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黄金亭のレストランシェフ 侯爵家 システィーナ・フォン・ファウスト 七色鳥の北京ダック

 -王都貴族街黄金亭のレストランシェフー 

 

 王都からそう離れていない街、ラウンズのアーサー公爵が治める街、ウェールズ。 

 

 最近何かと話題にあがる、ウェールズで経営されている宿の評判や、そこで出される料理の味が最高だと。

 

 まぁ確かに田舎とは言えんだろうな、それでも王都以上に美味い料理が出てくる街だとは思えない、王都にはそれなりにレストランがある、この国を訪れるなら行くべきレストランにのったりと自分の店はそれなりに有名だと言う自負がある。 

 

 他にも元王宮のロイヤルシェフの開くレストランもあれば、美食家で有名な公爵様の家で10年勤めあげたシェフが開くレストラン、様々な有名シェフの元で修行して独立した若者の率いる店など、腕に自信がある者こそ王都で店を開こうとするし、王都で有名店になろうと試行錯誤する。 

 

 ところが最近噂に上がってくる店は、隣街のウェールズにある八百万亭の話ばかり。 

 

 あの堅物のアーサー様がご機嫌で国王様夫妻に自慢したと言う。 

 

 ガウェイン卿もグラナダ嬢もウェールズに拠点を構えたいと散々酒場で語っている、グラナダ嬢にいたっては実際に拠点をウェールズに動かす為に、色々動いていると聞く。 

 

 高級宿の方は、王家直属の従者部隊序列3位のクラウスに任せているらしい。 

 

 王家直属の従者部隊が動くレベルのレストランや宿がウェールズに出来た。 

 

 従者部隊の事を知っている人間にとってそれはまさに異常事態で、序列1~5位の猛者達は戦闘力に限っては、まさに災害級の実力をもつ、災害の力を持つ個人、ランクSSSを纏めて相手取り無傷で鎮圧する力をもつ、イカれた実力の持ち主たち、邪神討伐戦で神の力の大部分を押さえつけ、討伐にもっとも尽力し、動きを封じた者達。 

 

 この国の虎の子、秘宝の一つでもある従者部隊から一桁代のナンバーズを使いに出すと言う事は、それだけでも異常事態だと思っていいだろう。 

 

 そんな金にも権力にも靡かないような者たちが、ウェールズの八百万亭を褒め賞賛する。 

 

 はっきり言って異常事態だ!特に八百万で食事をした事があると言う冒険者のあの態度が気に入らない!何が美味いけど、なんか違うだ!ふざけるな!何が違うだって?そりゃうちの店とは違うだろうさ、店が違う以上味だって違って当然だろう。 

 

 面倒だ!面倒な上に!この列の並びように腹が立つ!なんでこんなに並んでるんだ!飯屋なんて他にも沢山あるだろうに!しかもこの店ときたら、貴族だろうが、王族だろうが並んでもらうときた、特別扱いするのは宿泊客のみと自身がお世話になっているVIPのみだという。 

 

 長い列を待ち、自分の番がくる。 

 

 「いらっしゃいませ~、今日は七色鳥のからあげ定食、小金貨1枚になります!」 

 

 なるほど、出すメニューは決まっていて、その料金を先に払うのか、悪くない考えだ。 

 

 問題は素材よ!七色鳥だと!最高級品じゃないか!それを小金貨1枚?本当に七色鳥なのか?偽物じゃないだろうな?まぁ確かに高級品を安く売れば、集客は見込めるかもしれない、だが儲けはどうする?高級品を安値でずっと手放していたら、赤字が続いて経営所じゃないだろう。 

 

 高級宿でその分金をとっているのか?いやいやそれでも効率は悪いだろ、悪手だ。 

 

 もってこられた料理は、鶏肉を揚げたのか!? 

 

 じゅうじゅうと美味そうな音を立てている、キャベツの千切り、レタス、キュウリにトマトのサラダ、その上に大きなからあげがどんどんどん!と乗っている。 

 

 タレは・・・と聞くと、ウスターソース、タルタル、チリソース、レモンに塩などお好きにとの事。 

 

 噂に聞く、米と茶色のスープ、煮物に佃煮、漬物。 

 

 まずはそのまま肉を齧る。 

 

 うん?サクサクとしてもっちりとした肉質、パリパリとサクサクの衣から顔出すもっちりとした肉はまさに七色鳥の旨味!複雑な味の絡み合いから想像のつかない美味さが川の様に流れる様に喉奥に入っていく!美味い!なんだこれは!? 

 

 なるほど!この味に米!妙に合っている!米もまたもちもちねっちりとして甘味もあり美味い!度量が広く、なんにでも合うパンの様に、米もまたこのからあげと組み合わせると、なんと言う幸福感に包まれる、煮物の芋もねっとりとして味が染み、これも米に合うように作られている。 

 

 佃煮、またこれが箸休めにもなっていい、塩漬けの爽やかさもいい、なんてバランス良く、そして印象的な組み合わせなんだ!確かに私達にはない流儀の料理!それでいてバランス良く食べさせようと言う意図が見える。 

 

 サラダも塩と油のドレッシングだけではなく、マヨネーズなる物をかけると、これまた野菜が美味い! 

 

 次はウスターソースで・・・・酸味がありながらもなんて複雑な旨味!肉の旨味と調和されている!七色鳥の機嫌を損ねると、味付けをしても七色鳥の独自の味と喧嘩したり、追加した旨味が感じられなかったり、旨味も強いが独特の癖も強い素材だ、自分の想像通りに仕上がる事が難しく、想像した、想定した味じゃないものに仕上がるなんて事が多く、扱いが難しい。 

 

 それがこんなにも食欲のそそる美味い肉に仕上がり、尚且つソースとワルツでも踊るかの様に絡み合いながら肉の旨味も存分に発揮している!味に味を重ねているのに無駄にならないこの料理はなんだ!素晴らしい!。 

 

 チリソース!これも美味い!そして辛い!食欲のそそる辛さだ!米にも合う!美味い!。 

 

 タルタル!なんと言う手間がかかっているんだ!そして豪華なタレは肉と喧嘩するどころか、まるでゴージャスにブランドの服を着飾るが如く! 

 

 私達は素材の味を生かしながら、どうにか邪魔にならないように、消極的な味のつけかたっだったりする、ステーキなんかは完全に塩だけで仕上げるのが一番だと思うくらいだ。 

 

 だがこの料理は違う、攻めの味つけ、それでいて素材との融合、調和、一体感が見られる。 

 

 私達は素材を敬いすぎたのか?邪魔しない様に、そのままで輝けるようにとそればかり気にかけ、ところがこれは、これこそが調理と料理と言うものじゃないのか? 

 

 「お嬢さん、すまないね」 

 

 「どういたしました?」 

 

 「私は王都で黄金亭というレストランでシェフをやっているんだ」 

 

 「黄金亭!貴族様のレストランですよね!」 

 

 「最近噂に聞く、八百万亭、素晴らしい料理だった。まいった完敗だ。私は一から料理の勉強をし直す事にしたよ。それで、もし私も自分の味を作る事が出来たら、八百万亭の皆さんを招待してもいいだろうか?」 

 

 「黄金亭に招待して頂けるんですか!嬉しいです!」 

 

 「きっと君たちを満足させる料理を作る様に、努力しよう。美味しかった。ありがとう」 

 

 まだまだ私の知らない世界がある、それを知っていたのに、私は何処かでこのままでいいと停滞を望んでいた。 

 

 私も取り戻すぞ!自分と言う料理を! 

 

 黄金亭は王都では高級レストランとして、そこそこの評判だったが、ある時を境に劇的に変わった。ウェールズに八百万亭がある様に、王都には黄金亭があるといつしか住人は自信をもって答える。貴族だけじゃなく一般市民にも開放され、不動の地位を築く事になるのはもうちょっと先のお話。 

 

  -侯爵家 システィーナ・フォン・ファウストー 

 

 ファウスト家、薬や錬金術の大家で彼女の家、系列の弟子達は、日々薬や毒の研究にあけくれていた。 

 

 ファウスト系の錬金術師、薬師の目標は一つ部位欠損薬を生産できるようになる事、一つありとあらゆる病気を根絶させる事の出来るエリキシル剤の作成、全ての人間の潜在能力を覚醒、人を更なる高次元体へと進化させる事が出来ると言う賢者の石、柔らかい石を作成する事を悲願としている者達。 

 

 もちろん通常の薬の作成や、依頼された処方箋の作成などで日々の糧を得ながら研究に挑んでいる。 

 

 ファウスト家はその薬を扱うと言う側面から、一般人や民達からは非常に評判が良く、また一般人も手に入れやすい薬から高価な効能のある薬まで多彩に製造、販売して巨万の富を手に入れていた。 

 

 故に研究資金に困る事はなく、一般的な領地持ち貴族よりも圧倒的に裕福で、それを良く思わない貴族達や暗殺などの黒い事を考えている連中からは敵視されていた。 

 

 毒物を使った暗殺は悉く彼らに見抜かれてしまう、それ故邪魔に思われる事も多く、命の危険も両の手で足りない程、暗殺の危険にさらされる事も当たり前の日常だった。 

 

 だが流石はプロ、毒による暗殺などは悉くその全てを無効化させ事なきを得ていた、ある時までは。 

 

 娘のシスティーナは銀色の髪が美しいとても整った、お人形の様な見た目の子供だった。 

 

 食べる事が好きで、美味しいものが好きで、隠れて食べ歩きをするのが趣味だった彼女に次第に異変が訪れる。 

 

 体への微弱な麻痺、顔面の麻痺が出始めたのだ。 

 

 薬師、錬金術師、医師達によると、毒と言うより細菌によるものであり、麻痺は少しずつ侵攻しているらしく、このままいけば自分で動く事もできなくなり、最後には心臓の鼓動も止めてしまうことだろうとの事だった。 

 

 多くの薬師、錬金術師、医師が未だに研究しても正体が掴めないでいる。 

 

 そんな彼女がしたい事、それは美味しい物を食べたいだ、死ぬまでに出来るだけ。 

 

 それ故に彼女は街に新しく評判なレストランが出来ると、従者に車いすに乗せてもらいその店まで料理を食べにいく、出来れば笑顔で美味しいと美味しかったありがとうと伝えたいけど、彼女の顔面は麻痺してもう数年前から動いていない、それでも精一杯麻痺する声帯を振るわせて、美味しかったと店に伝えて、店を出る、それが彼女の強さだった。 

 

 麻痺が更に進行したら、口を動かすのも段々難しくなっていくと言う。 

 

 美味しい物が食べられなくなる、その前に少しでも美味しいお店達に、それが彼女の願い。 

 

 そんな彼女の為に、八百万亭が特別に用意した料理が。 

 

 七色鳥の北京ダック風。 

 

 薄餅を皮に、甜面醤、甘味の強い旨味を感じるタレををつけて、薬味にキュウリ、白髪ねぎ、他にもお好みで野菜がすきならそれらを乗せてもいい、七色鳥の皮をパリパリに仕上げて、薄餅で包んでいただく。 

 

 パリパリのサクサクの皮にもっちりとした皮の食感、シャキシャキの野菜の食感が混ざり合い、食感だけでも楽しい料理、七色鳥の皮はパリパリとしているのにジューシーで脂の甘味が強く、美味い!そこにタレの複雑な味も合い、なんとも言えない幸せな食感と味が口の中に広がる。 

 

 中国では食感は大切な味覚の一つで、パリパリとしたホロホロと儚く崩れる食感を脆、ツイと言う。 

 

 宿泊客である、システィーナ様に出した特別料理、執事に食べ方の説明などは大方してあるので大丈夫だろう。 

 

 「お嬢様、本日はウェールズでも最近台頭してきた八百万の七色鳥の北京ダック風をご用意いたしました。この料理は鳥の皮を味わう為の料理だとか、どうぞお楽しみください」 

 

 もぐもぐもぐ。 

 

 美味しい!!もちもちの皮、中からはサクサクの七色鳥の皮がじゅんわりと脂を放つ!甘味あるタレに薬味の野菜達が心地よく受け止める、これは美味しい!。 

 

 システィーナはいつも通りしているはずだったのだが、執事がそれを見逃さなかった。 

 

 「お嬢様!!顔が!・・・・笑顔に!」 

 

 えっ嘘!確かに美味しくてにやにやしちゃう味だけど、あれ?私の顔って麻痺して動かないんじゃ? 

 

 「お嬢様!!お顔が笑顔になられております!!」 

 

 鏡を見せられ驚く。 

 

 「あれ、本当だ。嘘!声がスムーズに出る!麻痺で喋るのが辛かったのに!全然普通に喋れる!」 

 

 「おぉ!!システィーナ様の声!!ちょっと失礼します」 

 

 執事に腕や顔をチェックされる、触られている感触が私もちゃんとする。 

 

 「ああっああああああ!おじょうぅざま、麻痺が・・・麻痺がなおっだんでずね!!ううううう!!」 

 

 「そうみたい?どうしてかしら?不思議ね?この料理を食べて・・・確か八百万の店主さんは聖堂教会が認めた聖人様なのよね?もしかしたらそれで・・・・ううん!それしか考えられないわ!八百万の店主様の加護で私の病気も治ったのよ!!」 

 

 「よがっだ!おじょうざま!治ってよがった!!」 

 

 「もぅバルテロ、そんなに泣かないで!治った!私麻痺が治っちゃったわ!!みて!立って歩けるもの!!バルテロ!宿泊は今日だけじゃないのよね!」 

 

 「もちろんです!!ゆったり楽しめる様に宿はとっております!!」 

 

 「それならよかったわ!だってこの宿楽しそうな遊びでいっぱいなんだもの!!庭園も素敵!体が治ったんだからしっかり楽しまなきゃ!もちろん料理も!!それに店主様にお礼も用意しなきゃ!急ぎお父様とお母さまにも報告して頂戴!」 

 

 「かしこまりました!私が手配している間は、メイドのメイをつけておきます!では急ぎ報告をしてきます!」 

 

 すっかり胃腸も元気を取り戻し、北京ダックの肉の炒め物とチャーハンと杏仁豆腐を食べ、いつ以来だろうかこんなに幸せなのは!お風呂!!お風呂も堪能しなきゃ!! 

 

 こうして八百万はまた貴族の常連さんをゲットするのだった。

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