フィリア - First Love Investigate Association -
同窓会の返事を返したのはいつだっただろうか。
忘れかけた頃に幹事の牛嶋から連絡があった。
確かにスマホの予定表には同窓会と文字があった。
一日早く帰り、実家でゆっくりしようと思っていたが、仕事の都合でそれも出来ず、当日の朝戻っている。
中学の同窓会は、卒業してから十五年後と宣言されていて、俺は十五年ぶりに中学の旧友と会う事になる。
最も、地元に残っている友人たちは飲み会なんかをして頻繁に交流している様子だったが、俺の様に離れてしまった奴らは本当に十五年ぶりになるのかもしれない。
そんな奴がどれだけ居るのかさえも俺は知らない。
関ケ原付近は一昨日の雪が残り、真っ白だった。
席を立ち喫煙ルームへと向かう。
狭い喫煙ルームに入り、小さな窓から流れる風景を見た。
白い雪が目に痛い。
こんな朝早くから帰る事も無かったのだが、会場の設営を手伝ってくれと牛嶋に言われ、この新幹線に乗った。
約束の時間より早く着くが、それも良いだろう。
タバコを消して席に戻る。
窓の外はまだ雪景色で、朝の光が乱反射している。
同窓会を楽しみにして眠れない様な歳でも無い。
まあ、旧友と会える事は楽しみだけど。
それと、もう一つある。
卒業前に校庭に埋めたタイムカプセルだ。
それを今回は掘り出すという。
タイムカプセルと言うと、将来の自分へ宛てた手紙や、当時の宝物などを入れて埋めるなんてベタなモノを思い付くのだが、俺たちが埋めたタイムカプセルは少し違っていた。
あの日は珍しく俺の町にも雪が舞っていた。
「え……」
俺は下倉に訊き返した。
「だからさ、タイムカプセルを埋めようって言ってるんだよ」
下倉はパソコンで作った企画書なんてモノを持って俺の所にやって来た。
俺はその企画書を下倉の手から取り表紙を見た。
「初恋監査協会」
表紙にはそう書かれてた。
「初恋監査……。何だこれは……」
下倉は誇らし気に、
「初恋監査協会。First Love Investigate Association.略してフィリア」
俺は眉を寄せて下倉を見た。
「フリアじゃないのか……」
横で同じ様に見ていた高橋が言う。
「フリアよりフィリアの方が響き良いだろう」
下倉はその辺の拘りがある様子で、その企画書を俺の手から取り、机の上に置いた。
「まあ、つまらん作文やガラクタを入れて埋めるタイムカプセルじゃなくてさ、皆、初恋の相手の名前や、その相手への思いを書いてカプセルに入れようって企画だよ」
俺は下倉の後ろに立つ、水城を見た。
水城は女子の中でもリーダーシップの取れる子で、クラスの人気者でもあった。
その水城もこの企画に参加してるという事は、大半の女子が参加する事になるのはわかった。
「この企画の目的って」
俺が訊くと、下倉は待ってましたと言わんばかりに企画書を開いた。
「ほら、今ってさ、だんだんと結婚するのも遅くなって来てるだろ」
俺と高橋はお互いを見て頷いた。
「俺たちが同窓会するのって十五年後って決まったじゃんか。って事はその頃俺たちは三十歳になっているって事だろ」
俺は小さく頷く。
「初恋の人を書いてカプセルに入れて埋める。三十になった時にそのカプセルを掘り出し、初恋の相手の思い人が、もしお互いに思っている人だったら……。なんて事があると、もしかするとその二人が結婚なんて事になるかもしれないじゃんか」
まあ、それはあり得ない話では無いかもしれないが……。
俺は納得した様に頷く。
「何となくわかった。それでどうするの……」
下倉は更に身を乗り出して来た。
「まあ、カードを準備してるから、それに初恋の人の名前を書いて封筒に入れる。ちゃんと封印してカプセルに入れる。その相手に対する思いをしたためてもらっても良いけど、単純にそれだけだよ。そんで、十五年後の同窓会の時にそれを公開するって訳だ」
まあ、イベント好きの下倉の考えそうな事だった。
夏の花火大会、怪談大会、肝試し大会と三日連続でイベントをやった時には流石にクレームが出てたけど。
「で、皆、参加するの……」
下倉は水城の方を見る。
「女子は全員参加」
水城はそう言った。
「で、男子の勧誘をお前に頼みたいんだ」
俺は露骨に嫌な顔をした。
「勿論、お前だけでって話じゃない。俺も、水城も一緒にやるから」
俺が水城を見ると、コクリと頷いている。
「手伝ってやろうぜ」
横で高橋が言う。
高橋は水城が好きで、彼女に良いところを見せたいのだ。
「もしさ、カードに書く相手が知らない奴でも良いのか」
「勿論だよ。このクラスの奴って事もないし、アイドルだってアニメのキャラだって、同性なんてのもあるかもしれないけど、全部オッケーだよ」
三十でアニメキャラを思い続けてる奴も居ないだろう……。
俺は口元を歪めて笑い、
「わかったよ。後どのくらい勧誘したら良いんだよ」
俺は下倉に訊いた。
確か、住田の親父の鉄工所で錆びない様にってステンレス製のタイムカプセルを作ってもらい、それを埋めた。
住田の親父がノリノリで設計図引いてくれて、その通りに出来上がったんだったな……。
思ったより少し重かったけど……。
俺は新幹線の窓ガラスに映る自分の顔を見て、顎を触った。
十五年前の事、皆覚えているのだろうか……。
結局、饒舌な下倉に賛同して実行委員になった奴が十名近く居たんだったな……。
スマホに牛嶋からメッセージが届いた。
「今日は無理言ってすまんな。遅れても良いから、ゆっくり来てくれ」
中学生の牛嶋にはこんな気の利いた事は言えなかっただろうが、それなりに皆、歳を取ったって事だ。
少し前、少し牛嶋と電話で話をした。
参加者は四十二名中、三十九名。
この上なく優秀な参加率。
これもフィリアの企画のおかげなのかもしれない。
穴井という同級生が十年程前に白血病で亡くなっていた。
後は、アメリカで働いている坂井、ヨーロッパに居る岸本、どうしても仕事の都合で参加できない花山。
しかし、坂井と岸本はオンラインで参加するという。
何とも便利な時代になった。
まあ、それ程にフィリアの結果が知りたいのかもしれない。
乗換の駅に着くアナウンスが聞こえた。
俺は棚の上のスーツケースを下ろし、座席のポケットの缶コーヒーを取った。
乗換の駅のホームに降りた。
冷たい風が吹き付けていた。
俺はスーツケースを引き摺りながら、乗り換える車両の場所まで移動した。
俺と同じ様にスーツケースを引く女性が居た。
何処かで見たな……。
俺はその女性の顔に見覚えがあった。
そして俺と同じ場所に立った。
俺は後ろに立つその女性を気にしながら、時計を見る。
「秋岡君だよね……」
そんな声が後ろからした。
俺は振り返る。
「ほら、やっぱり秋岡君だ」
俺はその女性の顔をしっかりと見た。
「中江……」
そう中江だ。
中学で一緒だった中江……何だったかな……。
「うん。そう。今は結婚して遠藤だけど」
結婚してるのか……。
「そうか……。今は何処に住んでるの」
「東京だよ。秋岡君は」
「俺は横浜に住んでる。仕事は東京だけど」
中江は照れる様に口元を隠す。
「何か、変わってないな」
そんな事は無い。
あの頃みたいな若さは無い。
「私は老けたでしょ」
彼女はそう言って笑った。
「そんな事は無いよ。中学の時の面影はちゃんとある」
俺は、正解のわからない言葉を返した。
アナウンスが流れ、乗換える新幹線が入って来た。
新幹線の音で会話が聞こえない間は二人とも黙っていた。
そしてドアが開き、二人で乗り込んだ。
座席もあるのだが、次の駅まで数分だったため、座席に座らず、ドアの前に立っていた。
中江は結婚したと言った。
そうなのだ。
結婚している奴もいるだろう。
「懐かしいな……。秋岡君とは本当に十五年ぶりだね」
俺は中江に微笑む。
俺は東京の大学に行き、そのまま向こうで就職した。
だから高校が一緒だった奴ら以外とは十五年ぶりになる。
「私は結婚するまでこっちだったから、結構会ってたけど」
俺は彼女の言葉に頷く。
「今日は……」
「あ、うん。実家に寄ってから……」
「そうか」
「秋岡君も……」
俺は首を横に振った。
「俺はこのまま、会場のホテルに……。牛嶋に準備頼まれてさ」
「大変だね……」
中江は微笑みながら言った。
「まあ、久しぶりだしね。何の準備も手伝えなかったから、これくらいはね」
最後のトンネルを抜けると、懐かしい風景が広がり、駅に到着すると言うアナウンスが聞こえた。
新幹線は減速してゆっくりとホームに滑り込んで行く。
エアーの抜ける音がしてドアが開くと冷たい大気が一気に流れ込んで来た。
俺と中江はスーツケースを引きながら新幹線を降りた。
この駅で降りる人の数はそう多くは無い。
ようやく帰って来た気分になった。
勿論、盆、正月などには帰ってくる事も有るのだが、同窓会で帰るのは少し気分が違っていた。
二人でコンコースに下りるエレベーターに乗る。
「楽しみだよね……。十五年ぶりなんていうと」
俺は中江を見て、小さく頷く。
「そうだなぁ……。禿げてるやつとかも居るんだろうな」
俺の言葉に中江は声を出して笑った。
改札を抜けると中江の母が迎えに来ていた様で、中江は手を振っていた。
「じゃあ、私は此処で。また後でね」
中江は母の所へ小走りに向かった。
俺はそれを見て、エスカレーターに乗った。
駅からホテルまでは歩いて五分程度。
時間を見るとまだ早く、俺は駅の中にあるドーナツショップに入り、適当なドーナツを取り、コーヒーを頼んだ。
少し此処で時間を潰そう……。
奥の席に座り、熱いコーヒーを飲む。
スマホを出して牛嶋にメッセージを入れた。
「到着したけど、少し休憩してから行くよ」
直ぐに返信があった。
「了解。こっちもまだ到着してないから、ホテルに着いたら連絡する」
俺は、スマホをテーブルの上に置いて、ドーナツを食べた。
卒業式の後、教室で下倉は準備していたカードと封筒を配った。
周囲から見られない様に、身体で隠しながらそのカードに初恋の相手を書く。
勿論、初恋ではない相手を書く奴もいるだろうし、白紙って奴もいるだろう。
そんな事はどうでも良くて、この状況と、この緊張感を楽しめたら良い。
俺はそう思っていた。
「誰って書いた……」
高橋が俺のカードを覗き込んで来る。
まだ白紙だった俺はカードを高橋に見せた。
「何だよ。まだ書いてないのかよ」
高橋は残念そうに顔を顰め、自分のカードを書き始めた。
アイツはコイツの事が好きなんて、周知の奴もいたが、それも良い。
それでも皆、十五年後のために書き込む。
そこに書いた事は、十五年間は書いた本人しか知らないのだから、面白いイベントなのかもしれない。
カードに書き込むとそれを封筒に入れて、封をする。
そして下倉が手に持って回るステンレス製のタイムカプセルに入れて行く。
四十二通の封筒がカプセルの中に入った。
下倉はそのカプセルを皆が見ている前で蓋をした。
そして数本のボルトで締めて行く。
住田の親父の設計は完璧だった。
そのカプセルを校庭の隅に穴を掘って埋めた。
必要以上に深く掘ろうとする下倉に、
「そんな深く掘ると、掘り出す時見つからないよ」
と水城が言って、それでも一メートルくらいの穴は掘った気がする。
卒業証書と鞄を校庭に投げ出して、皆、その様子を見ていた。
「ホテルに着いた。良い時間に来てくれ」
牛嶋からそんなメッセージが入った。
俺は飲み終えたカップをトレイに載せて返却口に返した。
そしてスーツケースを持って店を出た。
使い込んだスーツケースはキャスターの音がうるさくなる。
そのキャスターの音を気にしながら俺はホテルへと歩いた。
信号に立ち止まり、上着のポケットに入れた新横浜で買ったコーヒーを飲む。
新幹線の高架の向こうにホテルが見える。
いよいよ旧友たちに会える。
俺は信号が青になったのを確認して国道を渡った。
自販機の前で缶コーヒーを飲み干して空き缶をゴミ箱に捨てた。
そしてホテルへ入った。
二階のロビーまで続くエスカレーターを上がると、ロビーにスーツ姿の旧友が数人立っていた。
「おお、秋岡……」
「久しぶりだな」
と口々に言って来る。
俺も挨拶をして、その顔を確認する。
牛嶋。
こいつは本当に変わっていない。
少し頭が薄くなったか……。
栗原。
偉く身長の高い奴になった。
卒業の時はまだ声変わりもしていなかったと思うが。
久我山。
昔から太ってはいたが、今も変わっていない。
「秋岡君……久しぶり」
と小柄な女性が言う。
間違いない。
水城だ……。
「水城……だよな……」
あの頃のままの水城だった。
俺は自然に顔が綻んだ。
「とりあえず会場の方、行こうか……。色々と準備が大変なんだよ……」
牛嶋の言葉に皆で一つ上の階の大広間に移動した。
オンラインで参加する坂井と岸本のためのモニターの設置。
校庭を掘りに行く下倉達の様子もリアルタイムで流すらしい。
便利になった分、準備が大変になった。
俺は息を吐いて、上着を脱いだ。
「お前、こういうの得意なんだろう」
牛嶋が俺の後ろで言う。
準備を手伝ってくれと言われた理由がわかった。
どうやらIT系の仕事をしているのが俺しか居ないらしい。
「任せろ……」
俺は早速、準備に取り掛かった。
ホテルの担当者と話をして、数台のノートパソコンをテーブルに並べた。
そしてそれぞれにモニターを繋ぎテストをする。
会場の音声を拾うためのマイクを数本準備して、参加者がオンラインでどう映っているかを見せるための大きなモニターも設置した。
壇上で話す人を映すカメラを三脚に立てた。
「水城……、悪いけど、壇上に立ってみてくれ」
水城は恥ずかしそうに壇上に上がり、こっちを見ていた。
その様子が大きなモニターに映し出される。
「一曲、歌ってみてくれ」
俺がそう言うと、
「え……」
と水城が動揺していた。
「冗談だよ」
そう言うと周囲に居た奴らも笑っていた。
「声を出してみてくれるか」
水城は、
「テスト、テスト」
と何度か繰り返していた。
何か、文化祭の準備した日の事を思い出す様だった。
俺は自分のノートパソコンをスーツケースから引っ張り出して、オンラインのテストをした。
俺の顔がモニターに映し出され、会場に俺の声が響いた。
「これで良し」
手を止めて俺を見ていた旧友たちが拍手した。
俺は親指を立てて、合図を送った。
ある程度の準備を終え、俺たちはロビーの横にあるカフェで休憩する事になった。
「本当に秋岡は久しぶりだな……」
栗原が、コーヒーを飲みながら言う。
「ああ、多分十五年ぶりだな……」
俺は喉が渇いていた事もあり、アイスコーヒーを頼んだ。
「しかし、凄い参加率だな……」
牛嶋が身を乗り出す。
「そうなんだよ。多分、下倉の、何だっけ……」
「フィリア……」
俺の横に座る水城が言う。
「そう、そのフィリアのおかげじゃないかと思うんだけどな」
皆がその言葉に頷いている。
「初恋の相手、誰が誰を好きだったかって知りたいんだろう」
俺はグラスを取り、
「そんなの単なる余興だろう。それが目的で来るなんてあるかな……」
と、言うと、
「あるある。皆、遠くからでもそれを目的に帰って来てるよ」
と久我山が言う。
「今更、あの頃誰が好きだったなんて知りたいか……」
俺はアイスコーヒーを飲んで喉を鳴らした。
「秋岡君は……」
俺はグラスをテーブルに置きながら水城を見た。
「秋岡君は、当時から冷めてたよね……。どっちでも良いみたいな感じだった」
水城は紅茶を飲みながら言った。
確かに冷めていたかもしれない。
当時どうであれ、時はその思いさえも変えてしまう力を持っている。
その時、死ぬ程好きでも、その思いは変わって行くのが普通だ。
俺は小さく何度か頷く。
「確かに冷めてたのかもな……」
そう言って俺は首を横に振った。
「いや、違うな……冷めていたのではなく、怖かったのかもしれないな……」
「怖かった……」
水城は俺の顔を覗き込む様に見る。
「俺の思い人が、誰に思いを寄せているのかを知るのが……」
水城はクスクス笑った。
「何が可笑しいんだよ……」
俺は水城に微笑みながら訊いた。
「だって、秋岡君ってもっと恋愛に関して余裕のある人だと思ってたから……」
余裕……。
まさか、そんなモノを持った事なんて一度もない。
そんな風に水城には映ってたのか……。
俺は無言のままアイスコーヒーを飲み干した。
昼前に会場に旧友たちが集まり始めた。
既にオンラインを繋ぎ、アメリカの坂井とドイツの岸本は画面越しに旧友と楽しそうに話をしていた。
「秋岡君」
俺は名前を呼ばれ振り返った。
すると新幹線で会った中江が立っていた。
俺は中江に近付き、頭を下げた。
「さっきはどうも……」
中江はニコニコと笑って、
「楽しみだね……フィリア……」
それだけ言うと他の友達の所へと行った。
やっぱり楽しみなのか……。
「おお、秋岡」
大声で俺を呼んだのは高橋だった。
高橋とは高校も一緒だったので、十五年ぶりという事は無い。
高校の同窓会でも顔を合わせたので、数年ぶりという所か。
「いよいよ、お前が誰を好きだったのかわかる日が来たな……」
高橋は小声で言った。
「そんなの気になるのか……」
「なるなる。そのために皆集まってるんだろ」
俺は周囲を見渡して鼻で笑った。
「まさか……」
高橋は俺の背中を叩いた。
「わかってないな……。あの頃って、多分特別なんだよ。あの頃好きだった子とかって一生忘れない存在なんじゃないかな……」
高橋は周囲を見ながら呟く様に言った。
俺はそんな高橋に、
「お前もそうか……」
と訊いた。
高橋が目で探しているのは水城だろうと思った。
「ん……。ああ、そうだよ……。俺は水城を忘れた事はない」
そう言うと俺の背中をポンポンと叩き、演台の傍に居る水城の方へと走って行った。
やれやれ……。
今日は皆、あの時代に戻ってしまうのか……。
俺は混み始めた大広間を見て苦笑した。
立食パーティは疲れる。
老いた五十嵐先生は疲れたのか、早々に帰って行った。
大広間の中は幾つかのグループに分かれ、盛り上がっていた。
そこで、フィリアの発起人である、下倉が演台に立ちマイクを握った。
コイツも変わらない。
今はコンサル会社で働いているらしい。
口の達者な下倉にはベストな業種だろう。
「では皆さん、盛り上がっている所だと思いますが……」
下倉の声が大広間に響き、ハウリングした。
下倉はマイクの頭を叩くと、スタンドに戻した。
「皆さんは覚えておられますでしょうか。初恋監査協会」
俺は下倉が少し滑稽に見え、クスクスと笑った。
「First Love Investigate Association.」
下倉の綺麗な英語の発音を聞いて俺は笑うのをやめた。
「そう、フィリアの事です」
「待ってたぞ」
「それを聞きに来たんだよ」
「早くやってよ」
と会場に声が飛び交う。
下倉はその後も色々と説明していた。
今からフィリアの運営メンバーが中学校のグラウンドへ行き、タイムカプセルを掘り返す。
その様子はこの会場からオンラインで見る事が出来て、タイムカプセルを回収した後、このホテルに戻って来て開けるという手順らしい。
「では、今から我が母校へ行ってまいります」
と自撮り棒にスマホを付けた下倉達は会場を出て行った。
演出も上手いな……。
俺は感心していた。
車に乗り込み学校までの道のりを撮影する。
これも演出だろう。
皆がその光景をモニター越しにじっと見つめていた。
俺はビールのお代わりを取り、壁にもたれながらそのモニターを見つめた。
「楽しんでる……」
と俺の横に立ち水城がサンドイッチを食べながら頬を赤らめていた。
「ああ、水城はどう」
俺は水城の持つ皿からサンドイッチを一つ取り口に放り込んだ。
「勿論……」
下倉達は母校に着き、車を降りた。
「皆さん、丁度、この辺りですね。早速掘ってみたいと思います」
撮影する下倉と三人の旧友は画面に向かって微笑み、グラウンドの隅を掘り始めた。
俺も、水城もそれを黙って見ていた。
会場の中は皆、声を出して盛り上がっていた。
「私ね……」
水城はビールのグラスを取り、口を開いた。
俺は近くの椅子に座り、隣に座れと水城を誘う。
水城は俺の隣に座った。
「私ね、フィリアのカードに秋岡君の名前を書いたのよ」
水城はそう言った。
俺は微笑みながら下を向く。
そしてゆっくり顔を上げると、
「俺も……水城の名前を書いた」
そう言った。
そして二人でクスクスと笑って頷く。
俺と水城は自然に手を繋ぎ、そのまま会場を抜け出し、町へと走り出した。




