2-14 ピースは足りたか?
【前回までの『女神さま』(仮題)のあらすじ】
名もなき胡乱な女神。その地位を確保するために2年以内に担当世界で伝説を打ち立てないといけなかった。
女神はラム・ウヰという俗名を名乗り自らパーティを組んで冒険をしようということになった。
そのメンバー。
伝説打ち立てを一旦丸投げされかけた青年エテア・サキユ。
白魔法使いリヌル・ヲワカ。
戦士ノーク・ヤマケ。
彼らは冒険に出る前の打ち合わせを続けていた。
主人公はノークと決まり、リヌルのキャラ設定もおおむね完了した。これであとはアドリブでやっていけるのかどうかという議論である。
「風邪がまだ治ってない」
「前回、『来週までに風邪が治ってるとは思う』って書いてますよね。あとあと症状悪化しましたね」
「そう。布団入ってから悪寒するし足はつるしで大変だった」
「寒いから暖房入れてくれって言われてエアコンのリモコン探すのに20分くらいかかりました」
「いや、リモコンっていらないときに目に付くのに必要なときになんでないんかなと」
「翌朝、起きたら声が変わってましたね」
「うん。喉が痛くて水を飲むのもつらくて。
ちゃんとかかりつけの医院に行って、鼻に棒つっこまれて陰性だって言われて、結果もらった薬で色々楽になった」
体温は37.5度までいったけれども医院に行った翌日から平熱に下がったけどまだ喉には違和感がある。
「ってこういう話はしとくべきですか?」
「うん。ほら、まだ風邪は治り切ってないし、また本編内容が俺のわからないところに転がっていったときの言い訳のためにまだ風邪で病んでますよアピールはしておいたほうがいいかなと」
「気にしなくていい思いますよ」
幸いコロニスに風邪はうつさずに済んだようだ。
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「今からの議題は、冒険を開始するまでに必要な設定は全部あるのか、というのでよろしいか?」
「あるでしょ」
ラムが当然ように言う。
「世界設定は?」
エテアがラムに問う。
「ナーロッパ。はい解決」
「いや、ナーロッパでも細かいところで色々違うでしょう。ステータスが数字で出るか出ないかとか、レベルが数値で出るとか、魔法がどれくらいの人が使えるかとか」
「えーめんどくさーい」
ラムが下あごを突き出してめんどくささをアピールする表情を見せる。
「確かにある程度はアドリブでもいけると思う」
「ノーク味方ぁ!」
喜ぶラム。
「怖いのはぁ、アドリブでフォローできないところが足りないのにぃ気づいたときには手遅れってぇときですよねぇ」
リヌルの言葉にラムが真顔になる。
「そうなったら二階級降格だすなぁ」
エテアがあえて小声でラムに言う。
「じゃあ、どうしろというんですか。何が足りないかみんなわかるんですか?」
「こうしたらどうだろうか」ノークが提案する。「冒険に出た体で、ここで仮の話を展開させてみてはどうかと」
「ロールプレイしますのか? 名案かもしれまへんな」
エテアが関心した声をあげる。
「じゃあサイコロ配ります」
ラムが言うと、全員の前に六面サイコロと十面サイコロがふたつずつ現れた。
「それぞれのキャラシートもつくるのでそれぞれ個別モニタースクリーン設置します」
ちなみにこれはエテアが動画を観るためのチートに似ているが用法は違う。
「ほんまにテーブルトークなロールプレイのゲームする気だすかいな」
「設定ちゃんとしないといけないんでしょ」
「ゲームマスターはどないします?」
「あ」
「このサイコロで何かゲームするのか」
ノークがきいてくる。
「そうなんだすが、ゲームの進行係をこのパーティメンバーの中の者がやるわけにはいきまへん」
「なぜだ? 女神が集めた確実に魔王を打倒できる最強パーティじゃないのか?」
ノークは女神のちからは信じている。
「勝てるゲームはいいんですけどぉ。伝説に残るプレイにしないとぉ女神の地位は危ういんでしたよねぇ」
「ラムはずっと女神の女神なのです」
「久しぶりに言うたね」
「じゃあ、魔王の人にもういっぺん来てもろてゲームマスターというか進行やってもらいますか?」
「いましたね。適役」
「適役というか敵役だな」
ノークがツッコむ。
「なるほどぉ。それだったらぁら魔王側が攻撃してくることにぃ我々パーティが対抗していく図式ですもんねぇ」
「では召喚します」
ラムが言うと魔王ウジェシカがフェードインしてきた。この場合のフェードインとは何もない空間にぼやっと透けた姿が現れてやがて実体になっていく感じである。
「やって来ました」
魔王はいつものいい低音である。
「そういえばぁ魔王さんのほうのぉキャラ設定はぁ会議しなくていいんですかぁ?」
リヌルが無意味に笑顔で言う。
「それは結構です。私はデフォルトでいかせていただきます」
魔王が答える。
「一人称がぁ私とかぶってますぅ」
「あぁ。わかった余。余は余にする余」
魔王は少し動揺してひらがなでいいところも『余』にしていた。デフォルトでそんなキャラなのか。
「最初はうちが念でパーティメンバーに集まるように呼びかけるシーンからいきましょう」
ラムがテレパシーを飛ばす。
『私は女神の女神です。今あなたの脳みそに直接話しかけています。えーと今まだ本題に入ってなくて、あなたがたは魔王を倒すためのパーティを組んで、集まって四人で全員の……』
「しゃべれ」
エテアがツッコんだ。
ラムは言葉を組み立てる作業とテレパシーを送る作業を同時にこなすことができない。
「集まるところのぉ話からぁするんですかぁ?」
「そのつもりですけど」
「そのへんはぁ、省略してもぉ問題ないんじゃないですかぁ?」
「まあ、ロールプレイする段階だから集まった後からでいいかな。本番になったら……。あれ? 本番? ここでもうみんな見知った状態なのに?」
ノークが混乱する。
「ここで話し合った記憶は抹消するのです。みんなは新鮮な気持ちで本番に望めます。うちは全部知った状態でやります」
「考えてみたらそこまで女神が介入して反則やないんかな? 今さらやけども」
エテアが言う。
「大丈夫です。本当に反則だとなったら上からストップがかかるのです。今のところセーフです」
「女神がぁひとりで釘バットでぇ魔王にカチコミ入れてぇ倒したらぁそれはそれで伝説として成立するんじゃぁないですかぁ?」
「いやそれは反則です。反則……じゃない?」ラムが斜め上を見ながら意外な顔をする。「うちひとりでもいいそうです」
「ほな解散ですか?」
エテアがぽつりと言う。
「元々はエテアにひとりで行ってもらうつもりでしたのに」
「まあ、あてもこれで解散されるとこの後消滅するんか別の世界へ飛ばされるんかもわからへんのでラムと冒険に出てもええと思てるけども」
「まあ、せっかく四人パーティという設定つくったんだから、四人で突貫したら話が早いじゃないか」
ノークが言う。
「四人だといきなりカチコミはアウトだそうです。女神が単体で釘バットで殴り込みすると伝説として了承されるそうです」
ラムがうなだれる。
「そうなんですねぇ。たしかにぃパーティでいきなり魔王倒しに行くのは平凡ないきなりですよねぇ。もうちょっとぉ、ふざけた要素がぁ大事なんですねぇ」
リヌルが彼女なりの分析をした。
「じゃあ、四人揃って目新しい方法でいきなり魔王宅を襲撃すればいいのか」
「大喜利にしますか?」魔王が手を止める。彼は黙ってロールプレイのためのシナリオを書いていたのだ。「『あなたたちは魔王を倒すパーティです。面白く魔王城に突入してください』」
大喜利会に突入することになった。
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「なんでやねん」
コロニスはつぶやいた。




