4回目の朝
目を開けるとそこはサファちゃんの部屋だった。
アタシは寝起きのボーッとした頭で昨日のことを思い出す。
確か蛇に食べられて……蛇に食べられて……? そんな事あるか……? 夢か。夢だったのか。
なんか疲れたし二度寝でもするか、とアタシが目を閉じると凄い音でドアが開いた。かと思うとゆいぴーがものすごい勢いでこっちに向かってきた。
「りなちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! 生きてるよかったぁぁぁぁぁ」
「おーよしよし、やっぱ蛇に食べられたのは夢じゃなかったのか、まぁよかったよかった」
アタシがゆいぴーの頭を撫でていると、頭の中に……直接声が……!!!
「おはようございます。お二方」
「あ、サファちゃんおっはー」
「お二人とも私の慈悲深さに感謝するのね」
慈悲深さ……?
あ、蛇の中から助けてくれたのってサファちゃんだったのか。
確か強制退場って……現状を見るに、アタシはパジャマだし、ダンスパーティーの前の日の朝に戻されてる感じだ。なにもダンス踊らなくても1日目に戻って来れるってこと?
「助けてくれてありがとね、サファちゃん」
「ありがとう悪役令嬢ちゃん様〜〜〜〜〜」
アタシたちがサファちゃんにお礼を言うと
「ふ、ふん。別に王子のついでですよ。あなた方は」
と、ツンデレをかまされた。
アタシたちは一息つくと、次の作戦について話し始めた。
エメちゃんの好感度アップも、カーネリアンっちの好感度アップも失敗。ふむ、どうしたもんかね。
アタシたちは考え込んでしまった。
最初にその沈黙を破ったのはゆいぴーだった。
「私もう一回エメラルドちゃんと仲直り作戦試してみていいかな?」
「いいけど……どする? 前回と同じ方法で仲直りして、カーネリアンっちにガネガネと仲良くしてるとこ見つかんないようにする?」
「いや、今回は大掛かりに2日かけて作戦を実行しようかと思ってます。ズバリ、エメラルドちゃんを尾行して1人になるタイミングを見つける! そんでもって悪役令嬢ちゃんに1日目に戻してもらって、エメラルドちゃんが1人のタイミングで仲直りする!」
ふむふむ……?
「つまりエメちゃんストーカー大作戦ってわけか」
「聞こえが悪いっ!まぁそう言うことだけども」
「でもそれなにも2日かけなくてもいいのでは……? エメちゃん1人になったタイミングでアタシから話しかけれはいいんじゃない?」
「考えてみてよりなちゃん。悪役令嬢ちゃんがエメラルドちゃんのこと尾行してたら100%ガーネット君に見つかるよ。それ以前に目立ちすぎるよ!」
なるほど確かに。アタシはサファちゃんがエメちゃんの後をつけているところを想像してみた。
うん。普通に怖いな!
「じゃあアタシはお留守番?」
「うん。りなちゃんはお留守番。昨日のお詫びに私頑張るよ!」
ゆいぴーは大蛇を召喚してしまったことを結構気にしてるようだった。尾行はモブメイドにお任せあれ! と、ずいぶん張り切っていた。
そんなに気にしなくていいのにな〜と思いつつ、アタシは自信満々にエメちゃんの元へ行くゆいぴーを見送った。
「じゃ、また会う日まで、アディオスグッバイりなちゃん」
「がんばゆいぴー!」
ゆいぴーはウインクしながら片手でグッドマークを作ってムーンウォークで去っていった。
「さて、アタシはダンスの練習でもしますか」
ダンスパーティーで普通に踊れればそれに越したことはないはずだ。
アタシが図書館にダンス本を探しに行こうとするとサファちゃんが話しかけてきた。
「ちょっとさっきのゆいなさんの動きは一体何ですか」
「あぁ、ゆいぴーウインクできるんだよね〜いいよね、アタシはダブルウインクしかできないからさ〜」
「それはただ単に両目を閉じているだけじゃないですか。はぁ。まぁいいですけど」
サファちゃんは呆れたような声でそう言う。
「ダンスの練習ですか? 今日も」
アタシはびっくりした。どうやらサファちゃんにはバレてたみたいだ。
「あー……みてたなら言ってよ恥ずかしいなぁ!」
「夜中に図書館で本を借りてきてこっそりダンスの練習をしていたことを、ですか……?」
サファちゃんは揶揄うように言ってきた。
そう、実はこっそりずっとパーティーで王子と踊るダンスを練習していたのだ。だってアタシがダンス踊れれば元の世界に帰れる話だし。夜の結構遅くに練習してたからサファちゃんももう寝てると思ってたけど、どうやら全部見られてたようだ。結構下手だし、結構真剣にやってたから、あれを見られてたと思うとはずかしい。
「もー、もー、サファちゃーん」
「牛ですかあなたは」
「も〜も〜っつってね、いや牛じゃないっつーねん」
……………………………。
やめて! ノリツッコミした後に黙るのやめて!! せめて、せめてハハハ、ぐらいいってくれてもいいじゃん!!!!
サファちゃんはアタシのノリツッコミを全力スルーして話を続けた。
「ダンスの練習、別に恥ずかしがる事も隠すこともないじゃないですか、むしろどうして黙って練習しているのですか?」
「それは……まぁ、アタシってギャルじゃん」
「ギャル……?」
そうか、ギャル知らないかサファちゃん。
「んー明るい女の子? みたいな? まぁあんまり真面目に練習とかしないキャラだからさ〜めっちゃ真剣に練習してるとことかみられるとなんか恥ずいじゃ〜ん。いつもその場のノリとテンションで生きてるところあるからさ」
「そうですか。あまり気にしなくてもいいと思いますけどね。そんな生き方をしていると周りに流されてしまいますよ」
う……痛い所つかれたな。アタシはベッドに戻ってその上に寝転がり天井を見つめると、少し昔のことを思い返した。
「これはまぁ、独り言みたいなものなんだけどさ、聞いてくれる? アタシの昔話」
「えぇ、別にいいですけど、ずいぶんと突然ですね」
「ありがと」
突然、か。思えばずっと誰かに話したかったのかもしれない。アタシは誰もいない広い部屋の中、ぽつりぽつりと話し始めた。