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ぼっち、正義を貫く  作者: 胡人
4/5

かげでいうから、かげぐちなのにね

 みんなのために学校を楽しくするんだ、やりがいがあるだろ?


 部活動をやっていないのは、その時間が無いからなのに「部活やってないんだから、生徒会役員でもどうだ?」そんな風に言われて「学校を楽しくするのはおもしろいかも」って思ってしまった。


 そんな僕は、今、さほどやる気の無い生徒会の先輩方に向けて、生徒会役員のキャラクター作りをプレゼンしている。


 先輩方、早く話をすすめてください・・。

 さっきからダラダラと、いや、のらりくらりと、堂々巡りの話し合いが続いている。


 おい、お前ら、もうちょっと生き急げよ。


 約束の時間まであと3分。校内、全速力で間に合うギリギリのところ、いや、無理か。


「いいよ、コウくんのアイデアで進めて。」


 そんなんでいいなら、もっと早く結論出せたでしょう。

 無駄にもったいぶるのは、それでしか権威付けができないから?

 そんな意地悪な上から目線なことも思ったけれど、まずは待ち合わせというか呼び出しというか、そこへ行くのが先だ。


 僕は生徒会室を飛び出した。

 階段を駆け下りて、廊下を爆走する。


 生徒会室と中庭をはさんで向かい側の棟にある第一特別教室は、同じ4階にありながら廊下でつながってはいない。3階の渡り廊下を走るときに、斜め上、4階の廊下の窓際にボチさんが見えた、と思ったら、きびすを返して離れた。


 ヤバい・・・。


 階段を駆け上がり、廊下の角をまがりながら、ボチさんの姿は見えていないけれど、とりあえず叫んでみる。


 「せんぱ~い、すみませ~ん、遅れました~。手紙、僕だってわかりましたぁ?」


 ボチさんは、廊下の真ん中に、正面を向いて、眉根にしわを寄せて、口をへの字にして立っていた。


 「呼び出しておいて・・・遅刻なんて・・・サイテーですよね・・・すみません。ほんっとにすみません・・・」


 「・・・用件は」


 当たり前だけど、あきらかに不機嫌だ。交渉する前から、ダメが見える。ここは、ストレートにさくっと攻めて、すぐに引くか・・・。


 「生徒会のキャラクターデザインをお願いしたいんです。生徒会長からはOKもらってます。先輩の画力でぜひ、僕たち生徒会メンバーの似顔絵っていうか、キャラクターを書いてもらえないかと・・・。」


 廊下が薄暗くて、表情はよく見えないけど、困惑した沈黙、だと思う。


 「あ、生徒会のメンバーの似顔絵でキャラは動物で。スケッチブック、ちょっと見えちゃったんですが、こんな雰囲気でお願いしたいな・・と・・・。」


 すぐに断らないってことは、いけるってことか?


 「ぜひ、ボチさんの力を貸してください。」

 

 そのとき、隣の教室から、突然、人が飛び出してきた。



**********



 「ちょっと、その言い方。カマチさんに失礼だよ。」


 ボチさんの後ろのくらがりから、突然、ユイちゃんの声がした。


 「ひっ!」


 同じ学校にいるから、バッタリ会うことがあっても不思議では無いのだけれど、このタイミングで突然ユイちゃんが現れたことには、脳が止まるほど驚いた。

 

 しかも、ユイちゃんは、何かに怒っている。


 「私たちがカマチさんのことを、ぼっちって呼んでるのは、もちろん、ダメなことだってわかってる。わかってるよ。でもね、本人に直接言うのは、もっとダメ!絶対ダメだと思う。」


 ユイちゃんは、確かに怒っている。義憤に燃えているというべきか。

 

 その怒りに呆然としながら、僕は、ボチさんがカマチさんという名前だと、ここで知った。

 

 そして、ボチさん改めカマチさんが、「ぼっち」と呼ばれていることも、おそらく呼ばれるからには、そうであろうということも。


 脳が止まっていたからかもしれないけれど、僕は、言わなくてもいいことを、言ってしまった。


 「え、あれって、ぼちって読むんじゃないの?」


 この瞬間の僕の発言によって、ユイちゃんは自分の過ちに気づいたに違いない。

 

 ユイちゃんの顔は、薄暗くてよく見えないけど、きっと、自分たちがカマチさんのことを「ぼっち」呼ばわりしていることを、本人に向かって堂々とバラした罪に、おののいているはずだ。


 気まずい・・・。


 「ぼっちは本当のことだから、気にしてない。」


 ぼそりと、ボチさん、もとい、カマチさんがつぶやいた。


 「タナカさんには、体育のとき、いつも世話になってるし。」


 そう言いつつも、カマチさんは、ユイちゃんに背中を向けたままだ。

 

 こんなときに、なんて言ったら、スマートかな。僕のヨーロッパ紳士体験でも、ここは乗り切れそうな気がしない。


 日本の空気は、読むのが難しいんだよ・・・。だから

 こんなときは、東京湾から上がってきたゴジラの気持ちになるべきだ、と決めた。


 「いやぁ、姉ちゃん、いい所に。姉ちゃんからもお願いしてよ。今、生徒会のPRに使うキャラ、カマチさんに描いてもらいたくって、頼んでたんだ。」 


 これ以上ないくらい、明るく脳天気に朗らかな僕。今起きたコトなんて、何も気づかなかったってふりをする。

 

 ユイちゃんは、慌てふためいていたけれど、おろおろとしゃべった。きっと、何か言わなくちゃって思ったんだろう。


「ごめん・・・カマチさん。・・・ごめん、本当にごめん。ぼっちって呼んでるの、ごめん。」


 いや、それかぁぁぁあ。今、それじゃないだろぉぉぉぉ。


 ユイちゃんは、真面目で固くて、頑固で誠実だ。

 

 9年前、僕らが初めて会ったときも、僕が「ユイちゃん」って言うたび、「お姉ちゃん、です」って、訂正し続けたっけ。


 「ぼっち、ぼっち言われても。」カマチさんの言い分はもっともだ。

 

 ユイちゃんの義憤にまみれた暴走をスルーして、僕はカマチさんへのアプローチを続けた。


 「すぐに返事もらえなくていいです。僕、次に生徒会に顔出すの来週になるから、その時、いっしょに生徒会室に行って、生徒会の人に会ってもらえませんか?」


 絶対、断るよね。


 「何曜日?」

 

 え、来てくれるの・・・?


 「火曜なんですけど。」


 「・・・田中さんに、返事するので、いいかな。」


 「あ、あ、よろしくお願いします。・・・姉ちゃんも、いいよね。」


 黙ってそこに立っていたユイちゃんの表情は見えなかったけれど、「いいよ」という声は、暗かった。


 「スケッチブック、返して」


 カマチさんが言って、僕はあわてて手渡す。


 意外なくらい優しく取って、カマチさんはそのまま僕の横を通り過ぎて階段に向かう。

 ぼすっ、ぼすっ、と体のわりに大きく響く足音を残しながら。


 後には、僕とユイちゃんが残った。



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