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奢らせて下さい


 映画館に来ると天音さんに連れられて券売機の元へとやってきた。


 普通は男が先導するものだろ!と思うかもしれない。

 だが、俺には無理だった。


 いや、だって映画なんて何年振りだと思ってんだよ。

 俺が知ってる映画館は券売機なんてもんはなくて人とやり取りして直接チケットをとってたっての。


 時代の流れは早いものだな……


 まだ高校生なのに、そんなことを感じてしまう自分が少し年寄り臭い。


「葵さんて、あまり映画とかこない感じなんですか?」


「分かっちゃいますか?」


「まぁ、そうですね……かなりキョロキョロされてましたのでそんな感じがしました」


 だろうな、さっきから新しく変わったものと、懐かしい雰囲気とでいろいろと見回していたからな。

 それにしても映画館にくると、何故か気分が高揚する。


 この微妙に薄暗い景色と、至る所に貼られた映画の宣伝ポスターとかを見るたびに心を揺さぶられていた。

 映像の方でも一部始終が流れていて、ホントに俺たちみたいな客の興味を惹きつけてくる。


 ああ、アレも面白そうだ。


 こっちも見てみたい。


 次々とそんな感情が湧いてくる。


 天音さんはというと、少し迷いを見せながらも間違うことなく券売機のパネルをタッチしていた。

 すると映画館の座席表のようなものが出てきて、席が青くなっているところと黒くなっているところがある。


 恐らくだけど青い席が空席なのだろう。


 暗いところは選択出来なさそうだし……

 初日ということで空いてるかと心配していたのだが、意外にも席が空いていた。

 流石に真ん中の方の席は埋まっていて、空いてるのは前の方か中断くらいの端の席だ。


 そして、二人並んで取れる場所となるともう少し限られてくる。


「葵さん、それでどの席がいいとかありますか?

 私もそんなに頻繁に来るわけじゃないので特にこだわりとかはないんですが、オススメは前すぎないことですかね……」


 前の方が画面がデカくて迫力があっていいと思っていたのだが天音さんは俺とは違った意見らしい。


「それはどうしてですか?」


「えーとですね。単純に前過ぎると画面を見上げる形になっちゃいますので、首が疲れるんですよ。

 短時間ならまだしても、2時間くらいはありますから、かなりしんどいと思います」


 言われてみれば確かにごもっともな意見だと思った。


 しんどい状態で内容が頭に入ってこないなんて嫌だからな。


「それじゃあ、このHの一番端の席でどうでしょう?」


 俺は前過ぎず後ろ過ぎないところ指差した。

 

「奇遇ですね、私もそこがいいかなと考えてました。画面から少し斜めの位置になるとはいえ、この中だと一番良さそうです」


 天音さんはその二席を選択し、決定ボタンを押して進めていく。

 

 すると、今度はお金の画面になる。

 そこで俺は素早く自分の財布に手を伸ばして、5千円札を取り出すと券売機の中へと放り込んだ。


 つまり、天音さんの分も含めた2600円分の料金を支払った状態になる。


「えっ、葵さん!?」


 天音さんは驚いた表情でコチラを見てきた。


「ここは俺が払いますよ、ホントは今日だって俺がリードするべきなのに、天音さんに任せちゃってますから。

 っていうより、お願いです。ここは俺に払わせて下さい」


 そうでもしないと、俺の命が危ない。


「そこまで言って頂けるなら、ありがとうございます」


 天音さんが受け入れてくれたことに俺は心底ホッとしていた。

 なにせ、このお金は姉さんが俺に「雪ちゃんにお金を出させるような真似はしないわよね?」と無理やり渡してきたものだ。


 その上、使って来なかったら怒るわよ、なんて脅しも受けていた。


 どうせ姉さんのことだ、言葉巧みに天音さんから裏ドリを取るはずだ。


 だから、このチャンスを見逃す訳にはいかない。


 そのあと、チケットに続いて飲み物とポップコーンを買うことになったのだが、それも俺が頼み込んでお金を払わせて貰った。


 天音さんはその度に本当に申し訳なさそうに、頭を下げている。


 なんか、これはこれで悪い気がしてくるな。


 もちろん払ってあげたいという想いもあるにはあるのだが、ここまで必死になってるのはあくまでも姉さんのことがあってのことだ。


 それをそんなに恩に感じられても……


 それから、近くのベンチに腰掛けて映画上映までの待ち時間の間、天音さんと会話していた。


 そして、その中でドラマのことを饒舌に語る天音さんの表情がコロコロと変わったりして、見ていて新鮮な気分になる。

 

 そこでふと湧いてきた疑問があった。

 天音さんって普段、学校では何を思って過ごしていたのだろうと……


 正直、今の天音さんは学校で見る表情変化の乏しい天音さんよりも数十倍は魅力的なのだ。

 学校でも同じようにしていれば、もっと人気者になって友達だってたくさん出来ていたと思う。


 それなのにそれをしない……ホントにもったいないことだと思う。


 だから、話の切れたタイミングを見て一つ聞いてみることにした。


「天音さん、学校は楽しいですか?」


 少し踏み込み過ぎた質問だったか?


「えっ、……学校での私ですか?」


 天音さんは何故そんなことを聞いてくるのか、疑問に思っているような、そんな表情を見せた。

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