第6話 抗えぬ流れ
ヴェン・フェルージュ宮殿の中にある自分の書斎で、ソリストは書類を持ったまま思案に暮れていた。
吹き付ける風で窓が音を立てて揺れる。
(皇族と貴族の少子化が止まらない)
特に皇族では男子の数が減っている。
男系男子が受け継いできたオルヴェル皇帝の系譜。
このままでは皇位を継承する人間がいなくなる。
ソリストは弟夫婦を思い出した。
自分にはフーガが生まれたが、バイエルとシルキーにはいまだに子はいない。
もしも今後もバイエルに男子が生まれなければ、元老院でモロウが提案した女系皇族や、女系皇帝、女帝の容認は、避けられないだろう。
ソリストとバイエルの母である皇后は、シルキーの目が無い場所で、バイエルに貴族の女性達を愛人として次々に薦めている。
そしてバイエルは母后の薦めを蹴り続けている。
ソリストとしては愛人についてはバイエルが決めれば良いことだと思っているが、バイエルに男子が生まれてほしい想いはある。
でなければ、フィーネが槍玉にあげられるのだ。
個人的な感情で皇位継承問題を先延ばしにしようとしているのは、他でもない自分だ。
せめて自分達が盾でいられる内は。
末妹のフィーネにはできるだけ自由に、誰の汚い心にもさらされずに、綺麗な世界で生きてほしい。
ソリストは書類を机に置くと、窓から外を見た。
誰も傷つけずに済む方法が、どこかにあるだろうか。