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八百万感謝デー 銅貨一枚の日

 寒くなってくると活動が鈍くなる、寒さに動きたくない日などは宿にこもり、出るにしても近場の酒場にたむろするのが街の中では常識になっている。 

 

 だから寒くなる前にある程度冬場はサボれるように、お金をためておくのが当たり前である。 

 

 八百万別館、複合施設がてんこもりのこの宿、冬ごもりをするのにもってこいで施設で汗をかき肉体を維持して温泉に入る事も、酒を飲む事、公共ギャンブルで遊ぶこともできると言う、ウェールズきってのとんでもない宿、稀人八意斗真の遊び心で作られた、この宿は貴族はもちろん、金持ちの商人、大金を荒稼ぎする高位冒険者や他国の貴族、王族にまでその施設の素晴らしさは広がり、それでいて金持ちからはがっぽり、一般客からはリーズナブルなお手頃価格で最大限楽しんでもらえるという、商業ギルドマスターギムレットの素晴らしいシステムで動いているのである。 

 

 また支配人である従者部隊第三位クラウスの徹底された接客サービスも人気で、また働く側の人間も楽しんで大金を稼ぐ!をもっとーに高品質なサービスを維持している。 

 

 そんな大層な宿とくっついているがために、八百万には舌の肥えたお客様は多い、それでもここは八百万!八意斗真をオーナー、料理人として自由で安く美味しくお腹いっぱいに!他所の店で捨てられている様な食材にこそ!隠れた美味い物があるのだと、安価で美味い食材、商品にならない様な食肉部位や未利用魚などを当たり前のように使い、安全な生肉と魚の刺身や内臓を提供する。 

 

 美食家ならば!美食家であるが故に!人生で一度は来て食べたい店、そして驚く程安価で美味い酒と豊富な種類の酒を取り扱う店として有名であり、王族、貴族の地位などを利用した某弱無人なふるまいをする客は誰であろうと叩き出される、ここでは従業員または店主の言う事に従い理性的常識的に振舞わなければいけない店として名が売れていた。 

 

 そんな八百万の銅貨一枚の日! 

 

 それは、インスタントラーメンである! 

 

 市販の大量の袋麺を、粉の味のスープに出汁だけは鳥と豚からこれでもかと長時間煮たスープと混ぜ、メンマ、卵、チャーシュー、ネギ、そして少量の白銀キャベツを乗せた簡単レシピである! 

 

 茹でた麺は放置すると簡単に伸びてしまう為に、アイテムボックスに入れてそこから取り出し、極力伸びない様にさっさと調理する。 

 

 斗真にとってインスタントにちょっと手を加えた程度で出せる、手抜き料理、簡単料理なのだが、これが意外と好評なのだ。 

 

 「うぃ~す!ねねちゃん今日は?」 

 

 「今日は銅貨一枚の日だよ!」 

 

 「おぉ!まじか!冬はどうしても金を節約しなきゃいけないからな、助かるぜ。一つ頼みます」 

 

 「空いてる席にどうぞ~」 

 

 暖かい店にじんわりと熱が返ってくる手や足の指先、どっかりと座り周りをみると、みんな嬉しそうに麺をすする。 

 

 「家系ともどのラーメンとも違うんだけどよぉ、これ!この麺のチープな味がいいんだよな!」 

 

 「そうそう!そんでもってスープにはしっかり斗真さんのスープが使われてる!このバランス感覚がたまんねぇんだよ!」 

 

 「最初の頃は、麺もスープも本当にチープ、ああ、確かに銅貨一枚って感じだったけどな」 

 

 「あの頃はあの頃でよかったけど、この手を微妙に加えてるって所がポイントなんだよ!チープな麺に醬油か味噌かわかんねぇ味なのに、スープはごりごりの豚骨と鳥出汁!んでもって乗っかってるのは、ラーメンでお馴染みの具材!この微妙なバランス!いいバランスなのかアンバランスなのかのギリギリ感、これがさ、妙に食いたくなる日があるんだよ」 

 

 「特に寒い日はまたうめぇんだよなぁこれ!この麺が特にポイント高いよな!」 

 

 「ああ、いつものラーメンの麺じゃなく、インスタントっていう一度乾かした?麺を使ってるとかいってたな、そうすりゃお湯だけで麺がすぐできあがるんだと」 

 

 「このなんか、簡単な味わいがいいんだよ。んでもって追加で八百万の握り飯や漬物、出汁まき卵なんかつけてさ、こうがっつがつと食うと、くぅ!これがいいんだよこれが!」 

 

 「わかるわかる。本格なのと手軽なのが入り混じってるのがいい」 

 

 「お貴族様にはきっとわかんねぇんだろうなぁ、この味」 

 

 「おうよ!こりゃ上品な飯ってよりも、俺達体動かしてるやつらの飯って感じだもんな!おっとおれ冷酒つけちゃお!」 

 

 「握り飯と冷酒!それに漬物!これが妙にうめぇんだよ!キュウリの一本漬けとかバリバリ片手に食いながら、もう片手に握り飯食って!冷酒で流し込む!かっは~」 

 

 「その酒だって八百万じゃねぇともうだめだ、ウェールズはまだましさ、王都の安酒の濁った、なんかよくわかんねぇもんが浮いた酒・・・・・おらぁもうあんなの飲まねぇぞ!!」 

 

 「ああ~わかる!喉がいがいがするんだよな!あれ!、ちょっと前まではウェールズでもそれが当たり前だったなぁ・・・・・なんなら水も濁ってたぞ!」 

 

 「八百万で飲んだ初めての水、思い出すなぁ。透明でさぁ、夏の暑い日だったなぁ。きんきんに冷えててよぉ、ぐ~っと飲むと胃まで落ちるのがわかるんだ。酒もそうだった。強いしゅわしゅわした酒、初めこそなんじゃこりゃ!?って感じだったがよぅ、ぐいぐい飲むあののど越し!うめぇんだよなぁ、そんでもって日本酒!びっくりするぐらい透明でよぉ、これが米から作られてるって言うだから驚きだよな、ある日エルフの客が、日本酒頼んでよぉ、米で作った酒って聞いて、なんでこんなに透明なのだ!とかなんでこんなに果物の香りがするんだ!とかもう大騒ぎしたの、面白かったなぁ」 

 

 「ウィスキーの琥珀色の酒もおらぁ好きだね、香りも味もいい、あれをゆっくり味わいながら飲むんだ」 

 

 「葡萄酒もいいが、ここには他にも果物の酒は多いから驚いたもんだ。果物の酒といえばぶどうしか頭になかったからなぁ」 

 

 「ドワーフや巨人族が好きな、火酒!ウォッカにジンにテキーラ!こいつも悪くねぇ!ニーアさんが龍族の酒に似てるっていってるくらいだ。あの美食家で酒豪の龍族の酒だぞ!?どこにの店にそんな酒を安く出す店がある!?ここくらいだ、そんな酔狂な店は!斗真の旦那に乾杯!」 

 

 「斗真の旦那のオリジナルの酒もうめぇんだぞ」 

 

 「お前!?飲んだことあんのか!?」 

 

 「ちょこっと味見させてもらったけどよ。ありゃやべぇぞ!水あめみたいな、濁り酒みたいなとろ~りとした味に吹き抜ける酒の味!もったいなさすぎてな、ちびちび舐めるように飲んだけど、これがうめぇんだよ!八百万の秘蔵酒、神酒だなありゃ、その癖に次の日は妙にすっきりとして体の調子がいいんだこれが: 

 

 「あの人当たり前のようにとんでもねぇうめぇもん平気でだすからな、最初の頃は勘定がいくらになるか青ざめた事もおおかったな、蓋をあけてみりゃ安いんだもんよぉ、そりゃあこの店好きになっちまうぜ」 

 

 「酒好きの客の貴族様に土下座されて酒を売ってくれって頼まれてた事もあったっけ、あれ以降アーサー様とギムレットさんで秘密裏に販売してるらしいぞ、斗真の旦那公認に決まってるだろ!ほしい奴は八百万じゃなく、ギムレットさん所に行くようにってさ」 

 

 「商業ギルドでたまにうまそうな弁当くってるのって、やっぱり八百万の弁当か?」 

 

 「そうらしい、ギルドの職員は忙しいからなぁ、八百万並べない奴らの為に斗真の旦那が注文された分だけ特注で作ってるって」 

 

 「羨ましいけど、しゃーねぇよなぁ、店まで来れる奴は店で食った方がいいもんなぁ」 

 

 「やべぇ飯食ったけど、外の寒さに店出るの嫌なんだけど・・・・・・・怒られるかな?」 

 

 「なんの為に店内拡張して、昼でも酒飲める様にしたと思ってんだよ。俺らがのんびりできるようにだとよ。移動できる奴は渡り廊下通って宿の施設やあっちの空いた方に移動してるって、外でなくてもいいのは助かるわ」 

 

 「温泉はいってから帰るか」 

 

 チープな味のインスタン麺が無性に食べたくなる日、そんな日もある。 

 

 コンビニのホットスナックやおにぎりが妙に恋しい日もある。 

 

 ジャンクな味に安い酒が妙に染みわたる、そんな寒空の日の八百万だった

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