クラン エスパーダ 低階層攻略組 班長 リコル
遠征組 クラン エスパーダ
低階層攻略組 班長 リコル
ウェールズ、ブリタニア大陸のダンジョンの中でも大迷宮の一つで、低階層と言われる階層でも手に入る魔物の肉や魔石、お宝は高純度、高品質で狩場として非常に美味しい。
低階層でこれだけ美味しいのだから、他のダンジョン都市や大迷宮に比べ、根城にしている冒険者は比べられない程裕福で余裕があり、装備も高品質、そんな温い環境にいるはずの冒険者達なのに、ウェールズからたまに来る他ダンジョン攻略組は冒険者や人間としての品質が非常にいい事で有名だ。
ウェールズ出身の冒険者ってだけで、他の街やダンジョンでの活動、護衛任務など安心して任せられると言われている。
低級の冒険者や駆け出しの冒険者でもウェールズ出身は信用できるなんて言われているくらい、他の街でも信用されている。
他の街のダンジョンの方が過酷なのにウェールズの街の冒険者の方が優れているってどういう事!?冒険者として駆け出しのFやEでさえ他の街ならC実力があるならBはあると言われるほど差があると言う人間や商会もあった。
温いダンジョンで裕福にノロノロ活動している奴らが、私達以上に実力があり、そして商会や貴族から大いに信頼されている事に歯噛みした。
私達の街のダンジョンは、ウェールズより温くない、そんな過酷な環境で中級冒険者まで育ち、時には高ランクの人たちの深層まで稼ぎにいき、そして生きてしっかり帰ってくる私達エスパーダなら、ウェールズのダンジョンを誰よりも深く攻略できる、そう思っていた。
ウェールズの深層はそんな簡単な場所ではなかった。
寒暖の激しい階層、巨大な雹や石が降り注ぐ階層、重力の差が激しい摩訶不思議な階層に、明らかにこちらの力が弱体化する階層、魔術が使えない階層、回復役が効かない階層など色々な階層があり、そんな中を高ランクの魔物が群れをなして襲ってくる。
私達が潜れた階層は、深層60階、中層50階から10個程しか下に進めなかった。
ウェールズでも名の売れている、超有名クラン十二星座団、可憐な少女を隊長に12個の団でまとめられている集団。
ラウンズにも肩を並べる、若い子達で集まったクランなのに彼女たちのウェールズダンジョンでの安定の狩場は80階層だと言われている。
安定する狩場が80階層なだけで、彼女たちはその更に下の階層の事ももちろん知っていて、行って帰ってきたことがあるのだと言う。
話を聞けば、都市全体の冒険者達が、最近では特に安定して、そして実力以上に戦えるようになったりし始めたのはつい最近の事だと言う。
この街は、この街の人間達は圧倒的に他の街、都市とは全然違う。
多くの犠牲者を出し、ボロボロで帰ってきた日、周囲の目は憐みと同情の視線でいっぱいだった。
吸い込まれる様に八百万と言う飯、宿屋に到着して、全員に飯をふるまってもらった。
それどころか、宿、狩り拠点を引き払っていた私達を八百万別館と言う宿で一手に引き受けてくれて、今私達は宿でこうして飯が食えている。
疲れを癒し、汚れを落とし、そして命を失ってしまった同朋を弔い、小休止。
本来なら小休止も何もない、ボロボロだろうが泥だらけだろうが疲れていようが体に鞭打ってでもダンジョン低階層に潜っただろう。
こんなにもゆっくり出来ているのは、ウェールズの冒険者達がクランエスパーダに見舞金を出してくれたからである。
募金の様なその金は、私達を一か月以上ゆっくりさせてくれる程の金だった。
ウェールズの冒険者ギルドマスター、デストロイのニーアさんがみんなから見舞金だといって金を渡された時、何がなんだかわからなかった。
実力と自己責任の世界、金が欲しければ危険に飛び込む世界、高ランクの人間やクランやPTは期待される分、失敗して落ち延びた時笑いの対象となる世界。
ライバルたちは生き延びて帰ってきた私達に、舌打ちして全滅でもすれば面白かったのにとニタニタした顔で平気で伝えて来る、舐められたら終わりのそんな世界で、ちょっとした同情や憐みはあったとしても、誰が金までだしてくれるっていうの?
私達はウェールズのダンジョンを舐めた!その結果失敗した!してはいけない失敗をした!仲間が死んだ!全部自分達で判断した結果だ!そう自分達が悪いのだ!自分達がミスしたのだ!誰に強要された訳でもなく、自分で選び、進み、ミスをして、こうなったのだ。
誰が責任をとるまでもなく、自分達で責任をとるしかないのだ。
それなのにこの街は他とは全然違った。
周りの冒険者に資金を募って、見舞金をだしてくれて、立ち直ろうとする私達に手を貸す様に声をかけてくれる冒険者や街の人々、親身になって話を聞き解決策を探してくれるベテラン冒険者、ダンジョン攻略の情報を教えてくれる人達。
ダンジョンの攻略情報や階層攻略の情報など金になる情報は普通簡単には教えない、ギルド情報に記載されていない細かな情報も聞けば酒いっぱいで教えてくれる人達。
私の知ってる冒険者達の姿じゃない、冒険者は荒くれもので金にうるさくて情報を秘匿し中には弱い者を鴨にしたり痛めつける奴がいる。
そんな自分達が当たり前だと思っていた冒険者の姿は、この街では当たり前なんかじゃなかった。
依頼すれば十二星座団や他のクランの冒険者PTが先導して、自分達の狩場の攻略情報を売ったり、率先して案内してくれたり、時には安定して狩れる様になるまで自分達より下の冒険者達の面倒を見るのだ。
ウェールズの冒険者達の死亡率を聞いて驚いた。
ほとんどが事故、それも突発的に起こったダンジョンのイレギュラーによる事故、それでも死人は圧倒的に少ない。
そして私達の様な他の街や国からきて、舐め切っていた人間達の死亡が圧倒的だった。
そしてこの宿、八百万別館、大浴場があり各部屋に風呂までついていて、飯も無茶苦茶美味かった。
最初の何日か、ご飯を食べながらみんなで泣いた。
あっちこっちですすり泣きや謝る声が聞こえる。
もうあいつは、あいつらはこんな飯が食えないんだな、こんな飯がある事も知らずに逝っちまったんだな、ちくしょう、ちくしょうと泣きながら食べる。
親が死んでも愛した人が死んでも仲間が死んでも、生きていれば腹は減る。
最初は中々手を付けれなくても、飯を食う気になれなくても、自分達人間は何かを犠牲にして糧を得ているんだと考えさせられれば、無駄にすることは出来ない。
八百万 店主 八意斗真は飯を食わずに放心していた私達に喝を入れた。
「食え!お前たちの仲間が魔物に食われ地に還ったように!俺達人間は動物を!魔物を!植物を!命を犠牲にして!繋いでいるんだ!作った飯を食わないって事は!命を無駄に消費する事と一緒だ!お前たちの仲間の死は無駄だったか!?無駄じゃないと思うなら食え!」
その言葉に、泣きながらも飯を食う。
「生きていれば打ちのめされる事も心無い言葉を浴びる事も、もう立ち上がれないって叩きのめされる事もある、ずっと一緒にいた仲間と疎遠になる事も、病気で若くして先に逝っちまう事も、でもな、人間どれだけメタメタのボロボロになっても明日を生きなきゃいけないんだ。背負うも背負わないも勝手だ。どれだけ罵られたって、まってる客がいる限り店は開かなきゃなんねぇ、あんたらだってそうだろ?」
苦しくて、悲しくて、辛くて、悔しくても、明日を生きなければいけない。
冒険者だけではなく、生きているみんながそうなのだ。
どんな仕事でも軽んじられても馬鹿にされても中にはいらない職業とか底辺なんていわれても、それでもどんな人間でも待ってくれている人たちの為に、些細な幸せなのかもしれない当たり前の毎日なのかもしれない、その当たり前を維持する為には大勢の沢山の人の絶えまぬ努力が必要なんだ。
少しずつ少しずつ傷を癒し、私達は明日を生きる。




