第4話 皇太子の婚礼
ソリストとカトレアの婚礼が迫る日、シルキーは窓辺に座って考えていた。
(やっぱり納得いかないのよね)
人目をひく整った容姿、快活で優しい性格。
その上、輝くばかりの知性と教養を備えたソリストは社交界で人気の貴公子だ。
(それに引き換え)
その弟のバイエルはソリストに比べると大人しく内気で、何を考えているか分からない所がある。
(素材としては悪くないと思うのだけど)
シルキーはバイエルの姿を思い出す。
金色の髪と宝石のような青い瞳、ソリストに似た恵まれた容姿だが、世慣れていない雰囲気があり、大勢の人に囲まれると、居心地が悪そうな、困ったような顔をする。
(正直、見ていてイライラする)
どうしてソリストのように、自分の意見を示さないのだろう。気持ちを伝えないのだろう。
(バイエルは、とにかく目立たない。影が薄すぎて存在を忘れられてしまう)
彼は勉学も武術も冴えないため、他の皇族や貴族達から大きな期待もされてなかった。
ソリストとバイエルの器は、比ぶべくもない……優秀な兄を愛する平凡な弟は、貴族達からそんな囁きが聞こえてきても気にする素振りも見せなかった。
(……腹が立つわ)
そんなバイエルと結婚することになった自分の身の上も、彼をそんな風に貶める貴族達も。煮え切らない態度のバイエルも。
モヤモヤすることが多すぎて、我慢している壁登りを再開したくてたまらない。
「全員並べて、一発ずつ殴ったらスッキリするのかしら」
白銀の髪を垂らして窓辺で悩む姿は儚げで美しいのに、発想が武闘家のように過激なシルキーだった。
☆☆☆
ソリストの婚礼の儀当日。
皇宮であるヴェン・フェルージュ宮殿の礼拝堂で執り行われたソリスト皇太子の結婚式は、国中の貴族や商人達がそろい、絢爛豪華な式となった。
主役の二人は、二つの太陽のように輝いていた。
眉目秀麗なソリストは、その暖かい眼差しでかたわらのカトレアを包むように見つめていたし、カトレアはそのソリストの視線を受けて、はにかむように瞳を伏せ、頬を染めて幸せそうに笑っていた。
ため息が出るほど美しい———シルキーの嫉妬心を猛烈にかきたてる超絶ハッピーな花嫁だった。
顔も家柄も、グリーシュの彼女に劣るとは思わない。
なのに何故、自分ではなく彼女が、彼の隣で花嫁衣装を着て笑っているのだ。
どうして自分は皇太子妃ではなく第二皇子妃になるのだ。
こんな理不尽が許されていいものか。
(いいえ……っ)
皇族関係者の席で、婚約者であるバイエル皇子が隣に居るのも忘れて、シルキーはギリギリと歯を鳴らした。
(許すものですかぁぁ……!!)
ああ、祝福の鐘が鳴る———
青空高らかにいつまでも鳴りひびくその音は、ソリストへの憧れを葬送する鐘の音に聞こえた。
きしむように胸が痛む。
シルキーは唇を引き結び、耐える表情で二人の誓いの口付けを見ていた。