最後のピース
最後のピース
最後の繋がりが断ち切られた人間は、どこへ向かうのか。 美咲は、過去へと向かった。自分と同じ運命を辿った、『ミカ』という少女の痕跡へと。
もはや、そこに論理的な思考はなかった。ただ、知りたいという、狂的なまでの渇望だけがあった。彼女が何に苦しみ、何に絶望し、そして、最後に何を見たのか。それを知ることが、自分の運命を知ることだと、本能的に理解していた。
彼女は、PCの前で、これまでに集めた情報を一つのファイルにまとめていく。 ミカのSNSの投稿、雑誌の読者投稿欄、行方不明を報じるニュース記事、そして、図書館で調べた五十年前の土砂災害の記録。 それらを並べて見つめているうちに、恐ろしい符合が、パズルのピースがはまるように、次々と見えてきた。
この土地は、五十年前の土砂災害によって、多くの「寂しい」魂を飲み込んだ。その怨念が、新たな「寂しい」人間を引き寄せる。
そして、ただ引き寄せるだけではない。 ミカの体験した怪奇現象は、音や匂い、ポルターガイストといった、どちらかといえば古典的なものだった。 しかし、自分が体験している現象は、キーボードのリアルタイムな模倣や、ブラウザの自動起動といった、より現代的で、知的な干渉を含んでいる。 この差は、なんだ?
(学習しているんだ…)
美咲の背筋を、冷たい汗が伝った。 この土地の怨念は、取り込んだ人間の「能力」を学習し、次の獲物を狩るための武器として利用するのだ。 サウンドデザイナーの卵だった鈴原ミカ。彼女の「音で恐怖をデザインする」という知識と才能を、この土地は吸収した。だから、自分が体験したノイズは、ミカが体験したものよりも、はるかに精神を苛む、悪質なものへと「進化」していたのだ。
全身の産毛が、一斉に逆立った。 だとしたら。 だとしたら、次は、私の番だ。 Webデザイナーである、私の「能力」が、この土地の、次なる武器になる。
その結論に達した瞬間だった。 ピタリ、と止んでいた部屋の空気が、再び蠢き始めた。 壁の向こうから、あの不快なノイズが、以前よりも何倍も大きな音量で鳴り響き始めた。