14/44
遠出
遠出といっても
自転車で田んぼを見に行くぐらいで
しばらく病でいて落ちた体力では
大して遠くまで行けるわけもない
ただ
蛙が鳴く声を聞きたかった
十年前なら気づきもしない
五年前ならそのままのぼる
長く緩やかな坂道を
自転車を押して歩いた
風が青い田んぼをわたってゆく
伏せっている間に季節は過ぎて
稲は伸びていた
蛙がよく鳴く時季も
少し過ぎていた
それでも
くゎくゎくゎ······と
遠くで数匹鳴くのが聞こえた
少し遠くに
市街の灯が見えだした
帰り道
明日のことは考えずに
自転車をこぐ
緩やかな下り坂はすれ違う人もなく
暗くなってゆく