いつの間にか広まる噂 値段をつけるのは難しい
すき焼き定食は売れた、売れに売れてしまった。
お店の回転率なんかは俺にはわからない、ただ鍋をセットしてぐつぐつやるんだから、それなりに一人一人時間がかかるし、みんな味わって食べていたので、滞在時間はそれなりに長かったと思う。
それなのにだ、仕入れた肉が全部空になる程売れてしまった。
リリとねね、俺もお店の外に並んでいるお客さんに材料がなくなってしまったのでと、ごめんなさいをしたのだが、あの悲しそうな、それでいて食べれずに悔しそうな顔をしていたお客さんの顔が脳裏に張り付いて離れない。
売り上げもいっぱいだ、銀貨三枚で売って10組相手にすれば金貨3枚、合計金貨16枚、リリとねねに金貨4枚ずつやって、俺にも金貨四枚入り、次の仕入れ代の金貨4枚もある。
次の仕入れでは50人前を目安に30キロ程お肉を確保してもいいかもしれない、今回はお替りなどもあったのでそれで追加料金も発生したのでこんな金額になった。
切り落としとはいえ、かなりいい部分のお肉が20キロ金貨1枚で手に入ったのもでかい、一人のお客様にお肉は300グラムから500グラムの計算だから、20キロもあれば間に合う予定だったのだが、40人のお客さん以上外に並んでいたのと、お肉のお替りが結構多くてなくなってしまったのが計算違いだった。
3人でお店を回しているのだが、それも結構大変だったりする、調理が簡単だから俺もホールに出て、お客さんに出したりかたづけたりもするのだが、量が増えるとやはり大変である、ねねには無理しない程度にやってもらっているが、ねねも一生懸命必死になったりして、このままでは駄目だと思った。
と言うかなんでこんなにお客さんが来ているのだろうか?日に日にお客さんが増えていく、俺もまさか材料がなくなって帰ってもらう事になるとは予想なんかしてなかった、値段だって銀貨3枚だ、もっと安い所なんかいっぱいあると思うんだけど、初日に来てたお客さんが今もうちに通ってる姿なんかも見る。
色々考えていると店のドアが開いた。
「おう!なんか大変だったみたいだな」
「フィガロさん、いらっしゃい・・・・大変も何も、もうくたくただよ」
「儲かっていいじゃないか、他の奴らは来たか?」
「お客さんに紛れて食べて帰りましたよ、大喜びで食べて頂けました」
「じゃあ俺にも一つ頼む」
「はいよ」
「ねね嬢ちゃんも流石に疲れたか?」
「つかれたよ~!でも楽しいよ!お客さんみんなにっこにこで帰ってくれるもん、嬉しいよね」
「嬢ちゃんはいい事言うなぁ」
「森で魔物相手に走り回るより、お店の方が安全だし、一休みする時間もあるからね、そう考えると天国だよ!」
まだ5歳だと思うんだけど、しっかりしてるし、色々世知辛い事言ったり、社会の大変さを知っていたりするんだよなぁ、ねねさん本当に5歳ですか?ねねはお客さんを誘導したり、たまに食器の上げ下げや料理を出したりもするけど、獣人だからか力があるのか、問題なくひょいひょい運ぶんだよなぁ、狐人族は力より速さの一族って聞いたはずなんだけど、リリも怪力の持ち主の傾向がある。
「あいよー、お待ちどうさま」
「おぉ~来た来た!美味そうだな!」
「ごめん!フィガロさん!お替りの米がもうないんだ!締めはうどんにしてください」
「米のお替りないのか!?くう~残念だ!締めってのは?」
「お肉に野菜が入った美味しいスープのあまりにお米と卵を入れて雑炊ってのにするんだよ!でもお米がないんだって」
「そうそう、だから最後はうどんっていう麺にしてくれるとありがたいな~なんて」
「おうよ!その麺って奴でいいぞ、それにしてもお前さん等相当疲れたみたいだな、うぉ美味いな!これ俺が卸した肉だが、いい味してやがる、生卵ってのも新鮮だな!この食い方いいじゃないか!まろやかで、ああ米!米が美味い!」
「最初は生の卵!?って驚く人も、お店でちゃんと浄化をかけてもらった物だと説明して、食べてもらうと納得してくれる人達ばかりでした」
「確かに生でなんて食わんし、腹を下した奴もいるからな、浄化がかけてあるなら大丈夫だろ、そりゃ食ってみれば納得するわ、こんなに美味いんだからなぁ!野菜もいい仕事しやがる!白雪ネギがじんわりと美味いなぁ」
「絶対あまると思ったのに、まさか材料切れになるとは」
「んんん?お前さん知らんのか?今街中でこの店が噂になってるぞ、滅茶苦茶美味い料理を手ごろな値段で出す店って、しかも美味い米が食えてお替り自由の大盤振る舞い」
「なにそれ!?」
「なんでも王都の一流料理店を食べ歩いた冒険者や食に興味のなかった頑固者すらも満足させる、驚きの店、ジャックポッドの定食屋、八百万、日によってメニューが変わるので、次いつ同じ味に会えるかわからない面白さがあっていいとか、各ギルドのマスター達がお願いして開いた店とか」
「あってる事もあるけどもさ」
「ニーアやクリスタなんかは、自分はあの店のVIPだから、舐めた態度とったら敵になると大声でいっていたからな、変な客は寄り付かんだろ」
「それはありがたいけども」
いつの間にそんな話が広まっていたとは、悪いお客さんが来ないのはありがたいけど、じゃあ当分今日みたいな感じで多くのお客さんが来るのかな?体もつかな?
店をやり始めてまだ日が浅いけど、たまには楽な料理でもいいんじゃないかなって事で、今回はパスタにしようと思う、スープもコンソメと野菜の簡単スープかパックで売っているコーンスープにする予定だ、サラダは人参、大根、玉ねぎやキュウリの細切りにレタスを添えたサラダの簡単セットにしよう。
早速フィガロさんのお店までくると、元気よく迎えてくれた。
「おう!今日も肉か!ルーカスが寂しがっていたぞ、たまには魚も買いにこないかなってな!だっはっはっはっは!」
「魚料理のレパートリー少ないんですよね」
「そうなのか?それは仕方ないな、今日もいい肉入ってるぞ!豚か?牛か?それとも鳥か?シカや熊なんでもあるぞ!」
「今日も細切れでも端っこでもいいんですよねぇメニュー的に」
「細切れでもいいのか?じゃあ爆裂牛なんかどうだ?突進と共に相手を爆破する攻撃力をもつ牛だが肉は普通に美味いぞ!これなら30キロを金貨2枚でいい」
「買った!」
きめ細やかな脂の入り具合は和牛以上に綺麗だ、それでいて栄養的にも脂肪になりづらく、エネルギー効率がいい冒険者の味方の様な食材なのだとか、スタミナをつけたい人にうってつけの食材だ。
紅玉トマトにクリーミートマトを買って、王玉タマネギも購入。
爆裂牛のひき肉に火を入れながら、カットした紅玉トマトとクリーミートマトをいれて玉ねぎを入れる、水、コンソメ、塩、胡椒、ニンニクチューブを適量加えて煮込む、ひと煮立ちしたらウスターソース、砂糖、物足りなかったらケチャップを投入して味を調えよう、何せ、何十人前もの量なので、とろみが出るまで煮込むのも大変だ。
現代調味料と異世界の食材で美味さはブーストがかかっている!こっちの世界の塩や胡椒を使ったらもっと美味くなるのかな?麺は地球産の乾麺だけど、異世界の小麦粉で麺を作るのも面白そうだし、美味しそうかも、でもなんでもかんでも異世界の方がいいって訳でもない、普通の塩なんかは地球産の方が白くて旨味もあったりする。
異世界の塩は物によっては不純物とか普通に入っていたり、色合いが悪かったりする、粗悪品も多い、だからこそ値段で差があるのだが、飯や宿、娯楽にいたっては料金青天井で高ければ高い程品質も、サービスの質もいい。
「いい匂い~」
「今日は爆裂牛のミートパスタだよ」
「パスタ?って何?」
「う~ん麺の一種かな?」
「嗅いだことのない匂いです」
もうすぐ開店なので、先に俺達で食べちゃおう、あまり食べすぎると動けなくなるので、適度に抑えるのが大事だ。
ガラガラガラとドアが開くと。
「斗真!腹減ったよ~、あたしの分も頼む!」
「ニーアさん、今日はやいね、仕事はいいの?」
「昨日はクリスタに先を越されただろ?あのすき焼き定食美味かったなぁ~・・・・それを先に並んで店にはいったクリスタが美味そうに食ってるのを、並んでみていなきゃいけなかった時、悔しかったね正直、だから今日は誰よりも早くきて食うって決めてたんだ!!」
「丁度俺達も今食べる所だからいいけど」
茹でたパスタにソースをかけ、たっぷりのチーズをかける。
「それなんだ?」
「チーズの事?」
「チーズ!高級品か!」
「いや普通のチーズだよ、ニーアさんもかける?」
「たっぷりかけてくれ!!」
「ねねも~」
「わたしもです!」
さて、準備が出来たら、頂きましょう。
うひゃー!美味い!肉も美味いけど何よりトマトの味が爽やかでいい!なんかすげぇ高級なパスタ専門店で食ってるみたいな!そんな特別感満載の味だな!サラダはいつも通り美味い、俺はコーンスープにしたけど、これは組み合わせ的に悪くないかも。
「美味い!これつぶつぶしてるのは肉か!小さいのに旨味が出てすげぇな!トマトの酸味に甘味!夢中になっちまう!?」
「ちゅるちゅる!美味しい!ねねこれ好きな味だ!」
ありゃ、ねねの顔がミートソースでべたべたに。
「はい、ねね拭いてあげるから」
「いや~ん、まだ食べるから後でいいよぅ!」
そうなんだけど、多分またべとべとになるんだろうけど、見ていると気になるんだよなぁ。
「トマト私もねねもあまり得意じゃないんですけど、これやめられないです!チーズも美味しい!」
「サラダも美味いけど、スープがいいな!この黄色いスープ!滅茶苦茶美味い!」
「不思議と塩っけと合う甘さですね!まろやかで美味しい!」
「ねねこれなら全部食べれる!」
一緒にご飯食べてる時から、ねねは何一つ残した事ないけど、二人ともトマトはそんなに得意じゃなかったか、そんな人でもミートソースは好きとかケチャップなら大丈夫って人も結構いるよね。
コーンスープも評判いいみたいだな、俺が作ったってわけじゃないけど、安定の品質だよね。
「これでいくらならいいだろ?銀貨1枚とか?」
「ぶふっ馬鹿言ってんじゃねぇ!銀貨一枚なんて安すぎるだろうが!銀貨3枚か4枚くらいもらってもちょっと安いかなくらいだ!ちなみに昨日の飯は銀貨3枚でも安いぞ!雫牛の肉だしな!」
「お兄ちゃん相変わらず値段付けるのへたくそだね、ねね達昨日のお給料金貨4枚ももらっちゃったし」
「ひるのちょっとした仕事で・・・・金貨4枚・・・・」
「そうだよ、3の鐘の時には材料切れでお休みになったし」
「私も本当にもらっていいか何度も聞いたんですけど」
材料費と雑費引いて、あとは簡単に三等分しただけなんだけど、やっぱりおかしいかな?いくらが妥当かなんてわからないんだもの!薬草五束で銀貨1枚でしょ?ゴブリン討伐でも銅貨2枚にこんぼうや装備品も売ればお金になるんでしょ?いくらが妥当なんだろうか?
二話を都合上、一話にまとめての投稿になっております。
見にくくて申し訳ありません




