第52話 優しき乙女に弔いの花を
バイエルは公務の合間を縫い、皇都の隅にひっそりとある無縁墓地に立ち寄った。
小さな家ほどの大きさもある石碑の下には、縁者が居ないまま亡くなった沢山の人間達が眠っている。
その石碑の前に花束を置くと、バイエルはしばらく瞳を閉じた。
『クロエ』と書かれた白いカードが、鮮やかな花々に抱かれている。
「おや、こんな朝はやくから珍しい。お知り合いがいらっしゃるので?」
年老いた墓守が近くを通り、声をかけてきた。
「ああ」
「はー、もしや、あれかね。あんたの知り合いも『オリヴィア』ですかな。彼女がここに葬られたと知って、こっそり祈りに来る男達が居るんじゃよ」
墓守はニヤリと笑む。
「……いや。そんな名前じゃない」
墓石の方に視線を戻すと、バイエルは、悪かった、と誰にも聞こえない囁きを漏らした。
フィーネ救出のためにクロエを脅す必要があったと繰り返し思うほど、言い訳がましくてやるせなくなった。
理由は分かっている。
完璧な刺客になりきれなかった彼女の優しさが、バイエルの心に影を投げかけていた。
シルキーに乱暴に当たってしまった事も、クロエに剣を向けた事も、後味の悪さが消えない。
男は損な立場に生まれついている。
この先、女性に剣を向けるのはできるだけ避けて生きていこう。
女性との衝突自体、避けるのが賢明なのかもしれない。
———ほら、今更気付いた。
クロエのそんな声が聞こえた気がした。
(そうだな、今更だ)
バイエルは風に金色の髪をなびかせて、その場を立ち去った。




