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オールウェイ・フォン・サウザンド 夜の部 黄金のレオン ヴァサゴの姿揚げと地龍の炙り寿司

 -王都の有力貴族 オールウェイ・フォン・サウザンドー 

 

 何故自分が貴族としての身分を隠してまで、隣町のウェールズにまでこなければいけないのか? 

 

 ラウンズの筆頭騎士、アーサー、公爵家である彼が治めている街。 

 

 公爵家でありながら、冒険者集団なるものを立ち上げ、アーサーに憧れた貴族冒険者の多くがラウンズに所属している。 

 

 今の彼を取り巻く環境は、すこぶる順調で、今までは領地の事はもちろん、団員達の好き勝手な行動に頭を悩ませていたはずなのに。 

 

 いつの間にか領地であるウェールズは、盤石なる土地になり税収も多く順風満帆、アーサーのカリスマ度はあがり、ガウェイン、ランスロットを伴って団員達を従え、グラナダファミリアとの提携、そしてリナリア・フォン・グラナダ嬢と手を組んで、ダンジョンの攻略はもちろん、人類侵入区域の平定など土地を切り開き、その功績は多くそして高い評価を得ている。 

 

 そんなアーサーが死んでも、自らを盾にしてでも大事にしている人物がウェールズにいて、料理屋を営んでいると言う。 

 

 その名も八百万。 

 

 ガウェインが規律を破ってでも守ろうとした店であり、リナリア嬢が無条件でグラナダファミリアの支部を置く事を決定したと言われる店。 

 

 まぁ所詮は噂話どこまでが本当で、何処までが嘘かわかったもんじゃない。 

 

 つまりは料理に感動したって事だろう? 

 

 それならば王都の料理人の方が、レベルは高いはずだ!。 

 

 一流のシェフも多く、元ロイヤルシェフも店を開いているくらいだぞ。 

 

 それを、王都とダンジョンに近いくらいしか取り柄のないウェールズなんぞの料理人が、態々そとましてや他国から客を呼ぶほど評判だと?にわかには信じられないな。 

 

 王都の多くの貴族、そして富豪達が、ウェールズが王都より栄えていると言う現実を見ない様にしている。 

 

 ましてや、他国からのお客様が王都よりウェールズの宿泊施設に泊まりたい、八百万で食事をとりたいなどと!王都だぞ!国の顔なんだぞ!その国の全てが集まるのが王都!素晴らしい物が集まるのが王都なのだ!。 

 

 八百万の店までの列を眺める。 

 

 なんだこの長蛇の列は!?何か特別な物でも売られているのか!それともよっぽど高価で滅多に食べれない商品でも格安でうられているのか? 

 

 聞けば昼食時になると、毎回列が出来ると聞いた。 

 

 しかも並んだ末、最悪の最悪な時は品切れで食えないなんて事も。 

 

 それでも人々は八百万の食事を望むのだと。 

 

 自分で並んでいて頭が痛くなってくる、私は一体何をしているんだ? 

 

 店が開くと、客の進みは中々早く、テンポよく進んでいった。 

 

 私の番だ、店内にはいると空いてる席に進み、澄んだ綺麗な水が出される。 

 

 長時間ならんでいた体に、気持ちよく入ってくる水・・・美味いな、こんなに美味い水ってのも中々他の店では見ないな、温くうまくない店が多いから水なんかには手をださないのだが。 

 

 「今日は七色鳥のチキン南蛮ですよ!ご飯とお味噌汁はお替り自由なんで遠慮なくいってください!」 

 

 七色鳥だと!?超高級食材じゃないか!確かに七色鳥は美味い、だが料理人殺しとも言われている難しい食材だぞ、何せどう調理しても美味いのだ。 

 

 はっきり言って素人がただ焼いて味付けしただけでも極上に美味いのだ。 

 

 そんな食材に料理人としての個性をだせと調理で言われても、とても困難な事だ。 

 

 現に多くの料理人が店で七色鳥を扱う事を避けている、望まれない食材でもあるのだ。 

 

 それを・・・・なんだこれは白いソース?の下に揚げたのか?どれ肉だけをまずは・・・・。 

 

 美味い!?なんだこれは!?酸味と塩味の程よいソース!パリパリの衣に七色鳥の豪快な肉の旨味が出て来る様は圧巻だ!。 

 

 ぐぬ!美味い!今度は白いソースと一緒に・・・・・むほっ!むほほほほ!なんだこのタレは!濃厚でクリーミーなタレ!肉のタレと喧嘩せず交じり合い、また複雑な味を出す!そしてそこに肉の旨味がまた混じり、何重にも旨味と風味を変え舌を喜ばせる!! 

 

 ここで、パンが食いたいのだが、パンがない?代わりに米なる物がある。 

 

 米を食うと、もちもちとして少し硬く、噛めば噛むほど甘味がでる。 

 

 なるほど!これに肉を合わせるのか! 

 

 肉を食い!米を食い!そして味噌汁を飲む!小鉢の揚げ出し豆腐は出汁の味が聞いていて美味い!芋の煮物も味が良く、漬物でまた口の中はさっぱりする。 

 

 ええい!何個小鉢がついているのだ!卵!美味い!ふわふわのむっちり!生野菜のサラダ、食べやすい様に細切りにしてある。 

 

 気を取り直して、またチキン南蛮を口にする。 

 

 おほほほほほ!美味い!鳥の旨味、タレの旨味、ソースの旨味、まず揚げた肉タレをかけるのはわかる!そこからさらにソースをかけようかと普通おもうか!?喧嘩するどころかしっかりまとまっている!むほ!頬張らずにはいられない!むほほほほほ!そんでもって米!なんでだ?なんでこの組み合わせはこんなに美味いんだ!ゆっくりと喉奥に消えていく快感、そして最後に息を吐く、はぁああああああん!溜息が出るほど美味い! 

 

 それでもって味噌汁、これもまた美味い!単調な味かと思わせて海の風味がする。 

 

 この味噌自体が複雑で美味いのだなと感心する。 

 

 なるほどなるほどなるほど!これは流行る!否、確かに他の国から街から人がくるには十分なりうるかもしれない。 

 

 いままであった私の食事感、概念などがどれだけ幼稚でこの料理に比べてどれだけの調理の腕が足りてないのかがはっきりとわかった。 

 

 新たな道、進歩した先の道などは体験した者にしかわからない。 

 

 ウェールズの人間にとっては日常になりつつある八百万の食事、私達にとっては新たな食の扉であり、あたりまえと言うには、何歩も先を歩きすぎている、まさに食の未来を感じる料理。 

 

 ただ焼いて食べるだけだった肉を、熟成や漬け込みなどの技法で進化させる食材、そんな調理の仕方など今の料理人は知らないのだから、彼にとっての当たり前は、私達にとっての遥か先、未来の話なのだから。 

 

 これはまいった。 

 

 どうにかして王都に彼を招きたい、そう思う貴族は私だけじゃないだろう。 

 

 どうにか王都まで来てくれないかなぁ。 

 

  -八百万 夜の部ー 

 

 夜の部はホルモンを中心とした、一般受けのしないマニアックな食材達を率先的にメニューとして出して消費していく方針である。 

 

 流石に内臓を食べると言う文化がなかった、この異世界で美味く調理して見せてもやはり食べなかった先入観みたいなものが邪魔をして、美味い具合に流行したりはなく、今の所安心してというか、食べられるのは八百万だけだった。 

 

 昼の部常連の客でも、夜の部にはちょっといくのが怖いなぁといった印象が広まっている。 

 

 そんな夜の部にすっかりはまってしまった冒険者達の夜の食事風景である。 

 

 「おう!今日も一番のりだぜ!」 

 

 「レオンさんいらっしゃい」 

 

 「昼もこんくらい空いてたら楽なんだけどなぁ」 

 

 「まぁ夜も昼ほど混んだら、流石に大変だからこの位が丁度いいよ。そうだ!地龍の内臓仕上がってるよ!地龍のレバ刺しなんて最高に美味しかったよ!お勧め!」 

 

 「へぇ、レバ刺しってやっぱ生か?」 

 

 「そうなんだ、でも他所の店では絶対食べちゃ駄目だよ。新鮮でも当たる事あるから、俺の加護で病気の元を取り除いてるから安全に食べれるって覚えといて、でもマジで美味いよ!火の入ったレバーは俺苦手なんだけど、生だと全然美味しく食えちゃうもん。しかも地龍のレバーはフォアグラと違ってまた美味かったよ!これはやると思うんだけどなぁ」 

 

 「レバー苦手な斗真が、そんなに美味いって言うなら間違いないな!地龍のレバ刺し頼むわ!」 

 

 「あいよ!お酒は何にする?レバ刺しなら日本酒かな?秋津っていいお酒はいってるよ」 

 

 「おう!いいねぇ、それ頼むわ!」 

 

 「あいよ!お待ちどう!」 

 

 「どれ・・・・」 

 

 見た目の赤い色が血に見えてちょっと驚くが、見様によっては綺麗な見た目だ。 

 

 タレか?油か?ちょいちょいとつけて食うと、うぉ!なんだこりゃ!肉?内臓だとくにくにした歯ざわりが多いのに、こいつはサックリと歯が小気味よく入る、血生臭い所か濃厚なのにどこかさっぱりと舌に軽く触って消えていく、焼いた時に舌に張り付く感じとは全然中身が違っている!こりゃいくらでも食えるな!。 

 

 そこに酒!おおっ!こいつはいつものとはまた違う風味だ、日本酒はものによっては果物や花の様な香りのいい風味が生臭さとかを消してくれるんだが、中にはその花や果物の風味が苦手な奴もいる、こいつは重厚感と良い香りが口の鼻を抜けるが、さっぱりとしつつも重さが一瞬で消えるかの如く爽やかに去っていく、ついつい飲みすぎちまう酒の部類だ。 

 

 「は~い、いつもの御待ち、地龍の炙り寿司と刺身盛りだよ」 

 

 「うぉ!きたきた!俺の好物ちゃん達!」 

 

 炙り寿司のいい香りが店に充満する。 

 

 こいつがまた美味いんだよ!火が入った肉の部分と生の甘く爽やかな部分どっちも味わえるのが最高なんだ!しかも炙ってる所もじゅわじゅわ脂がでて、それが八百万特製の酢飯と一緒に食うともう!笑いがとまんなくなっちまう!わははははははは!たまに遠征で街から離れたりするけど、俺の故郷はもう完全にこの街ウェールズが故郷になっちまった。 

 

 なにせ八百万に胃袋掴まれちまってる。 

 

 刺身は脂身の白い刺し身と赤身を一緒にワサビ醬油で食う!! 

 

 咀嚼するとサクサクと歯が入り、次第に口の温度でトロトロにとろけて来る!それでいて脂の嫌な部分が地龍の脂からは一切しない、胃もたれしないのだ!腹いっぱいの時って高級な肉の脂でも、うって胃が拒否する時があるが、こいつにはそれがねぇ!満腹でもう食えない!!けど最後に刺身をひょいと一口なんて、ついつい食っちまうぐらい美味いんだ! 

 

 「大将、魚なんか美味いの入ってる?出来れば火の入ってる奴が食いたいな」 

 

 「あるよ、グラナダ領からヴァサゴが大漁入荷したんだ。ヴァサゴの丸揚げなんて美味しいよ」 

 

 「ヴァサゴってあのちょっと大きい小魚みたいな感じの奴か、んじゃそれと酒もおまかせで!」 

 

 「あいよ!ヴァサゴの姿揚げ、味変に甘酢タレをつけとくよ。お酒は山崎25年とかどう?ロックにする?ハイボール?お湯割り?水割り?」 

 

 「ロックで!」 

 

 「あいさー」 

 

 ヴァサゴの姿揚げ、スパイスを塗って揚げたのか?頭から齧ってみると、これがいける!ちょっと苦味もあるが、またそれがいい!スパイスと身の部分はほくほくしているのに、骨はサックサクのパリパリだ!うぉ!ヒレの部分がまたサクサクでうめぇ! 

 

 山崎25年、正直酒の事は深くはわかんねぇ、それでもこれが上等な酒だって事はぼんくらの俺でもわかる。 

 

 まるで宝石をとろとろの水に溶かしたかのような深みのある色に、飲めば思わず美味いといいつつ脳裏に浮かんでくる様々な、風味、その風味達を俺は深く表現できないが、樽の木の様な匂いなんかも感じつつ、豊かで嫌味なく、それでいて自分と言う酒を表現しているのがくっきりと脳に浮かぶ。 

 

 普通の店ならおまかせでっていったら、適当にエールかちょっと濃酒でも出すもんだが、ここはおまかせで、素直に美味い酒をもってきやがる。 

 

 相手が酒飲んでるから、味なんてわかんねぇだろって適当なもんを出すなんて事、通ってて一度もなかった。 

 

 しってるか?ここの店の奴等、地龍を狩ってきてやったってだけで、当分の飲み食い代はタダでいいなんていいやがるんだ。 

 

 こんなに美味い酒、安いわけねぇじゃねぇか!貴族が大金払って飲むような高級酒を、俺なんかのもてないしの為に惜しみなく出しやがる! 

 

 ヴァサゴだって地龍だって、手間かけて調理してあるじゃねぇか、そんでもって極上の酒!俺は地龍を差し入れしただけで、こんな好待遇受けてもいい男なのか? 

 

 「ううん、酔っ払ってきたな。斗真~今日こそ料金払ってくぜ」 

 

 「何言ってんの、当分お代はタダって毎回いってるでしょ。地龍のお肉も内臓もまだまだあまってるし、レオンさんのお陰で儲けてるんだから、飲み代くらいタダにしないとね」 

 

 「でもよぅ、本当にいいのか?」 

 

 「もちろんだよ。明日も頑張って毎日食いにきてよ!まってるから!」 

 

 嫁さんじゃねぇけど、こんな事言ってくれる友達がいるって、いい事だよなぁ。 

 

 決して安い酒じゃない、もしかしたら地龍なんかより高いかもしれないのに、そんでも斗真は俺をもてなしてくれる。 

 

 ああっいい店だなぁ八百万。 

 

 また明日も頑張るかぁ!

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