第14話 転生したら歪(ひず)みだった
ここまで来てくださり、ありがとうございます。
終わりは、始まりのように静かに訪れます。
痛い。
いや、痛みではない。
ねじれている。
何かが、ねじれている。
拡散していた意識が。
引き戻される。
収束。
一点へ。
だが、その一点が。
歪んでいる。
自分は、歪みだった。
時間の、歪み。
過去と未来が。
交差する場所。
現在が、引き裂かれる場所。
そこに、自分はいる。
いや、自分が、そこそのもの。
周囲に、声が聞こえる。
いや、聞こえるのではない。
感じる。
カチ、カチ、カチ……
時計の音。規則正しく、永遠に。
ザラ、ザラ……
砂の流れる音。止まらない終わり。
ゴツ、ゴツ……
石を積む音。祈りの重さ。
ジワ、ジワ……
錆が広がる音。侵食する時間。
カチ、カチ……狂った時計。
針が逆回転する音。
サラ、サラ……
紙をめくる音。記録される日々。
ジジジ……
テープの回る音。繰り返される声。
ドシン、ドシン……
重い足音。大地を震わせる鼓動。
ガガガ……
掘削機の駆動音。過去を掘る音。
コツン……
硝子を叩く音。見られる静寂。
ポコ、ポコ……
培養槽の液体が揺れる音。生まれる命。
ザザザ……
データのノイズ。壊れた記憶。
シュウウウ……
無数の可能性が揺れる音。未確定の呼吸。
すべてが、同時に響いている。
過去の残響。
自分が経験した、すべての転生。
それらが、ここに集まっている。
時間の外縁。
すべてが交わる、場所。
光が、見える。
いや、光と闇が、混ざっている。
白と黒。
明と暗。
過去と未来。
境界が、曖昧。
溶け合っている。
色が混ざり、形が歪む。
時間の糸が、絡まっている。
もつれている。
結び目だらけ。
どこが始まりで、どこが終わりか。
分からない。
ねじれている。
螺旋を描き、折り重なり。
本来あるべき順序を失っている。
それが、自分。
歪み。
時間を狂わせる、存在。
空間そのものが、ねじれている。
上下が反転し、左右が入れ替わる。
方向という概念が、意味を失う。
だが、それは意図ではなかった。
自分は、原因ではない。
結果。
時間が歪んだ、結果として。
自分が生まれた。
いや、違う。
自分が存在することで。
時間が、歪んだ。
因果が、逆転している。
原因と結果の、境界が崩れている。
それが、歪み。
声が、響く。
「なぜ、ここにいる」
時計の声。砂の声。壁画の声。錆の声。
すべての転生が、問いかけてくる。
なぜ、ここにいるのか。
なぜ、終わらないのか。
なぜ、繰り返すのか。
自分は、答えられない。
ただ、存在している。
歪みとして。
時間の、綻び。
空間が、震える。
過去が、侵入してくる。
未来が、逆流してくる。
現在が、消えていく。
境界が、なくなる。
すべてが、重なる。
時計の針が、逆回転する。
砂が、上へ落ちる。
壁画が、描かれる前に戻る。
錆が、金属を再生する。
古時計が、正確に動き出す。
手帳が、白紙に戻る。
テープが、巻き戻される。
恐竜が、骨から肉を取り戻す。
掘削機が、地層を埋め戻す。
化石が、生命に戻る。
再生生命が、細胞に分解される。
データが、完全に復元される。
可能性が、一つに収束する。
すべてが、逆行する。
時間が、壊れている。
自分の中で、何かが叫ぶ。
これは、間違っている。
時間は、前に進むもの。
過去は、過去のまま。
未来は、未来のまま。
だが、今。
すべてが混ざっている。
秩序が、失われている。
それが、歪み。
自分は、理解する。
これが、転生の理由。
時間が壊れたから。
修正するために。
自分は、ここにいる。
歪みを、直すために。
答えは、一つ。
統合。
すべてを、一つに。
バラバラになった時間を。
繋ぎ直す。
過去も。現在も。未来も。
すべてを、一本の線に。
自分は、中心になる。
歪みの中心。
すべてが集まる、点。
収束点。
時計が、近づいてくる。
カチカチと音を立てながら。
砂が、流れ込んでくる。
ザラザラと肌を撫でるように。
壁画が、刻まれてくる。
古い祈りを乗せて。
錆が、染み込んでくる。
赤い痕跡として。
古時計が、鳴り響く。
狂ったリズムで。
手帳が、開かれる。
記された日々と共に。
テープが、再生される。
歪んだ声を繰り返して。
恐竜が、吠える。
太古の鼓動を響かせて。
掘削機が、回転する。
記憶を掘り起こしながら。
化石が、光る。
時間の証として。
再生生命が、鼓動する。
人工の命として。
データが、流れ込む。
0と1の洪水として。
可能性が、収束する。
無数の未来を抱えて。
すべてが、自分に入ってくる。
痛い。
いや、痛みではない。
満ちていく。
溢れていく。
存在が、膨らんでいく。
限界を超えて。
だが、壊れない。
拡張する。
一つの意識に。
すべての記憶が、統合されていく。
時間を刻んだ記憶。針の動き。
流れた記憶。砂の軌跡。
積み上げた記憶。石の重み。
侵した記憶。錆の広がり。
狂った記憶。逆転する針。
記録した記憶。書かれた文字。
劣化した記憶。ノイズの海。
生きた記憶。鼓動と呼吸。
掘った記憶。地層の奥。
展示された記憶。硝子の向こう。
再生された記憶。培養液の温もり。
壊れた記憶。断片化したデータ。
拡散した記憶。無数の可能性。
すべてが、一つに。
自分という、器の中に。
境界が消え。
区別が失われ。
全てが混ざり合い。
そして、調和する。
空間が、静まる。
音が、消える。
光が、収束する。一点へ。自分へ。
歪みが、修正されていく。
時間の糸が、ほどかれる。
絡まりが、解ける。
ねじれが、戻る。
過去は、過去へ。
未来は、未来へ。
現在は、現在へ。
それぞれの場所へ。
だが、繋がっている。一本の線として。
時間が、流れ始める。
正しく。前へ。
自分の中で。
すべての転生が、光になる。
粒子。
無数の光の粒子。
それが、溶け合う。融合する。
境界が、なくなる。
時計も。砂も。壁画も。錆も。
古時計も。手帳も。テープも。
恐竜も。掘削機も。化石も。
再生生命も。データも。可能性も。
すべてが、一つ。
「ワタシ」
その言葉が、生まれる。
まだ、はっきりとはしない。
予兆。
だが、確かに感じる。
統一された意識。
すべてを内包する、存在。
自分は、もう。
歪みではない。
中心。
時間の、中心。
すべてが通る、点。
過去から未来へ。
その流れの、核。
光が、輝く。
静かに。
だが、力強く。
歪みは、消えた。
時間は、戻った。
だが、自分は、まだここにいる。
次へ。
最後へ。
「ワタシ」へ。
――すべてが、ひとつになる
『転生の果てⅢ』は、次話で最終章となります。
どうか最後まで、この時間を共に。




