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ひもかわうどんと天ぷら マーリン・アンブロシウス

 八百万 

 

 麺と言われれば、真っ先にラーメンを思い浮かべるかもしれない。 

 

 でも麺はラーメン以外にも沢山ある。 

 

 蕎麦にうどん、パスタ、ラーメンも日本では国民食の一つとして不動の地位にいるが、やはり日本国民として蕎麦、うどんも忘れてはいけないと思う。 

 

 蕎麦、昔の日本では蕎麦にも旬というものがあり、蕎麦粉の新しさや風味などによって新蕎麦が一番うまいと言われ、10月11月が旬で夏はあまり食べられないものだったが、海外からの良質な蕎麦の入手が可能になってからは、夏の新蕎麦が振舞われるほどになった。 


 繊細で管理の難しい蕎麦粉ゆえに、収穫して半年から一年たつ頃には風味なども失われ、新蕎麦の様な鮮烈な香りと旨味が失われる。 

 

 いっぽううどんは、小麦で作られ、丼、ざる、皿、なべ、おけ、たらいと様々あり、稲庭にきしめん、ひもかわなどのど越しの快感を煽るものも多く、これまたカップ麺になる程人気でもある。 

 

 今回はうどんの中でも、特にその食感と風味やのど越しが楽しめるひもかわうどんを作っていきたい。 

 

 厚さや幅の広さによって食感が異なり、のど越しの快感が変わっていくひもかわうどん、時には薄くぴらぴらとしてシルクの様な繊細な味を放ち、また時にはもちもちとしてむっちりとした弾力とのど越しを最大限生かした麺。 

 

 出汁は昆布をベースにした出汁でもいいのだが、動物性の出汁が好みなら鳥などを使った出汁でも汁を飲み干すほど美味い! 

 

 そんなひもかわうどん。 

 

 ウェールズには麺に目がない人が何人かいる。 

 

 一人はいわずとしれたラーメンクィーンのヒルデガルド、もう一人は伝説と有名なマーリン・アンブロシアである。 

 

 幻想界の申し子、神の造形物、真人、黄金の子、原初の子などなどと言われるマーリン。 

 

 神が最初に生み出した人間の原型の一つと言われ、エルフやハイエルフ、エルダーエルフなどよりも上位に位置すると言われている、幻想種族。 

 

 長い時を生きているのに、遥か過去の記憶も忘れる事もなく、衰える事のない美しさと若さ、生き物ならあるはずの長い時を生きる苦痛といったものから解放されている唯一の完全なる人と言われている。 

 

 マーリン・アンブロシウス 

 

 いつもは裏から勝手に家にはいったり、斗真の目の前にゲートを広げて直接やりとりするのだが、今日はなんとなくな気分で店の列に並ぶ。 

 

 相変わらず繁盛している様で、それが何故か妙に自分の事の様に嬉しくて誇らしい。 

 

 ねねの前までくると、ねねは顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに私を見た。 

 

 「ばぁーちゃん!!!」 

 

 「今日はお店で食べようとおもってね、驚いたかい?」 

 

 「びっくりした!今日は泊まっていくよね!?ねね!ばーちゃんと寝る!」 

 

 「ああ、今日はゆっくりしていこうかな?ねねとリリがどんな勉強してるか、孤児院の方もみておきたいしね」 

 

 「やったぁ!あっ席あいたよ!どうぞ~!」 

 

 ねねやリリも可愛いが、孤児達も一生懸命でかわいらしい。 

 

 「今日はね、ひもかわうどんっていってぴらぴらした珍しい麺だよ!天かすやネギなんかをかけて、他にも天ぷらや明太子、卵にゆで卵、さつま揚げとか色々あるから、合わせると楽しいよ!おにぎりもおっきくて具もいっぱいだから食べごたえあるよ!最後につゆの上におにぎりを乗せて、出汁をかけてお茶漬けなんかにしてもいいかも!」 

 

 「そうかい、楽しそうだ。ありがとうね、ねね」 

 

 そういって目の前にひもかわうどんが運ばれてきた。 

 

 おにぎりは卵黄のおにぎりと明太子のおにぎり、天かすとねぎの小皿に天ぷらはエビ、マイタケ、アナゴの一本とさつま揚げと半熟卵を一つ、それと漬物。 

 

 いつもより店の客捌きがゆるいとおもったが、テーブルにこう料理がいっぱいでは確かに圧迫されたりごちゃごちゃになるから、余裕をもたせているのかと納得する。 

 

 普通のうどんの様に、丼の中に麺がはいっていて汁でいっぱいになっているのかと思えば。 

 

 丼ではなく、ザルで出された。 

 

 汁は醬油と鳥出汁の汁にもう一つはゴマダレと赤い脂が浮いているから、辛めの汁なのかな? 

 

 幅の広い麺を二三本つかみ、まずはそのままずずっとすする! 

 

 うむむむ!ぴらぴらの薄い生地!のどに引っかかる事無くちゅるんと喉に消える!これは妙!のど越しの快感がまさに妙なり!!唇できれそうなほど薄く淡く飲み込める! 

 

 それでいたまた違った食感を出す、ごわごわ感のある太さ!これがむっちりざらざらと口!喉でぷっちり弾けては踊る!暴れる!快なり!こののど越したるや!絶妙な快なり!!! 

 

 なるほど!と納得と共に目が正直にぱっちり開かれる。 

 

 驚きが表情に出るほど美味い!まだ汁につけてすらいないのに麺!そして麺にかかっているほぐし水、これがただの水ではなく昆布水ときたもんだ!これに塩だレモンだなんてかけたら、麺だけでも金が十分にとれる出来だぞ!! 

 

 醬油ベースの汁、はっきりいってこの醬油がまず美味い!それでもってその塩味に合わせてあるのは、バリバリの動物性の濃厚な味!うどんには珍しい、どちらかと言えばラーメンに使われるべき鳥出汁!これがさっきと打って変わって、塩だけ完結する麺に浸透して暴れ出す!濃厚!魅惑!ギュンギュンのアクセル全開の鳥感が上品に駆け抜ける。 

 

 麺だけで美味い!スープだけで美味い!でも麺とスープを合わせると、全然視界が違うかの様に美味い!なんというポテンシャル! 

 

 次にゴマだれ!濃厚なゴマ!それでいて香ばしい味、そこにじんわりじりじりとゆっくり、そう物凄くゆっくりと辛さがじーんと広がる。 

 

 そして砂糖ではない!おそらくは麺!麺の甘味が妙に引き立ち、醬油だれでは感じなかった自然の甘味を感じる!また香ばしさと同時に小麦の風味も一層強くなって鼻を快感が抜ける!ゴマの強さに小麦が負けることなく存在感を放っている!これこそ麦!小麦!麺自体の存在感と風味!。 

 

 虜・・・・・人を虜にする麺!!! 

 

 逃げる様に安定感を求めエビ天に口をつける。 

 

 くぅ!サクサクの衣にむっちりの身!休む?この怒涛の攻めでは休みことなど出来ず! 

 

 マイタケもコリコリのサクサク!!!こんなもんが不味いわけなく!休める訳なく!どこをどう食っても美味い!代わる代わるつけるタレで味わいも変わり。 

 

 こうなってくると、もう周りの目や羞恥心なんどもう何も関係ない!思うがままに貪るまでだ!食い方が汚い?そんなもん関係ねぇ!飯を最高に美味く食うって事はな!本能をアクセルを全開で踏み、駆け抜ける事を言うんだ! 

 

 今この瞬間私以上に幸せな食事をしている人間は他にはいない!私だ私だ!私がいまこの世界で一番最高に幸せな食事をしているんだ! 

 

 アナゴの一本揚げに豪快に齧り付く! 

 

 こんだけデカいのに!咀嚼していくと小さく小さくなっていく!口の中で一噛み事に圧縮されながらも、旨味は全開のフルバースト!!! 

 

 贅沢な甘味!旨味!魚の味!ほくほく!ふわふわ!サクサク!まるで幸せな幻想を固めたみたいな食べ物!それがアナゴ天だ! 

 

 さつま揚げ!これももちもちで美味い!アクセントに枝豆がはいっているのがまた天才的だ!おにぎりにかぶりつく!卵黄の具がねっとりとクリーミーに米や舌を喜ばせる。 

 

 白身のあのジュルっとした所は苦手な人間が多いが、黄身のクリーミーな感じは全然好きだ!卵が流行る前は半熟な黄身や生な部分が気持ち悪いといって、親子丼やオムライスが食えない奴らがいたが、可哀そうにこんなに美味いのに!!でもいい!なんでもいい!私だけがこの美味さを知っていて、幸せなら!他の奴らは知らなくていい!知っている者だけで分かち合えばいい!全然いいんだ!無理して食べる事はないんだ!!いらないなら私がその分を食べよう!これこそが富の分配である!!! 

 

 どんぶりの器だけを貸してもらい、そこにおにぎりをいれ、うどんの出汁と昆布水、半熟卵、天かす、ネギをいれて、おにぎりを崩しながら掻っ込む! 

 

 鳥出汁に昆布の出汁!これが美味い!また黄身でねっとりクリーミーで天かすのサクサクとねぎの青さがまた贅沢だ! 

 

 汁で驚き、麺で轟、天ぷらで仰天して、おにぎりで感嘆して、お茶ずけで感動して、疾風怒濤の様に駆け抜ける! 

 

 子供みたいに食うに夢中で、息も切れ切れになりながら、お茶を飲んで、ハァハァと息継ぎしながら汗を拭う。 

 

 今日も!今日もまた美味かった! 

 

 どれ厨房の様子でも見ながら、斗真ちゃんの頭でも撫でてやるか。 

 

 そういって八百万の奥に消えていく、伝説のマーリンだった。

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