母のお弁当
ある日の夕食前、私はあることを母に頼んだ。
「お母さん、今週の土日の部活は、お弁当がいるから作ってほしいの」
「あら、急に言われてもねぇ」
母が困るのは、当たり前だろう。
ちなみに、今日は木曜日の夜である。
「なんで、もっと早く言わないの!」
「だって、言われたの今日だし……」
「うーん……もう、ある物で作るしかないわね」
「あっ、じゃぁバランスよく『魚・肉・野菜』が入ったのがいい!」
「えーっ!」
私のリクエストに、母は嫌だと言わんばかりの声を上げた。
そして、やってきた土曜日。
私が起きてくると、母はもうお弁当を準備していた。
「ほら、これ持っていきなさい」
「ありがとう、お母さん!」
それから、部活が終わり、お昼の時間になる。
私は自分のお弁当を、机の上に出した。
私のは二段重ねになっており、上がおかずで、下がご飯である。
開けてみると、私は目を見開いた。
おかずは、鮭の塩焼き・ほうれん草のおひたし・ハンバーグである。
「いや、『魚・肉・野菜』とは言ったけど……」
これは、極端ではないか?
私は苦笑して、上の段をどかした。
だが、下の段には、なにもなかった。
「あれ、ご飯が無い?」
まさかと思って、上の段の下を見ると……
「なんじゃこりゃ!」
なんと、お弁当の形のままご飯がひっついていたのである。
私は見なかったことにして、ゆっくり上の段を下ろす。
母は、私がご飯をよく食べるので、ぎっちりつめたのだろう。
まさか、それが原因になるとは。
まぁ、少しゆすればとれたので安心した。
次の日のお昼、私は恐る恐るお弁当を開けた。
そして、私は頭を抱えた。
本日のおかずは、ブリの照り焼き・きんぴらごぼう・ミートボール三つ。
母は、私のリクエストを、忠実に守っていたのだ。
「確かに言ったけどぉ……」
これは、無茶を言った私への嫌がらせか。
それとも、ただリクエストにそっているだけなのか。
「お母さんの考えがよめない……」
しかし、お弁当はおいしかったので、問題はない。
私は家に帰って、お弁当のことを聞いた。
すると、母はこう答えたのである。
「言ったでしょ、家にある物で作るって」
そして母は、鼻歌を歌いながら、キッチンへと戻っていった。
今度は、ちゃんと自分で作ろう……
私は、上機嫌の母を見ながら、そう思ったのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!