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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奈路坊(仮)和風ファンタジー

 餓鬼とは、ゴブリンに類似した魔獣。


 餓鬼塗れとは、餓鬼、働きアリ的な一般的な餓鬼はメスであり、餓鬼は世間のファンタジーでは女性を「はらみ袋」とするために襲うのに対し、餓鬼はメスなので、女王になろうと男性を襲い囲い込もうとする。


 しかし、餓鬼と人間では色々異なるので餓鬼の出すフェロモンは麻薬の様な働きを引き起こし、理性や思考を奪い餓鬼塗れという一種のモンスターを生み出してしまう。


 力のリミッターが外れ、痛みを感じなくなったモンスターはフェロモンの影響で異性を強烈に求め凶暴化する。

 人を襲うのはゴブリンも餓鬼も同じだが、その後に巻き起こる事象には開きがあった。


「餓鬼塗れが出たぞ!」


 誰かがそう叫ぶ声が町に響いた。


「なんてこった。うちの町に餓鬼塗れだなんて!」


 他人事の様にそんな囁きがそこかしこから漏れる。


 昼間でごった返していた町から徐々に人気が薄れた頃、のっそりのっそり歩くボロボロの身なりをした男たちの集団が現れた。


 ひとりの手にはドコで手に入れたのか女物の着物が握られている。


「女ぁ〜、女ぁ〜」


 うわ言のようにそう口にしながら歩く不気味な集団である。


「コノヤロー」


 誰かが石を投げると、集団のひとりが反応し、投げたと思しき人物を睨む。


「女寄越せぇ〜」


 相変わらず不気味な叫びだが、動きは俊敏で、石を投げた男は逃げられずに捕まる。


「助けて!助けてくれ〜!」


 さらに数人が男へと群がり噛みつき、踏みつけ、殴りつけている。


 しばらくすると助けを求める事も途切れてしまった。


「バカな奴だ。餓鬼塗れは人とは思えねぇ力を出すって言うのによ」


 誰かがそう、他人事の様に変わり果てた男を眺めながら呟いた。


 男をいたぶり気のすんだ集団は再びのっそりのっそり行動を開始し、何かを嗅ぎつけた様に固く戸を閉ざした店へと殺到した。


「女〜、女〜」


 激しく戸を叩き、中には傷付く事すら思い至らないのか体当たりする者まで現れた。


 ドカドカドンドン辺りに音が鳴り響くが、誰も助けに行かない。


 先ほどの男と同じ末路を辿るのは誰も望んではいないのだから。


 ドカン 


 一際大きな音が鳴り、戸が壊され、集団がワラワラと中へとなだれ込んで行った。


「ああ、可哀想に、馴染みの女郎も居たのによぉ」


 ため息混じりにそんな声が聞こえた。


「キャアー」


 集団が押し込んで少し、中から女の悲鳴が響き、難を逃れたのだろう数人が破れた着物もそのままに逃げ出してきた。


 しばらく悲鳴が聞こえていたが、それも止み、戸を中から弾き飛ばす様に素っ裸の男が血まみれで飛び出して来る。


「女ぁ〜!」


 そう叫んであたりを見回し、何かを見つけたのか勢いよく走り出す。


 そして、家の陰に隠れていたらしい女郎へと飛び掛かった。


「女ぁ〜!!」


 男は勢い余って女郎の喉を蹴り潰しているが、まるで構わず着物を剥ぎ、事に及び出した。


「居たぞ!」


 その時、揃いの襷掛けに槍を持った集団が現れ、家の陰で蠢く男を見つけ走り寄る。


 襷掛けの集団は無心に腰を振り続ける男を一斉に刺したが、刺された男は肩を叩かれでもしたかのように何事もなく振り返り、叫ぶ


「邪魔だぁ〜」


 刺さる槍すら構わず向き直り、槍を抜こうとしたひとりに殴り掛かり、鼻を折られたらしい襷掛けは血を流しながら倒れ伏した。


 襷掛け集団は再び男を囲むが、槍を手放した者と槍を持つ者に分かれ、上手く攻撃出来ずにもたつくうちに、男は女郎の骸を掴むと振り回して襷掛け集団を攻撃した。


「ぐわ」


 振り回した女郎に当たり、弾き飛ばされる襷掛け達。


 無傷な数人が対抗しようと機会を伺っていると、壊れた戸からさらに男が現れ、力なく項垂れた女郎を投げつけた。


「くそ、新手か!」


 襷掛けは新たに現れた男へと向き直るが、その後ろには先ほどの男。


「ギャアー!」


 それから少し後、襷掛け達は女郎を振り回す男に抗しきれず倒されてしまった。


「これはヤベーんじゃねぇか?町衆がやられた!」


 隠れて見ていた者たちがそう囁きあう声があちこちから漏れている。


「女ぁ〜、女ぁ〜」


 しばらくすると他の男たちも女郎屋から出てきた。


 ある者は下半身を曝け出し、ある者は血塗れになり、ある者は女郎の手足であろう血に塗れた白いナニカを手にしていた。


 集団は別の建物の戸を叩く。


 外にいた男はもはや見ていられない様な姿になった女郎の体を未だに振り回し戸に叩きつけている。


「女ぁ〜、女ぁ〜」


 二軒目に侵入した集団はそこでも暴れ、家人を皆殺しにしてさらなる獲物を求めて外へ出てきた。


 ひとりの男が口に咥えているのは子供の手足だろうか。


「居たぞ!餓鬼塗れだ!」


 その時、新たな声がした。


 華美な鎧武者や胴丸に額当ての男たち、中には女も混じっていそうだった。


「良かった、牢人が来てくれた」


 息を潜める者たちから安堵の声が漏れる。


 そこからは一方的な蹂躙劇だった。


 太刀を構えた鎧武者が一瞬で集団へと迫り、ひとりを真っ二つに斬り伏せ、胴丸の徒士が槍で集団のひとりの頭をかち割り、軽装の軽業師が小刀で集団のひとりの首を斬り落とし、僧形が長刀で集団のひとりの腹を斬り裂いた。


 気がつけば十人は居たであろう餓鬼塗れの集団はひとり残らず倒れ伏している。


「良かった。助かった」


 外の様子を確認し、次々と町人や旅人が建物から出てきていた。


「我ら牢人衆『赤鬼殺し』が餓鬼塗れを成敗した!」


 華美な鎧武者が出てきた皆へとそう見栄を切り、人々からは歓声が上がる。



 その日の夕方



 華美な鎧武者である偉丈夫と僧形の男が酒場に居た。


「ん?八兵衛か」


 そこへ、ひとりの男が現れた。胴丸に額当ての男である。


「延辺寺へ行ってきたぜ。十日前に二里ほど山に入った先にある村が餓鬼に襲われたそうだ。ありゃあその村人らしいな。お触れを出してこの辺りの牢人総出の山狩りしてるのをすり抜けたんだろう」


 ヤレヤレといった態度で説明する。


「山狩りは分かるが、多少は牢人を町に残せばこんな騒ぎにはならなかっただろうに」


 僧形が呆れた様にそうこぼしながら酒を飲む。


「それは流浪の俺たちがどうこう言う話ではないからな」


 八兵衛が肩をすくめながらそう返す。


「帰ったよ〜」


 そこへ女の声が掛かる。


「銀、お疲れ」


 八兵衛がそう言って銀の席を作る。


「ありがとう。いやあ、ほんっと凄惨だったわ」


 銀は座りながらそう脱力する。


「子供なんかほとんど骨だけだよ。頭は割られて腹は食い漁られて。何で同心しか居なかったんだろうね」


 嫌そうな顔でとても食事中にする話ではない様な事を言うが、3人には日常の一コマなのでため息ひとつで終わらせる。


「寺と言うより、代官や殿様の考えなんだろう」


 僧形がやるせなさそうにそうこぼし、酒を煽る。


「弓が使えたらもっと早く対処出来たのになぁ〜」


 銀がそう愚痴る。


「いくら森人とはいえ、弓が使いたければ定住しないとな」


 偉丈夫がそう銀を諭す。


 支配層は牢人が弓などの飛び道具を使う事を快く思っておらず、寺もその意向を汲んで、定住する牢人が魔獣を狩る場合に限り、使用を認めていた。


「やりにくいね」


 銀もヤレヤレと酒に手を付けるのだった。


  

新たな奈路坊の設定をプロローグ的に書いてみた作品。

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― 新着の感想 ―
最近のなろう作品だと冒険者ギルドが存在しないか、あっても存在感が薄い作品もあるんですよね。 冒険者ギルドの作品における存在意義は主人公の収入と話の導入を担保することですから、逆を言えばそれが別の存在で…
この作品は全体的にダークな作風ですので、賛否が分かれそうな気がします。 またなろうファンタジー作品では弓などの飛び道具の使用が制限されているなんて言う設定は見られません。 主人公らのパーティーが弓な…
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