願掛け
大晦日の夜、ミチオは同級生のマリと市内の神社へ来ていた。高校の終業式の日、グループで仲良くしている彼女から、二年参りに誘われたのだった。ミチオは「えーっ、お前とか?」などと迷った様子を見せつつも、実はマリに気がある為、小躍りする思いだった。
年明けまでまだ二時間程あったが、既に行列が出来ていて、二人は最後尾に並んだ。冬の寒さはあるが、幸いにして荒天ではなく、待つ辛さはない。いや、天気云々以前に、マリが隣にいるので、ミチオの気持ちは浮ついていた。たわいもない話をしている内に列は進行し、段々と拝殿が近付いて来た。
「あんた何を願うの?」
「え? そ、そりゃ健康だろ。健康第一さ」
ミチオは本当の事は言えず、心にもない事を言った。ふーん、とマリがじろじろと見て来る。何か疑ってでもいるかのような目付きだ。そうこうしている内に二人の番が来た。
ミチオはマリと隣に並び、賽銭箱に相対した瞬間、彼女の周囲を回り始めた。
「ちょっと、何してんの」
「二人分、願いを叶えようと……ね」
ミチオは咄嗟に嘘を吐いた。彼は学校で変わった噂を聞き、それを実践したのだった。それは、二年参りで好きな相手との良縁を願って、その相手の周りを一周回った後、祈願すると結ばれるというものだった。相手の周囲を巡る事で好感を引き出すのだとか。
この様子を見てマリは呆れ顔だ。
「こういう時は二礼二拍手一礼でしょ」
「い、いいんだ、俺はこれで……」
ミチオは言い張るが、彼女は鼻で笑っているようだった。
マリは内心ほくそ笑んでいた。ミチオがまんまと自分の策に嵌まったからだ。良縁の噂を流したのは彼女だった。人は良い迷信を信じやすい性質がある。気になっているミチオが嘘の噂通りの動きをすれば、間違いなく自分に気がある事が分かる。表面上は彼を馬鹿にしたような顔をしながら心では笑っていた。
そんな二人の様子を天から見ていた縁結びの神は嘆いていた。
「この二人、互いに想い合い結ばれる事を願いながら、自ら遠縁を望む動きをしている。祈りの者の周りを回る事は最悪の縁切り行為とわかってやっているのか……」
神の眼下で願いを請う者は、まだおびただしい数がひしめいていた。
「いちいち気にしていたら祈願者がどんどん来るか……。ふうむ」
数秒思案して、神は手を叩いた。
「そうだ、縁切り効果は抜きでこの彼女、少し懲らしめてやろう。男女平等だ」
呆れ顔を取り繕ったマリだったが、ミチオが祈りを終えた時、何故か自分の意志に反して身体が勝手に動き出した。
「おい。何やってんだ」
「し、知らないわよっ」
マリの足は何かに突き動かされるようにミチオの周囲を巡った。
「お前、それって……」
除夜の鐘が鳴り、令和五年を迎えんとする頃、ミチオの顔がにやけた表情に変わった。
新年企画の投稿でボツになったものです(^_^;)