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ノスタルジア〜白猫に惑う律動、紅薔薇に捧ぐ輪舞曲〜(新版)  作者: 藤咲紫亜


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第50話 白薔薇の棺

 拝啓 ソリスト皇太子殿下


 私の息子、アデル・ド・ヴァンスは、私とも主人とも血の繋がりのない子供でございます。

 21年前に私が息子を死産で亡くした後、モロウ侯爵の紹介で、あの子を引き取ることになりました。


 小さな女の子が馬車から降りてきて、あの子を渡してくれました。

 モロウ侯爵からは、あの子はどこかの貴人の不義の子で、周囲に引き取り手が居ないのだと伝えられました。


 まっすぐで気立てが良く、確かに天性の気品を感じる子です。

 他人の子だと思って接したことは一度としてありません。

 私達にとって、あの子は疑いようもない我が子です。


 私達は、同じ人の親である殿下に、心からお願いを申し上げたいのです。

 この愚かな母親に免じて、アデル・ド・ヴァンスの助命を、どうか、どうか、お願いいたします。


 あの子が何故、フィーネ皇女殿下を連れ出したのか、私達も存じ上げません。

 主人も私も、領地の没収も、爵位の返上も、覚悟の上でございます。


 お望みでしたら、この枯れかけた命でも殿下に捧げましょう。

 ですがアデルの命だけは、何卒哀れと思ってお救いください。


 お手紙を差し上げた上に、図々しいお願いを申し上げました。

 殿下のご慈悲ある判断を、切に願っております。


 ヴァンス男爵夫人 ルナリア・ド・ヴァンス



   ☆☆☆



 息子の助命を嘆願する母の手紙は、筆跡が震えていた。

 バイエルはシルキーの容体が落ち着いた頃、アデルの棺をヴァンス男爵家に運んだ。


 その時の男爵と男爵夫人の悲痛な表情は、恐らく一生忘れられない。

「バイエル皇子殿下……!?」

 予期せぬ来訪に、ヴァンス家の初老の男爵と男爵夫人は慌てた様子で屋敷から出てきた。


 だが、バイエルの後ろに控えた兵士達が木製の棺をかついでいるのを見た瞬間、男爵夫妻は釘で地面に打たれたように動けなくなった。

 二人の前に静かに棺を下ろさせ、兵士達を門まで下がらせる。


「このような形になってしまい、残念に思います」

 バイエルは棺の横に膝をつき、ゆっくりと棺の蓋を開けた。

 二人が震えて息を呑むのが分かった。


 やがて夫人が、涙をその目に浮かべてバイエルに尋ねた。

「殿下、これは……どういう事ですか……?」

「アデルは死にました。……死んだということにしてやってください。彼が生まれ変わるために」


 棺の中には白薔薇の木が、棺の底に敷き詰められた土に抱かれるように収まっていた。

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