第38話 白き戦乙女、降臨
皇都ヴィオラのそこかしこで火や煙が立つ。
シルキーは、怒りのままに無我夢中で馬を操り、皇都ヴィオラを飛び回っていた。
夫のバイエルは、皇都を出る直前に軍にも帝国軍総帥補佐として指示を与えていた。
バイエルの兵の配置は、無駄が無い。
占拠されると面倒な場所。皇宮へ攻めていきやすい通り。
固めるべき所はしっかり固めてある。
皇都の門前で取りこぼされた敵兵達が皇都内部に侵入し、バイエルの配置した兵士達と大きな衝突が起きていたが、帝国軍側に死角は無い。
だが、その帝国軍の兵士たちの注意を逸らす為にか、兵が配置されていない所で無意味に暴れている者たちが居る。
先ほど自分を襲ってきたのも、そういう連中だ。
群れていて面倒ではあるが、一人ひとりの実力は大したものではない。
帝国軍の兵士のように、鍛錬され教育されてきた者達には見えなかった。
いかにシルキーが日頃からストレス発散のために武術に打ち込んでいるとは言え、帝国軍の、特に一個中隊を任されるような人間には苦戦を強いられる。
速さや柔軟性ではシルキーに圧倒的に分があるが、腕力や防御力、実践経験は相手のほうがずっと上で、手合わせで勝つのは難しいのだ。
皇都で暴れている者達の実力なら、シルキーでも十分対応できる。
夫の布陣を脅かす者を討つのは、妻の役目のような気がした。
「居た!」
街道の家々に火をつけて回っている貴族の私兵らしき男達。
シルキーは視界の端に捉えた男達の方に器用に馬首を巡らすと、躊躇うことなく突撃を開始した。
ところでシルキーは、皇都内の私兵達を片付けて回る内に何度も奇妙な呼び方をされた。
恐らく、男運が無いという意味だと解釈して間違いないと思うが……。
街道脇の家の中に、今まさに火薬の入った瓶を投げ込もうとしていた男がシルキーの接近に気付き、一瞬呆けた後に叫んだ。
「者ども構えろ! 『外れくじを引いたほうの』妃殿下だー!!」
「……普段貴方達がどんな風に私を呼んでるのか、よく分かったわ」
眉間に刻んだ数本の縦じわを隠そうともせず、うなるように低くシルキーは呟いた。
「『外れくじ』だ! 『外れくじ』のほうの妃殿下が来たぞぉぉ!」
「『外れくじ』妃殿下だって!?」
「外れくじ外れくじとうるさいのよ!!」
馬上から飛んだ扇子が、男達の顔や頭を次々と撃って地面に落ちた。
見事な手綱裁きで馬を止めると、シルキーはふわりと地面に降りたった。
風に踊る白い髪が光を受けて銀色に輝いた。
「覚えておきなさい。私の異名は『白の姫』。第二皇子バイエルの妃で……」
首元に咲く赤い花がきらめく。
「この世で最強の男運を持つ女」
この花を貰った時、覚悟を決めて信じることにしたのだ。
彼はこの地上で最高の夫だと。




