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開幕!料理選手権


「それじゃあ、時間もなくなっちゃうから、とりあえずご飯食べちゃいましょうか」


 そんな姉さんの言葉を合図に、俺たちはやっと昼食の準備を始める。

 

「はい、碧はこれよ」


「いつも、ありがとう。ホント助かってる」


「もう、何よ急に……」

 姉さんは少し恥ずかしそうにそう答えた。


「れ、玲奈さんが照れてる……」

 天音さんがそんな姉さんを見て少し驚いていたが、姉さんって普段職場ではどんなキャラなんだろうか。


「碧、今日は少し気合い入れて作ってきたんだけど、お願いだから残さないでよ」


「はいよ、分かってるって……えっ」


 姉さんが出してきた弁当は明らかにいつもより大きかった。

 いや、これは無理だろ。もしかすると大きいのは容器だけで中身は意外と……


 俺はとりあえず、両手でそれを受け取った。


 しっかりと重かった。

 それに3段くらいはある。

 

「ごめん姉さん、これ何人前なわけ?」


「一人前のつもりだったんだけど、ちょっと張り切り過ぎちゃったみたい。それで作った量に合わせて弁当箱を探してたらちょうどいいのがあったのよ」


 何が丁度いいのがあったのよ、だ。この弁当明らかにファミリー用だろ。

 昔、母さんが持ってきてくれて皆んなで食べたの覚えてるぞ。父さんも含めた4人でだけど……


「流石に無理じゃないか?」

 知り合いにフードファイターでもいたら良かったんだけど。

 もちろんいるわけもなかった。


 そんな時、天音さんが手を上げようとしていることに俺は気づいた。ん?、何か言いたげだよな……

 これはもしかして、俺の方で話を振ってあげるべきなのか?

 しかし、その思考は姉さんの言葉によって中断される。


「冗談よ、私も一緒に食べる予定だったからこれ以外に持ってきてないわ」


「なんだよ、びっくりさせるなよな」


 まぁ、二人でも多いとは思うけど、頑張ればなんとかなるはずだ。

 それに姉さんの料理は美味しいからな。


 俺が再び天音さんの方を確認した時には、どうやら諦めてしまったようで、手を完全に下ろしてしまっていた。


 それに天音さん、何処か落ち込んでないか?

「ああ、玲奈さんの手料理が……」

 


「うわっ、凄っ!?、これ全部一人で作ったんですか!?」


 俺が弁当の蓋を開けると、そこには手の込んだおかず達がずらりと並んでいた。

 それを横から覗き込んできた東雲が興奮した様子で姉さんに絡みにいく。


「そうよ、結構時間はかかっちゃったけどね。

 風花ちゃんは普段料理したりする感じ?」


「いや、それが全くって感じです。しなきゃなと思ってはいるんですけど……

 あっ、でも目玉焼きなら作れます」


 いや、それは胸張って言えるようなことじゃないだろ。

 俺でも作れるわ。


「そ、そう……音葉ちゃんはどうなの?」


 姉さんも少し反応に困った様子をみせてから、今度は音葉の方にぶん投げた。


「実は、私もあんまりなんです。最近はお手伝いさんに来てもらって作ってもらうことが多くて……」


「ちょっと、音ちゃん」


「あっ、……」


 歌織さんが小声で注意をしたことで、音葉は自分の失言に気づいたようだった。

 まぁ、普通の家にはいないわな。


 それにしてもお手伝いさんか……

 もしかすると、美里さんが辞めた後は作業を分担させてるのかもしれない。


「で、でも綺麗な卵焼きは作れます!」


 いや、強引だな。おい……

 それになんでちょっと東雲と張り合ってんだよ。


 どっちにしろレベル的にそんな変わらないだろ。


 しかし、そんな俺の考えとは違って東雲はかなり悔しそうな顔をしていた。

 まぁ、とにかく二人とも料理は出来ないってことは分かった。想像はついてたけど……


「お手伝いさんって、家政婦的な感じよね?」

 

「そうです。うちは母子家庭で、母は毎日仕事で忙しいので家政婦さんに来てもらってます」


「もしかして、音葉ちゃんと歌織ちゃんって何処かいいとこのお嬢さん?」


「いえいえ、私なんて全然普通ですよ」


 そう言いながら、音葉はお弁当をさりげなく鞄の中に隠した。

 チラッと見えたのだが、いかにも弁当箱からして高級感が溢れていた。きっと中身も凄いのだろう……


「そうなんだ。

 まぁ、音葉ちゃんがしてないなら、歌織ちゃんもまだだよね?」


「いえ、そんなことありませんよ。

 私、だらしなくて生活能力皆無のお姉ちゃんとは違って、家事全般は得意なんです。弁当だって自分で作ることが多いんですよ!」


 ここぞとばかりに饒舌になった五十嵐さんは音葉に容赦のない一撃を浴びせる。

 大人気ねぇ……実年齢22歳で音葉より6歳も上だろ。

 ああ、でも彼女も結構溜め込んでたから、仕方ないのかもしれないな。


 そもそもこうなったのは音葉のせいだし……


「凄い!歌織ちゃん、本当に偉いわね。お姉ちゃんも負けてちゃダメよ」


「私だってやれば出来るもん……」

 少し涙目になってそう呟いた音葉は凄く可愛らしかった。


「まぁ、今は男性でも料理はある程度出来ないと困る時代にはなってきてるけどね。ねっ、碧!」


「イェスマム!!」


 ハッハッハー、そんなの当然だろ。一般常識だ一般常識……


「ほんと返事だけはいいんだから。

 最後は雪ちゃんだけど、まぁ、雪ちゃんは絶対に出来るよね?」


 姉さんは確信を持って天音さんに問いかけた。

 彼女はそんな質問に対して、かなり控えめ気味に頷く。


「そこまで上手くはないですけど、基本はひと通り出来るつもりです。でも、玲奈さんはどうしてそう思ったんですか?」


「だって雪ちゃん完璧主義だから。

 多分だけど一人っ子か、もしくは長女よね。それにスケジュールは分刻みで行動するタイプ、後は意外と可愛いものが好きとか?」

 

 どう?、合ってるでしょ!と姉さんは笑った。


「す、凄い……なんで分かるんですか?」


「さぁ、なんででしょう!」


 やはり魔女はなんでもお見通しのようだった。

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