下へ向かって。


 積もっていた砂が、一斉に動き出す。

 静止していた山が崩れ、雪崩のように流れ始める。


 静止していた自分も、再び流れ始める。


 上へと運ばれる。

 だが、それもまた一瞬のこと。


 境界を越え、また落ちる。


 すぐに、また落ちる。


 繰り返し。

 終わりではなく、始まり。

 崩れることは、消えることではなかった。


 時間は、流れ続ける。

 砂は、落ち続ける。


 それが、この世界の呼吸だった。


 サラサラと、音が響く。

 無数の粒が動き、流れ、積もる。

 その中で、自分は今も落ちている。


 止められない。

 止まってはいけない。


 なぜなら、止まれば時間も止まるから。


 針のときは、刻むことで時間を作った。

 音を立て、世界を震わせ、律動を生んだ。


 砂になった今は、流れることで時間を作る。

 崩れ、積もり、また崩れる。

 その循環が、時間の証だった。


 形は違う。

 在り方も違う。


 だが、本質は同じだった。


 自分は、時間そのものだ。


 落ちる。

 積もる。

 ひっくり返る。

 また落ちる。


 その繰り返しの中で、自分は存在し続ける。


 有限であることは、儚いことではなかった。

 崩れることは、終わることではなかった。


 流れは、循環だった。

 終わりは、始まりだった。


 光が揺れる。

 影が動く。

 砂が落ちる。


 サラサラと、音が響く。


 自分は今も、ここにいる。

 砂として、流れとして、時間として。


 それが、生きるということだった。


 ――そして自分は、永遠に落ち続ける。


 上から下へ。

 下から上へ。

 また上から下へ。


 その繰り返しの中で。


 境界を通り、流れを作り、積もり、また流れる。


 一粒の砂として。

 時間の一部として。


 サラサラと、音が響く。

 世界が進む。

 時間が流れる。


 外の世界で、誰かが待っている。

 誰かが見ている。

 誰かが、この砂時計をひっくり返す。


 そのたびに、自分は生まれ変わる。

 終わりから、始まりへ。

 静止から、流動へ。


 それが、砂の命だった。


 光が差し込む。

 透明なガラスの向こうで、世界が動いている。

 人が歩き、風が吹き、季節が巡る。


 その全てが時間の中にあり、自分もその一部だった。


 落ちることで、時間を作る。

 流れることで、世界を動かす。


 それだけで、十分だった。


 サラサラと、音が響く。


 それは静かで、優しく、途切れない。


 自分は今も落ちている。

 そして、また積もる。

 そして、またひっくり返される。


 永遠に。


 それが、時間の呼吸だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

時間の流れの中で、また次の瞬間にお会いしましょう。


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