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夏の終わりに
もうすぐ夏が終わろうとしていた
8月の半ば
昔住んだ町に行った
数年前の台風で流れた橋は復旧していたから
私鉄に乗ってかつての家の近くに······
無人駅になった駅舎を出て
車ばかりが行き交う国道を渡った
辺りはもう暗くなりかけていて
西の山の近くの空から
赤い色が消えつつあった
住んでいた頃にはなかった店で
詩集を買った
ここに住んでいた筈だが······
そう思った場所に家は無く
よくよく見れば周りに何軒かあった家の
あるべき筈の所には
砂利の敷かれた空間があった
しばらく立ち止まって
また歩きだす
西の空はもう明るくはないが
街灯のない道はより暗く
生暖かい風が吹いていた