来訪者 〜side 風花
律真のお姉さんと出会って、あまりの可愛さに衝撃を受けた後、まさかの天音さんと知り合いだったという事実も判明して私の頭の中はプチパニック状態だった。
そして、その上にこの場を更に掻き乱す女が現れた。
それは突然の出来事だった。黒い帽子を被った女が私たちの目の前に颯爽と現れて昼食を一緒に食べたいと言ってくる。
何なのよこの女……
誰かの知り合い? とにかく私はまったく知らない人だった。
そして律真のお姉さんに、説明を促された女は身につけていた黒い帽子を外すと、その姿を私たちの前に曝け出した。
私はその容姿に思わず息を呑む。
何なのよ、この美少女は……
まるで別次元から飛び出してきたような顔の造りだった。
律真のお姉さんも相当美人で、大いに驚かされたのだが、彼女はそれと同等以上かもしれない。
二人のタイプが違うから判断しにくいのが本音だった。
テレビで見てるアイドルとかを実際に見たらこんな感じなのかな?
いや、絶対にそのレベルも超えてる気がするんだけど……
それで名前の方はというと、鈴凪 音葉というらしい。
随分と可愛らしい名前じゃん。名前まで可愛いとか普通にズルい。
私の風花だって負けてねーし。
それにこの女、今なんて言った?
律真の友達?、それに碧って下の名前で呼んでたんだけど……
私ですらまだ名字呼びなのに、一体どんな関係なのよ。
チラリと律真の方を確認すると、先ほど吹き出したお茶を慌てて拭いていた。
本当に彼にこんな可愛い友達がいるのだろうか?
だって学校では女の友達どころか男友達も殆ど居ないような存在だぞ。
一体どこで知り合ったんだろ?
も、もしかして、あの時の連絡相手って実はお姉さんじゃなくてこの女!?
その時から、この女は私の敵なのだと認識した。
別にこれは律真をとられそうで怒ってる訳じゃない、なんだかこの女が気に食わないだけだ。
もう一人の女性の方はその妹さんみたいだが、可愛いとは思うものの、この音葉という女性には到底敵わないだろう。
姉妹という割には余り似てない気がするけど……
それにしても、この妹さんどっかで見たことあるんだよなぁ。
それも割と最近で……あっ!
私が律真を偶然見かけた(尾行してた)ときに、あのお店の前で出会った人だ。
そう思いながらも確証はなかったので、あの時の女の人と、少し状況を濁して聞いてみた。
すると、向こうも私を思い出したようで、怪しい人だとかなんだとか言ってくる。
あながち間違ってはないと、自分で思ってしまったため言い返すことは出来なかった。
でも、確か彼女の妹だって言っていた歌織さん、前にあった時は22歳って言ってたような気がするんだけど……
そして、今目の前にいる音葉とかいう女性は明らかにその年齢に達していないことが分かる。
まぁ、歌織さんのような例があるわけなのだから、実はそれ以上の年齢でしたって可能性もあるのかもしれない。
そう考えて始めていた時に、律真の友達疑惑の女が口を開いた。
「強がりなんです。妹は少し負けん気な性格で、よく背伸びしちゃうタイプなんです」
なるほど、事実はその逆だったのか。
22歳というのは歌織さん、ううん、歌織ちゃんの嘘だったようで自分を大きく見せようとしていただけだった。
これで全て納得出来た。
それにしても自分を大きく見せようとするその姿勢は何処か微笑ましいな。
私も小さな頃によくしてたっけ……
それから律真のお姉さんの名前が玲奈だということを知り、天音さんとの関係も教えてもらった。
それは世の中、広いようで狭いのだと、思い知らされる出来事だった。
ん、ちょっと待って、今更だけどこの集団の顔面偏差値マジで高すぎない!?
ふと、周りを見渡してみると、いろんなタイプの美人がズラリと並んでいる。
この学校中の女子生徒全員を対象に投票を行い、そこに彼女達が加わった姿を想像してみた。
ああ、これは全員トップ10は確定だわ。
そして、恐らく優勝するのはこの憎き女か、もしくは玲奈さんのどちらかだと思う。
天音さんも決して負けていないとは思うが、私の感性を基準とするのなら勝てない。
それほどに二人のインパクトは強かった。
私、それなりに見た目には自信があった方なんだけどな……
正直、今は女としてのプライドがズタボロにされた気分だ。
まっ、そこは律真が中和してくれるだろう。
まさか、この髪の下にある顔が、イケメンなんてことはないだろう。
なんていうか、ある程度はオーラで分かるのよオーラで!
でも、お姉さんがここまで凄いのであれば、もしかすると……いやいや、流石にないって。
それより、さっきからずっと気になっていたことがある。 律真に馴れ馴れしく接していた女が私の方を凄い顔で見てくるのだ。もしかして喧嘩でも売られてる?
まぁ、売ってないのだとしても、どのみち私が勝つ。それに彼女を見ているとなんだか無性に張り合いたくなってくるのだ。
見た目が少し良いだけのくせに……
女は見た目じゃなくて中身が大事なんだから。
私は一度失敗してしまってる、だからこそ今から挽回していくしかないわ!
この時、私は律真の連絡先をなんとしてでも手に入れる、自分の心にそう誓った。
いや、てか、なんの勝負だよ……




