告白には様々な形があって
あっという間に休日が終わり平日が訪れる。
彼女と出会った次の日は日課になっているランニングだけをこなして残りの時間は家で過ごした。
どうやら、あれから彼女は母親に連絡してみたようだ。そして今週の日曜日に話し合ってみることになったと報告があった。
これから先は俺にはどうすることも出来ないので、頑張ってという言葉と共にスタンプを送っておく。
これで一つ前進か……
彼女はさておき、こちらはこちら側で悩みの種が消えた訳じゃない。
俺がいつも通り登校していると、これもまたいつも通り、後ろから斗真に声をかけられた。
もう、これはある意味お決まりのパターンだ。
そして二人で会話をしながら学校へと向かう。
もちろん、あの事実を知らない斗真は今日も無邪気な笑顔を見せてくれる。
そんな彼の姿を見ながら俺は密かに決意した。
やっぱり、放って置けないよな。人にだけ頑張らせといて自分だけが逃げ続けるわけにはいかないか……
東雲 風花と話し合おう。
そしてそう決意した月曜日が過ぎて火曜日になった。
いつも通り学校に着くと、先に登校していた東雲を含めた生徒達がドッと斗真を囲う。
ホント凄い人気だこと……
やはり、斗真の取り巻きである彼女と二人きりになるには一筋縄じゃいかないようだ。
だが、こちらとて無策な訳じゃない。
俺は集まっている彼女達を横目に手紙をそっと彼女の机の中に忍びこませる。
その間に俺のことを目にかける人物なんて誰もいない筈だ。それほどまでに存在感のなさだけには自信があった。
内容は他の人に見られてもいいように、告白するように見えるようにしておいた。名前は敢えて書かず、時間帯は昼休みで場所は屋上になる。
そうすることで高確率で2人きりの状況が作られると計画したのだ。
まぁ、来るかこないかは分からんがな。
それは東雲のみが知ることだ。
俺はしれっと一番後ろにある自分の席に戻り、彼らの様子を伺うことにする。
そして、朝のホームルームを終えて、1時間目の授業が始まるまでの時間に彼女は俺の手紙を見つけた。
不思議そうにそれを手に取ると机の上に上に置く。
「何これ手紙?」
「風花、もしかしてそれ告白の手紙とかじゃない!?」
「えっ嘘〜、誰から誰から?」
「ん、えーと、名前は書いてないな。でも昼休み屋上で待ってますだってさ。ウケる〜!」
今の何処にウケる要素があったのかは一ミリたりとも分からなかったが、東雲はその他2名の女子生徒に囲まれながら手紙の内容を堂々と読みあげた。
「流石、風花。モテる女子はやっぱ違うね」
「でも、風花は阿契君一筋だから、可能性はゼロなんじゃない?」
「当たり前じゃん、私は斗真以外の男と付き合うつもりなんてねーよ。こんなの無視するに決まってるっての」
「それは少し可哀想じゃない? せめて返事ぐらい聞かせてあげないと……」
「私もそう思う、相手側も結構勇気出してしたことだと思うし、無下にするのは良くないって」
「でも昼休みはちょっとなぁ……」
そう言い淀む東雲。これは絶対に例の予定が入ってたな。
俺は悩ましそうに呟く彼女を見てそう判断した。
「あれ、風花何か予定ある感じ?」
「いやいや何もないって、少しのんびり過ごしときたかっただけだから。
……まぁ、そこまで言うなら分かった、少し話聞いてくるとするか」
そんな流れを経て解散した後、東雲は慌ててスマホを取り出した。
そしてかなり周囲を確認しながら、メッセージを打ち込んでいる。
十中八九、相手は小藤のヤツで間違いないだろう。
昨日もそうだったが、コイツら毎日致しているのだろうか?
それから授業が進み昼休みが訪れた。
俺は東雲が動き出すのを見てからコッソリと教室を出て彼女の後を追う。
階段を登り始めたことから目的地はやはり屋上のようだ。
東雲は屋上へと繋がるドアを躊躇いなく開けるとそのまま突き進んで行った。
俺はそれを見計らって、事前に準備していた立ち入り禁止の看板を念のために設置してから彼女に続いて屋上に飛び出た。
「ちっ、なんだよ誰もいねーじゃん。呼び出したなら普通先に待っとけよな」
「悪い悪い、どうしてもそう出来ない事情があったんだ」
俺が後ろから声を掛けると東雲はピクリと肩を震わせてからこちらを振り返った。
そして、俺の姿を確認するなり嫌そうな表情を浮かべた。
「えっ、嘘、もしかして私を呼び出したのって同じクラスのキモオタ?」
「ああ、そうだ。ダメだったか?」
キモオタって……そう見えるかもしれないが俺は至って健全な高校生だぞ。
漫画は人並みに読むけど、アニメとかあんまし知らないし。
彼女にどう呼ばれようが、俺は別にいいんだけどさ。
「アンタってそんな喋り方だったけか?
まぁ、いいや、もちろん返事はNOだから。それにしても笑えるわ、後で皆んなに伝えとかなきゃ」
ニタリと悪い笑みを浮かべる東雲。
だが、それはこっちとしては何の問題もない。寧ろそうして貰った方がいいかもしれないな。
「別に構わないぞ、それと勘違いしてるようだから言っておくけど、これは別に愛の告白でもなんでもないぞ」
「じゃあ、何なのよ。どうせフラれたことをなくしたくてそう言ってるだけでしょ。
ああ、キモっ、マジで気持ち悪いんだけど」
彼女はそう言ってドアの方向へと向かう。
どうやら帰るつもりらしい。
だが、残念だがそんなことはさせない、というより出来なくなる。
「本当に良いのか?」
彼女はまだ止まらない。
「それならもういい、昨日の昼休みの出来事を学校中にばら撒くとしよう」
俺がそこまで言うと彼女はピタリと足を止めてこちらを振り返った。
「何それ、どういう意味よ?」
「その反応だと、心当たりがあるようだな」
「心当たり? ホントに何の話?」
上手く隠してるつもりかもしれないが、彼女は焦っている。
その証拠に、今もこうやって俺の話を聞いているのだから。
「はぁ、ここまで言わせるのか……
小藤とあんな如何わしい行為をしておいて」
そしてついに俺は確信に迫る言葉を告げた。
「っーー」
その瞬間、彼女の顔が一気に青ざめた。
「な、何で、何でアンタがそのことを……」
「驚いているようで悪いが、あそこまで大きな声を出されてたら気づかない方がおかしいって」
「くっ、……それで、どういうつもりよ」
東雲は歯をギリギリと噛み締めながらこちらを睨んだ。
「いや、どうにもこうにも、このことをクラスの生徒達にぶち撒けたらさぞかし楽しいだろうなと思っただけで特に用はない」
「脅してるつもり?
でも、馬鹿ね。そんなの証拠がないじゃない。それに誰もアンタみたいな根暗な奴のことなんて信じないわ」
「だったらこの会話を俺が録音していたとしてもか?」
俺がボイスレコーダーを胸から取り出して東雲に見せつける。
すると、彼女は更に顔色を悪くして少し後ろへとよろめいた。
「それにしても驚いたよ。まさかあの斗真大好きで有名な東雲が、敵対している小藤とそんな関係になってるとは誰も思わないだろうなぁ」
そういう俺の顔にはきっと先ほどの東雲と同様の邪悪笑みが浮かんでいることだろう。
今まで好き勝手にやってきた分だけに、多くの他の生徒達は彼女に不満を持っているはずだ。
そんな所にこの情報が渡った際には彼女が無事にすむとは思えない。
改めて自体の深刻さに気づいた彼女はここでついに交渉に出てきた。
「お、お願い、どうしたら黙っててくれる?
どうせ童貞なんでしょ、私と一発ヤラせてあげるって言ったら?」
「馬鹿だろお前。誰がそんなクソ汚れた身体を欲するって言うんだ? 自惚れもいい加減にしろ」
俺がそう告げると彼女は悔しそうに拳を握りしめた。
ぶるぶると身体を震わせていることから相当な怒りをお持ちのようだ。
そこで俺は救いの一声を投下する。
「けど、そうだな……要求なら確かにある」
その瞬間、彼女の目と俺の目が交差した。