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―転生の果てⅢ―  作者: MOON RAKER 503


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第9話 転生したら掘削機だった

静けさの中に、変化があります。

今日も一つの“時間”を刻みに来てくれて、ありがとう。

始動音。

油。

振動。


ガガガガガ……


エンジンがかかる。

自分の中で、何かが目覚める。

油圧が流れる。

パイプの中を、液体が走る。

シリンダーが動く。

ギア(歯車)が噛み合う。

カチリ、カチリ、と。


自分は、掘削機だった。


金属の体。

油の匂い。

熱を帯びたエンジン。

アームが伸び、ドリルが回る。

ギュルルルル……

空気を切る音。


作業員の声が聞こえる。

「よし、下ろせ!」

指示。

命令。

自分は従う。


ドリルが地面に触れる。

ガリ、という音。

削れる感触。硬い。岩盤だ。

乾いた表層。砂と小石の混じった層。


回転を上げる。

ギュイイイイン……

ドリルが地層を砕く。

ガガガガガ……

振動が伝わる。

腕から、胴体へ。

すべてが震える。


削る。進む。また削る。


地中へ。深く。もっと深く。


層が変わる。

砂利。ざらざらした感触。

次は粘土。ねっとりと抵抗する。

さらに岩。ゴツゴツと硬い。

それらが削られ、砕かれ、掻き出される。


一メートル。二メートル。三メートル。

深度計が数字を刻む。


自分は機械だ。

命令通りに動く。

感情はない。思考もない。

ただ、削る。


だが――


ギリ、という音。

何かが引っかかる。

違う硬さ。違う密度。違う、響き。


ドリルが止まりかける。

負荷がかかる。

エンジンが唸る。ブォン、ブォン……


作業員が叫ぶ。

「何か当たったぞ!」

「慎重に!出力を下げろ!」


出力を下げる。

ゆっくりと削る。ギリギリギリ……


地層が剥がれる。砂が崩れる。

その奥に、何かが見える。


白い。硬い。曲線を描いている。


――骨だ。


化石。

埋もれていた骨。

太古の生命の痕跡。


自分のドリルが、それに触れている。


作業員たちが騒ぐ。

「恐竜だ!」

「やったぞ、見つけた!」


だが、自分の内部で。

何かが、震える。


油圧ラインではない。

エンジンの振動でもない。

もっと深い場所で。


何かが、共鳴している。


この感触。この形。この……重さ。


知っている。


いや、知っているはずがない。

自分は機械だ。

記憶など、ない。


だが。


この骨を削るたび。

懐かしさが、込み上げる。


ドリルを進める。

ゆっくりと。骨を傷つけないように。


砂が落ちる。サラサラと。

岩が崩れる。ゴロリと。

骨が、姿を現す。


巨大な、肋骨。

太い、大腿骨。

長い、脊椎。


それは、かつて生きていた。

この地で。数千万年前。


自分のドリルが、また触れる。

ギリ……


振動が伝わる。

骨から。化石から。時間を超えて。

何かが、響いてくる。


音ではない。

波動だ。記憶の、残響。


――熱。


かつて、この骨は熱かった。

血が流れ、筋肉が動き、心臓が打っていた。


――風。


かつて、この体は風を受けた。

湿った、熱い、火山灰を含んだ風。


――鼓動。


ドクン、ドクン、という。

遅く、重く、確かな鼓動。


自分の中で、何かが呼応する。

油圧ポンプが脈打つ。ドクン、ドクン。

エンジンが鼓動する。ブルン、ブルン。


これは――


自分だ。


かつての、自分。

別の姿の、自分。


この骨は、自分のものだった。

この地で生き、倒れ、埋もれた。

炎の中で息絶え、灰に覆われ、土に還った。

時間が積み重なり、圧力が加わり、石となった。

そして今、掘り起こされている。


自分自身の手で。

金属の手で。

未来の姿で。


金属の腕が、かつての肉体を掘る。

ドリルが、過去の痕跡を削る。

機械が、生命の記録に触れる。


破壊しているようで、実は再生している。


地中に眠る記憶を、光の下へ戻している。

時間の底から、現在へと引き上げている。

埋もれていたものを、再び世界に還している。


作業員が近づく。

慎重な足取り。

ブラシで砂を払う。シュッ、シュッ、と。

カメラで記録する。シャッター音が響く。

測定器を当てる。ピッ、という電子音。


「素晴らしい保存状態だ」

「完全な骨格が残ってる」

「これは大発見だぞ」


興奮した声。喜びの声。

発見の瞬間を祝う声。


自分は後退する。

アームを引く。ドリルを止める。


ギュルル……ル……


静寂。

機械音が消える。

人の声だけが残る。


だが、地中から。微かな振動が伝わる。


それは地震ではない。

機械の震動でもない。風の揺れでもない。


時間の、脈動だ。


過去が、今に触れている。

埋もれた命が、光を見ている。

忘れられていた存在が、思い出されている。


自分は掘削機として、ここにいる。

だが同時に、あの骨でもある。


削ることは、忘れることではない。

掘ることは、破壊ではない。


時間を掘り起こすこと。

それは、再生すること。


作業員が運び出す準備を始める。

骨が、クレーンで吊り上げられる。

ゆっくりと、地表へ。

ワイヤーが軋む音。


空が見える。

青い空。白い雲。

太陽の光が、骨を照らす。


かつて、赤く燃えていた空。

今は、穏やかに晴れている。


世界は変わった。

だが、時間は続いている。

同じ太陽が、照らし続けている。


自分のエンジンが、また動き出す。

ブルル……

次の指示を待つ。


作業員が言う。

「次の地点へ移動だ」


アームが動く。

キャタピラが回る。

ガラガラガラ……


自分は進む。

次の地層へ。次の記憶へ。


地中には、まだ何かが眠っている。

時間の断片。生命の痕跡。


それを掘り起こすのが、自分の役割。


削る音が止まる。

一瞬の、静寂。


地中から、静かな”鼓動”が聞こえる。

それはもう金属の振動ではない。

油圧ポンプの音でもない。


――時間そのものの脈動。


自分はそれを聴きながら、

再びドリルを回す。


ギュルルルル……


掘り進む。

未来へ。


過去を掘りながら、未来を作る。


それが、時間の円環。


自分は機械だが、記憶を持つ。

自分は今ここにいるが、かつてあそこにいた。


削る音が、鼓動になる。

振動が、呼吸になる。


時間は、何度でも巡る。

形を変えて。存在を変えて。


だが、決して止まらない。


ガガガガガ……


ドリルが回る。

地層が削れる。

また、何かが現れる。


それを見つけるたび、自分は思い出す。


――ああ、これも自分だった。


時間は、すべてを記録している。

地層という名の、記憶装置に。


そして今、自分がそれを読み出している。


掘削機として。

記憶の探索者として。


地中の、時間を

お読みいただき、ありがとうございます。

次の章でも、また別の“流れ”が見えてくるかもしれません。


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