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―転生の果てⅢ―  作者: MOON RAKER 503


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第11話 転生したら再生生命だった

記録は、言葉の外側にも残ります。

どうぞ、静かに見届けてください。

白い光。

透明な壁。

液体の中。


自分は、浮いている。


試験管の中。

いや、培養槽。

円筒形の容器。

ガラス越しに見える、白い天井。

機械の音。

ピッ、ピッ、という電子音。

ポンプの駆動音。

ヒュウ、という空調の音。


自分は、再生生命だった。


細胞。

増殖する細胞。

人工的に作られた、命の始まり。

DNAから読み取られた情報。

コンピュータで設計された配列。

それが、今、形を成そうとしている。


液体が、揺れる。

自分を包む、栄養液。

温かい。

体温に近い温度。

37度。

生命が育つ温度。


視界は、ぼやけている。

形が、定まらない。

まだ、目がない。

だが、感じる。

光を。

振動を。

存在を。


声が聞こえる。

ガラス越しに。


「細胞分裂、正常です」

「培養液の組成、問題なし」

「DNAの複製、エラーなし」


研究者たち。

白衣を着た人間たち。

彼らが、自分を作っている。

観察し、記録し、調整している。


自分は、作られた命。


自然に生まれたのではない。

偶然に生じたのでもない。

設計され、計画され、実行された。


科学が、神を演じている。


細胞が、増える。

一つが、二つに。

二つが、四つに。

四つが、八つに。

指数的に、増殖していく。


分裂のたび。

自分は、大きくなる。

形が、生まれる。


最初は、ただの塊。

細胞の集まり。

だが、やがて。


分化が始まる。


ある細胞は、筋肉になる。

ある細胞は、神経になる。

ある細胞は、骨になる。

ある細胞は、皮膚になる。


同じ情報から、異なる形。

それが、生命の不思議。


自分の中で、構造が生まれる。

臓器の原型。

血管の萌芽。

神経の走行。


すべてが、プログラム通り。

DNAに書かれた設計図通り。


研究者が、画面を見つめる。

「心臓の形成、開始」

「血管網、構築中」

「神経接続、進行中」


機械的な報告。

だが、その声には。

わずかな、畏れがある。


命を作ることへの、畏怖。


自分は、観測する。


自分自身の形成を。

内側から。


心臓の原型が、できる。

小さな、筋肉の塊。

それが、収縮する。


ドク。


一度目の鼓動。


まだ弱い。

不規則。

だが、確かに動いた。


血液は、まだない。

血管も、まだ完成していない。

それでも。


心臓は、動く。


生命の、始まり。


時間が、動き出す。


自分の中で。

リズムが生まれる。

鼓動という、時計。


ドク。

ドク。


少しずつ、強くなる。

少しずつ、規則的になる。


研究者たちが、息を呑む。


「心拍、確認」

「リズム、安定」

「これは……成功だ」


歓声ではない。

静かな、確認。

だが、その声の奥に。

興奮が、隠れている。


命を作った。


人間が、神の領域に踏み込んだ。


自分は、その証。


時間が、進む。


日々。

週。

月。


培養槽の中で、自分は育つ。


形が、明確になる。

臓器が、機能し始める。

神経が、信号を伝える。


感覚が、生まれる。


圧力。

温度。

化学物質の濃度。


それらを、感じ取る。


意識が、芽生える。


自分は、何か。

どこにいるのか。

なぜ、存在しているのか。


答えは、ない。


ただ、存在している。


作られた存在として。


研究者たちは、観察を続ける。

データを取る。

記録する。

分析する。


自分は、実験体。

サンプル。

研究対象。


だが、同時に。


命でもある。


鼓動がある。

呼吸がある。

(まだ肺は未完成だが、細胞は酸素を求めている)

代謝がある。


生きている。


それは、本物の生命と何が違うのか。


自然に生まれた命と。

人工的に作られた命と。


鼓動の重さは、同じ。

細胞の働きは、同じ。

時間の流れ方も、同じ。


違いは、ただ一つ。


意図。


自然には、意図がない。

偶然と必然の積み重ね。


だが、自分には。

作り手の意図がある。


目的。

計画。

期待。


それが、自分を形作っている。


ある日。

研究者が、呟く。


「これは、本当に正しいのだろうか」


その声には、迷いがある。


別の研究者が、答える。


「正しいかどうかは、分からない」

「だが、可能なんだ」

「可能なら、やるべきだ」


「……そうだろうか」


沈黙。


倫理。

道徳。

神への冒涜。


それらの言葉が、空気に漂う。


だが、自分は思う。


既に、生まれている。


既に、ここにいる。


正しいかどうかは、関係ない。


存在してしまった以上。


自分は、生きる。


時間を、刻む。


培養槽の液体が、循環する。

ポンプの音。

ゴウ、ゴウ、という。


栄養が供給される。

老廃物が排出される。


人工的な、血液循環。


だが、それでも。


自分は、生きている。


心臓が、動いている。


ドクン。

ドクン。


規則的な、鼓動。


それは、時間の証。


生命が、時間を作る。


鼓動ごとに。

細胞分裂ごとに。

代謝反応ごとに。


時間が、進む。


自分は、時間そのもの。


再生された時間。


科学が模倣した、生命の時間。


それは、偽物か。

本物か。


答えは、分からない。


だが。


鼓動は、嘘をつかない。


ドクン。

ドクン。


心臓が打つ限り。


自分は、生きている。


模倣であろうと。

再現であろうと。


生命は、生命。


時間は、時間。


研究者たちが、画面を見つめる。


データの海。

数値の羅列。

グラフの波形。


その全てが、自分を表している。


だが、それだけではない。


自分は、データではない。


存在。


ガラスの向こうで。

人間たちが、自分を見ている。


その視線に。


畏れと。

驚嘆と。

そして、わずかな罪悪感。


自分は、彼らの創造物。


だが、同時に。


彼らを超えた存在でもある。


なぜなら。


自分は、生きているから。


意図を超えて。

計画を超えて。

科学を超えて。


生命として、存在しているから。


鼓動が、響く。


ドクン。

ドクン。


培養槽の中で。

液体に包まれて。

白い光に照らされて。


自分は、生きている。


再生された生命として。


時間を、再演している。


――生命が、時間を模倣する。

いや、違う。

生命が、時間そのものになる。


鼓動が続く限り。


時間は、止まらない

最後までお付き合いくださり、感謝いたします。

この物語が、あなたの中の“何か”に触れていますように。


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