第48話 告白
クーデター鎮圧後、シルキーは第二皇子邸で怪我の療養をしていた。
「どうしてあの時、私に口付けたの?」
シルキーは目と耳の機能をほとんど取り戻していた。
ある日の昼間、寝室で二人きりになった時に寝台からシルキーがそう尋ねると、傍らに座っていたバイエルは心なしか頬を染め、視線を逸らして言った。
「お前は十分強い」
「えっ?」
「俺がいなくても、強すぎるほどだった」
「褒めてくれてるの?」
「半分は」
「もう半分は?」
「恐怖している」
白の姫君に二度も噛みつかれた経験者は語る。
「正直な旦那様ね」
シルキーだって戦闘の時は必死だったのだが、戦場のシルキーにこまめに食事を届けてくれていた屋敷の面々は口を揃えて言うのだ。
「戦場を光のごとく駆ける奥様はまさに『ヴィオラの守護神』であらせられました」と。
シルキーの知らない場所で、数日間のうちに異名が激増してしまっていた。
「私が強かったから、口付けたの?」
(ちょっと意味が分からない)
バイエルはシルキーを見た後、寝台に置いた自分の手に目を遣り呟いた。
「……失くすかもしれないと、怖れる必要などないと思えた」
———『あの子は』
薔薇の温室で聞いたソリストの耳心地の良い声がシルキーの耳に蘇る。
———『あの子は他人の悪意が、自分の周囲に向けられるのを何より恐れている。何を前にしても執着するそぶりを見せないだろう?』
(……ああ、そうか)
シルキーは理解した。
バイエルは、自分が可愛がっていた白猫の生命を誰かの悪意で奪われた。
だから、自分にとって大事なものをずっと作らないようにしていた。
(大事な存在が守る必要もないくらい強ければ、彼はきっと臆病にはならない)
周りが驚くような大胆なこともやってのけてしまうのだ。
「バイエル。貴方のことが好きだと私は言ったわ」
(これ以上は、ひょっとして欲張りかしら)
「貴方は?」
シルキーにそう問われたバイエルは、彼にしては珍しく視線を彷徨わせた。
「言わないとダメか」
「言わなきゃずるい」
シルキーは譲らない。
「俺は……」
バイエルは諦めきった表情で、窓の外を、遥か遠くの景色を見るように眺めた。
遠い過去の風景を思い出すように。
「婚約する相手がお前だと告げられた時、嬉しかった」
シルキーは白銀の瞳をこれ以上ないほど見開く。
「最初に会った時から、白の姫君のことが——お前のことが好きだった」




