斗真と風花② 〜side風花
「なぁ風花、俺たち仲直りしないか?」
斗真は私の様子が落ち着いてきたのを見計らってか、そんな提案を持ちかけてきた。
仲直り……ね。
恐らくは私が頷きやすいようにと、柔らかい表現を使ってくれているのだろう。
だから私は首を何度も縦に振った。
「ありがとう、でも、多分直ぐには今まで通りの関係には戻れないと思う。
それでも、少しずつ改善していくつもりだ」
「う、うん……」
しかし、私には不安があった。例え斗真がこう言ってくれたのだとしても、彼の周りにいるクラスメイト達が同じ考えとは限らないからだ。
私はあの一件以来かなり臆病になってしまった。
「大丈夫、今は他の人達が風花のことを許せないのだとしても、絶対に分かってくれるさ。それに俺も協力する。
だから安心して欲しい」
すると、そんな私の危惧していることを斗真は読み取ったのか、優しく微笑んでくれる。
やっぱりイケメンだし、優しすぎる……人として少し劣等感を抱いてしまうのは仕方のないことだろう。
「ふぅ……」
まぁ、そんなとこが好きだったんだけど……えっ、なんで過去形!?
もしかすると、許して貰ったとはいえ、心の何処かでは好きのままでいるのを申し訳なく思ってるのかもしれない。
いくら経っても、裏切った事実は消えないからね。
「どうかしたのか?」
「ううん、やっぱり斗真はどこまでいっても斗真なんだなぁ、と思ってただけ」
「意味がよく分かんないけど、それって褒め言葉なのかな?」
「そそ、ホントに褒め言葉だから。気にすんなっての」
斗真はツッコミどころの多いアイツとは違って完璧超人だから、そもそも悪く言える部分がないし。
……あれ、そういえばアイツは?
「分かったよ。それじゃあ時間もなくなっちゃうことだし昼ご飯でも一緒に食べよっか」
「そうだな……って、あっ!!」
お腹痛いからトイレ行くって言ってた。後から来るって言ってたけど、流石に遅すぎる。
それに天音さんも来てないのは可笑しい……
それらを元に、今日の出来事は彼が仕組んだものなのだと頭の中で理解した。
「ねぇ、斗真。もしかして、今日ここに来たのって碧のせい?」
「うん、その認識であってる。
俺は今日、ホントに良い友人を持ったものだと改めて感じてたところだよ。
全く関係ないことなのに気にかけてくれたりして感謝してる」
ホントにそう、ここまでしてくれる必要なんてないのに……
仲直りするのを協力するとは言ってくれてたけど、有言実行してくれたんだ。
「それにしても風花、いつの間に碧のこと名前呼びするようになったんだ?」
「えっ、あっ……」
本人が居なかったから自然に言っちゃってたんだ。
いつもなら意識してじゃないと無理だったのに……
そんなことを考えながら、少しニヤニヤとした表情でこちらを見てくる斗真を見てハッとする。
ヤバイ、これは完全に勘違いされてる!
「違うって斗真、私はアイツのことなんて……」
そこまで言いかけて、私はあることに気付いた。
あれ?、何か可笑しい……
勘違いされてピンチなはずなのに、自分の中で焦りがあんまりなかったのだ。昔ならなりふり構わず、誤解を解こうとしていただろう。
けど、今は寧ろ納得しかけていた自分がいるようで、完全に言葉に出して否定したくない、そんな気持ちがあった。
っ!?、違う、これは……
まだ病気にかかってるだけ。
だって、ほら、私は斗真のことが好き……
心の中で確認してみても、それは間違いない。でも、昔ほどの胸の高鳴りが感じられるかと言えばそうではなかった。
それに対してアイツは……
私は碧の姿を思い浮かべた。すると、不思議なことに、心臓の鼓動が今よりも大きくなった気がした。
違う違う違う!、気のせいだって。
名前呼びだって……そう、そもそもどうしてアイツのことを名前で呼びたいなんて考えたんだろ。
アイツのことなんて何とも思ってない、と言いかけながらも完全に矛盾してる。
「……まぁ、気の許せる友達だとは思ってる」
私がそう言うと、斗真は柔らかい表情で笑う。
「そっかそっか、それは良かった。
碧は本当に良いやつだから、いつかその魅力に気づいてくれる人が出てくると思ってたんだ……」
アイツの魅力……
そういえば、あの音葉って子もそれに気付いたから一緒に居たんだよな。
あれ?、もしかして、アイツって意外と人気ある感じ?
天音さんとも少し喋ってたし、それに嫌がってはなかった。
あっ、待って、今日二人とも居ないってことは何処か別の場所で二人きりなんだよね……
そう考えると、なんだかムズムズしてきた。
音葉さん?も天音さんも、二人とも私とは比べ物にならないくらい美人だし……なんかムカつく。
二人には負けたくない。
ああ、訳がわかんねぇ。なんでこんなモヤモヤしてるのよ!
私は今日の久しぶりだった斗真との昼食、嬉しいはずなのに、少しだけ早く終わって欲しいと思ってしまう私はもはや重症なのだろう。
そんな訳の分からない感情を持ったままご飯を食べるのだった。
⌘⌘⌘ おまけ ⌘⌘⌘
「それで私たちはなんでこんな場所でご飯を食べてるのかしら?」
「まぁ、アレだな。成り行きってやつだ。
誰かがここを見てないと、人が来るかもしれないし、仕方なかったんだよ」
これは斗真達が屋上で話していた時のちょっとした出来事だった。
俺と天音さんの二人は屋上の入り口の手前にあった階段で仲良く食事をしていた。
まぁ、天音さんの顔は笑ってなかったんだけどね。
「ホント最悪……玲奈さんの弟じゃなかったら絶対にしばいてたんだけどな」
おぅ、怖いこと言わないでくれよ。
マジで姉さん居てくれて、助かった……、昨日から思ってたけど、なんて言うか随分と上下関係のハッキリとした定食屋なんだよな。
部活動の先輩と後輩みたいな……
「その代わり貸し一つだから」
「利子は付けないでくれよ」
「どうだろね……」
フフフフっと、少し不気味な笑みを浮かべる天音さん。
俺はそんな彼女を見なかったことにして弁当箱のおかずを箸で掴んだ。
今日は適量で何よりだな。
体育祭の時のやつは本当に胃袋が破裂する勢いだった。結局全部食べきったけど……
ちなみに姉さんはだいぶ序盤でリタイアしていた。
そういえば、あの昼食の時、天音さんって手を挙げようとしてたよな……
それって、もしかして——
そこで俺は一つの提案を持ちかけた。
「天音さん、貸しについてなんだけど、姉さんの弁当一回分でチャラにしないか?」
「えっ!?」
「いや、別に嫌ならいいん——「その提案受け入れるわ」」
天音さんは俺の言葉を遮って即答したのだった。




